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決闘


 魔術研究所の館長と同じ名前。

 まあ、世界は広いし、同じ名前の人の一人や二人、いるよね。


「……あー、うん、ごめん」

「明日から野菜弁当確定です。残さず食べてください」


 おおおおおおおおお!?

 まさかの三大魔術師がここに二人いるの!?

 え、周囲にこの話聞かれてない!?


 焦って周囲を見たが、まるで俺たちには興味が無い感じでいつも通りのギルドの風景が広がっていた。

『魔力お化けが最初から『認識阻害』を使っているからじゃのう』

「あれ、セシリー? てことはシャトルが帰ってきたの?」

「手紙を書いて出して来たわよ。それよりパムレちゃんが凄く店主殿に説教されてるけど、何があったの?」

 え、俺の口から言って良いの?

「はあ、カルマ様はもう感づいていたと思うので白状しますよ。そうです、ワタチが三大魔術師の一人、魔術研究所の館長のフーリエです」

「ええええええ!?」

 驚くシャトル。いや、今思えば納得ができる。凄い人かもとは思っていたけど、そこまでの地位の人かは正直想像していなかった。

 だが、ガラン王国の姫の専属受付として王家の人間から直接依頼を受けたって言ってたし、三大魔術師のマオとも仲が良い。

「魔術研究所の館長って事は、その研究所で働いてるんですよね? ギルド運営なんかして大丈夫なんですか?」

「地球のワタチと出会っているならスッと納得できると思いますが、ワタチは見ての通り『ドッペルゲンガー』です」

 いや、どこをどう見てもドッペルゲンガーには見えない。

「この大陸にはワタチと同じ姿で記憶を共有しているワタチが沢山います。その内の一人が魔術研究所の館長をしています」

「まさかの本当に『ゲームキャラでベースキャンプに絶対いる同じ人』的な人だったんだ! 本当に存在するんだ!」

 しかもギルドの受付をしている人でしょ?

 身近な存在が強キャラってどんな設定だよ!

 俺が混乱していると、シャトラが話をまとめた。

「えっと、つまり、店主様の正体は三大魔術師の一人だったということですか。ちなみにフェリーは知ってた?」

『口封じされてたー。あと姉上久しぶりー』

『フェリー!? 何故魔力が無くなっている!?』

 久しぶりの再会なのに悲壮感たっぷりな精霊達。というか、シャトルとシャトラは既に会ってたのに、見えないところで精霊達は再会してたと思ってたけど、召喚されないと会えないのかな。

「ということで、このことは極秘でお願いします。守ってくれたら美味しいおかずのおまけが付いてきます」

「とても良い条件ね。乗ったわ」

 いや、確かに店主さんの作る料理って美味しいから、良い条件だと思うけど、おかずを条件に大陸の秘密を他言しないって、割に合わなくない?

「では店主様。シャトラに魔術を教えてください! 魔術けんきゅ……こほん、そこに携わっている方なら、シャトラの魔力の制御もできますよね?」

「それはできません」

「何故!?」

 あっさりと断った。そりゃ、記憶を共有している状態で魔術研究所の館長もやってるんでしょ? 忙しいに決まっている。


「食堂の運営って結構大変なのに、さらにガラン王国の姫様の担当受付を行いながら魔術を姫様に教えるなんて器用な事できませんよ。今ワタチが一番欲しいのは有給休暇です」

「すげー現実的!」


 社会人かよ!

 いや、食堂運営しているから社会人かもしれないけど!

