禁じられた書物
☆
昼休みに入り、いつものメンバーも勢ぞろい。もう見慣れたというか、席も決まっちゃうよね。
俺の隣には音葉。そして正面には木戸と尾竹先輩が座っていた。
「先日の魔術体験を終えた後、拙者は色々と調べたでござる」
「何をですか?」
「当然。魔術についてでござるな。おかたんの一員として、やはり実物を見た以上は自分でも使ってみたいと思うのがサガでござるよ」
中二病である。まあ、俺も制御は下手だけど使っている時は少しだけワクワクするもんな。
「ちなみに使う方法はあるのですか?」
「一番有名な所だと『ネクロノミコン』という書物を使った魔術でござるな」
ネクロノミコンってクトゥルフ神話とかに出てくる本だっけ?
「都市伝説に近いものでござるが、ネクロノミコンは存在する書物と言われているでござる」
「名前は有名よね。ちなみにウチの博物館では一時期クトゥルフ神話展をやったことがあって、ネクロノミコンキーホルダーとか売ってたわよ」
そう言って空腹の小悪魔のキーホルダーを見せる音葉。うん、例えの為に空腹の小悪魔のキーホルダーを出したんだと思うんだけど、例えが悪いよ。
「ねくろのみこーんってなんだ?」
木戸が聞いた言葉をとりあえず覚えている範囲で言って質問してきた。なんか緩いキャラクターみたいな名前になったな。
「空想上の本で、そこには色々な魔術が書かれているって言われているんだ」
「マジかよ。てか狩真何で知ってるの?」
「ファンタジー物のゲームとかではたまに出て来るんだよ。伝説の書物とか隠しアイテムとかで」
「へー。じゃあ現実でもし本当に存在するならヤバイじゃん」
その言葉を聞いた尾竹先輩は立ち上がった。
「ヤバイで済む話ではないでござるな。その書物には不老不死や蘇生。ありとあらゆる魔術が記載されているのでござるよ!」
ふんすっと鼻息を荒くする尾竹先輩。その先輩に音葉は質問した。
「シュールストレミングの臭いも消せますか?」
「無理ではないでござろうが……規模がちっさいでござるな」
よほど先日の事件がトラウマなのだろう。
「ネクロノミコンはどこかの世界のどこかに存在していると言われているでござる。見つける方法は無く、偶然見つけるか、ひたすら発見した現場を探るかの二つしか無いでござるな」
「偶然見つけるって……本に足が生えてるのか?」
木戸のその言葉に尾竹先輩は顔を近づけて言った。
「意味不明な本でござる。本に足が生えててもおかしくないでござるよ?」
「マジかよ。もし見つけたらトラウマになりそうだな」
苦笑する木戸。俺は音葉にお願いをしてキーホルダーを借りた。
「これ(空腹の小悪魔)よりは目に優しいと思うが?」
「その通りだな。隙間とかにいるんじゃないかと最近暗い場所が怖く感じるぜ」
俺の家のクーちゃんは紹介できないな。あれ、クーちゃんの事だんだん可愛く感じてる?
昼食を食べ終えて方付けようと思ったら、マリー先生が歩いてきた。
「あ、見つけた。ちょっと良いかしら?」
「マリー先生、何か?」
「ちょっとワタクシの研究室に来て欲しいんだけど」
唐突なお誘いに驚くと、隣に座っていた音葉が立ち上がった。
「待ってください。ウチも行って良いですか?」
「へー、ふーん、ほー?」
「な、なんですか?」
「いえ、別に。来ても良いけど、あっちの世界の話をするから、つまらないわよ?」
「構いません。友人が大変なことになっているなら、一人くらい年齢が近い相談役がいても良いと思います」
「そう。まあ、こっちにはフーリエやワタクシもいるし、多少知っていても大丈夫よね。じゃあ一時にワタクシの研究室に来て頂戴」
そう言ってマリー先生は去って行った。
「ふう、顧問の先生だからある程度信用しているけど、なんか怖いのよね」
「えっと、音葉って最初に会った時、おとなしい人だと思ったけど、結構グイグイ行くタイプなの?」
「へ!? いや、別にグイグイと行くタイプじゃないし、友人が困っていたら助けたくなるのは普通じゃん!?」
「あ、いや、絶対に問題にしかならないことがあるのに、自分から首を突っ込むタイプなんだなーと」
その瞬間、後ろから木戸が肩をポンと叩いてきた。
「まあ、頑張れ」
「友人……はあ……まあまだ一週間でござるしな。あ、そろそろ拙者はドロンでござる」
え、何!?