「それに、シャトラ様の魔力は特殊です。もしもシャトラ様がワタチを倒して三大魔術師になるのであれば考えなくもないです」

 その言葉にシャトラは椅子から立ち上がった。


「倒せば良いのですね。では決闘です!」


 ☆


 少し暗くなって『寒がり店主の休憩所』の営業も終わるころ、街から離れた平原に俺たちは集まった。

「店主殿が街から出るのを見たのって初めてかも」

 驚くシャトル。そっか、俺は地球の店主さんを見てたから違和感を感じなかったけど、こっちの店主さんは違うのか。

 俺たちから少し離れた所でシャトラが立っている。火の精霊フェリーはどうやら回復したらしく、シャトラの周りをグルグル周っていた。

「と言うか店主殿は大丈夫かしら。はっきり言って妹は制御ができないだけで一発は強いと思うけど」

「確かに。一瞬で熊の魔獣を倒したんだよな。しかも家出で一度魔術を使った後だから、全力ではなく余力でってことだよね」

 一瞬で焼け野原にしたシャトラの炎。一方で店主さんの魔術は地球で器用に風と火を操る姿しか見ていない。

「遅くなりました。さて、始めますか」

 そう言って店主さんがやってきた。

「……一応何かあった時はパムレが止めるね。じゃ」

 そう言って俺の隣に来るパムレ。え、大丈夫なの?

「……まあ、見てて」

 俺の心を読んで答えるパムレ。うん、とりあえず見てるか。


「勝負はマオ様が止めるか、降参を言ったらで良いですか?」

「構いません。さっと終わらせて帰りますよ」

「舐めないでください」

 その言葉の瞬間、凄まじい火柱がシャトラを中心に発生した。熱気が離れた俺たちの所まで届いて来る。

「一瞬で決着を付けさせていただきます。『獄炎』!」

 そしてシャトラは熊を倒した時の魔術を放った。魔獣を倒した時よりもさらに強い火力に思えるほど熱が伝わってくる。

 放たれた炎は店主さんに向ってまっすぐ突き進み、ギリギリのところで避けた。

「フェリー、剣で行きます!」

『はーい』

 掛け声とともにフェリーが形を変えて、剣の姿になった。それを持ち、シャトラは店主さんに向って切りかかった。

 と言うか火の精霊を剣に変えて攻撃って格好良くね?

「てええええ!」

「剣術はガラン式ですね。でもまだ弱いです」

 避ける店主さん。あんなに身軽に動けるのか。

「さっきから、よけて、ばかり!」

 確かに。店主さんは一切攻撃をしていない。

「ワタチの攻撃は『精霊』にとって苦痛をもたらすのです。だから躊躇っているのですが……まあ、一度くらい良いでしょう」

 その瞬間だった。


『ぬああああああああああああ!』


 俺の隣で悲鳴が聞こえた。悲鳴を出したのはセシリーだった。

「ど、どうしたの!?」

『悪魔店主、それは……駄目じゃ!』

『姉上と同じくー、ちょっときついー』

 苦しむ精霊。そしてシャトラの右手の剣は、スッと消えてしまった。

 一体何が起こってるのか、理解できなかった。


「ワタチの特技の悪魔術は精霊の魔力を食らいつくすのです。精霊の補助を主軸にした魔術ではワタチに勝つことは一生無理です。さらに言えばワタチは避けていたのではなく、隠れて摂取していただけに過ぎません。シャトラ様が魔術を使えば使うほど、ワタチの悪魔術は強化されます。それに早く気が付けば、奇跡的に勝てたかもしれませんね」


 そして、店主さんの悪魔術が


 大きな音を出して、


 放たれた。


「な、なんだあれはあああああ!」


 思わず声が出てしまった。


 地面からタコのような足が五本。その内一本に店主さんが座っていた。

 大きさはざっと見て東京タワーくらい大きい。それが五つ並んでいる。

「……狩真は心配しすぎ。『あの』フーリエも強いけど、全力じゃない」

「あの?」

「……フーリエはドッペルゲンガー。『悪魔のフーリエ』は制限がモリモリの状態だけど、『人間のフーリエ』はそれすら簡単に超える。あのタコの足五本で国一つは簡単に滅ぼすことができるよ」

「一つ質問」

「……ん?」

「一つの国って言うのは、ミルダ大陸にある国? それとも地球?」

 その質問の答えは、予想通りというか、予想通りであって欲しくないものだった。


「……地球だね」

 

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