☆
「いらっしゃい……え、どうして音葉は目が死んでいるのかしら?」
「なんでもありません」
マリー先生の研究室に行く途中、音葉はあまり話してくれなかった。俺、何かしたんだろうなー。
「あー、うん、わかったわ。これは本人たちだけで解決しなさい」
「なっ! 先生、まさかウチの!?」
「ごめんなさい。でも許してちょうだい。ワタクシはちょっと特殊で、常に『心情読破』を使っている状態なのよ。不可抗力よ」
音葉の心を読んだのか、音葉は顔を赤くしていた。え、一体何を読んだんだろう。
「狩真は絶対に音葉の心を読んだら駄目よ。乙女心というのは鉄壁なのよ」
「はあ」
よくわからないが、まあプライバシーはあるからね。
「あー、もう、とりあえず良いです。狩真は友人なので! 異世界についてはマリー先生が一番知っているかもしれませんが、友人として一番最初に相談できる相手としてウチは接しますよ」
「あ、う、うん。ありがとう」
ジッと目を見る音葉。ちょっと照れるな。
「そ、それで、一体何の用ですか?」
「ちょっと探してほしい本があるのよ」
「本?」
そう言うと、マリー先生は一枚の写真を見せた。そこには一人の男が不気味な笑みを浮かべていて、手には大きな本を持っていた。
「禁書『ネクロノミコン』という本を探してほしいのよ」
「ネクロノミコンって昼休みに話していた本?」
「あら、まさか音葉が知っているとは思わなかったわ」
「いえ、偶然昼休みに尾竹先輩が話していたので」
「尾竹が? どんな会話をしていたのかしら?」
軽く昼休みに話していた内容をマリー先生に話した。
「そう、まさかこの短期間でネクロノミコンに辿り着くとは思わなかったわ。まあ、手が増えたと思えば良いかしら」
「手が?」
「この本は尾竹の言う通り、どこにあるかわからないの。唯一確かなのは、地球かミルダ大陸のどちらかにあるということだけよ」
ミルダ大陸……夢の世界の大陸のことだよね。
「地球では色々な手法を使って探しているわ。一方で、ミルダ大陸にネクロノミコンがあった場合、探す方法は無いの。と言う事で、あっちの世界で探して欲しいの」
「探すって言っても、どうやって?」
「マオかフーリエに言えばざっくりと探してくれるわ。一番はクアンに相談できれば良いのだけど……」
魔術研究所で凄い頭が良い人って教えて貰った人だよね。
「クアンって人なら以前手紙を貰って、俺に会いに来てくれるらしいので、その時に聞いてみますか?」
「クアンが狩真に会いに来てくれる? それって何故?」
「同じ地球出身だからお話したいって手紙に書いてありました。何か問題ですか?」
俺の質問にマリー先生は少し考え込んだ。
そして。
「音葉、悪いわね。やっぱりちょっと彼に危害を加えるわ」
「へ?」
その瞬間、俺はありえない速度で眠くなった。
視界がグラっと揺れ、全身からあらゆる力が抜けた。そんな感じだった。
☆
「うああああ!?」
目覚めると、宿屋の布団から起き上がっていた。どうやら寝たのだろう。一体何故マリー先生は俺を眠らせたのかわからない。
「予定通りと言うべきか。考えを読まれていたと言うべきか。流石はマリー女史。『クー』にはそこまで想像がつかないな」
部屋は暗く、外はまだ夜だった。ミルダ大陸では基本的に夜は寝ているため、この光景を見るのはあまりない。
そして、聞きなれない声が聞こえた。
そこには栗毛の小さな女の子が椅子に座っていた。片手に小さな本を持っていて、目は店主さんに似ていて真っ赤に光っていた。
「手紙以来の再会だ狩真少年。クーはクアン。同じ地球出身として仲良くしようではないか」




