シュールな泥棒物語
☆
沢山の人だかり。
数台の救急車。
そして今まで感じたことの無い悪臭。
「臭いでござる! これは紛れもなく『シュールストレミング』でござるな!」
え、シュールストレミングって部室塔全部に影響するほど臭いが飛ぶの?
「田崎。これについて説明しろ」
「いや、説明と言われても」
「とぼけるな。貴様の後輩が言っていた。田崎に言われて持ってきたブツをぶっ壊したらこうなったと」
「ま、待ってください。シュールストレミングをぶっ壊すなんて言ってませんよ!?」
そりゃそうだよね。となると心当たりは一つ。
(木戸、お前の妹はシュールストレミングを持たせたのか?)
(もしかしたらあの弁当の包みの中にはシュールストレミングが入っていたのかもしれない)
なんという妹だ。もしも食堂でシュールストレミングが開封されたら俺の大学生活は大変なことになっていたぞ?
「ねえねえ狩真。さっきセレンちゃんにチャットを送ったんだけど、返事が来たよー」
「チャット?」
「うん。もしかして木戸にシュールストレミングを持たせた? って率直に聞いたの。そしたら『今日、確実に兄の弁当箱が狙われるので、兄の邪魔をする輩を一掃するために犯罪にならない程度のお仕置きをさせていただきました』だってさ」
「確信犯じゃん!」
いやいや、待てよ?
そもそもどうやって今日木戸の鞄が漁られるって知ったんだ?
と、そんなことを思っていたら俺のスマホが震えた。宛名は『セレン』。
『いつも遠くから見てます。狩真さんは兄の一番の親友であり、ワタクシが一番信頼している人なので、こっそり教えますね』
カメラでもあるのかよ!
どこだ!?
「おい狩真。さっきからキョロキョロして何だ?」
「ああ、いや。何でもない。それよりもこの惨状はどうしたものか」
サッカー部の部室から次々と学生がタンカーで運ばれていった。どうやらあまりの臭さに転んで頭を打ったり、呼吸困難で倒れたみたいだ。
「さあ田崎。何か言い分はあるか?」
「待ってください先生。た、確かに俺は木戸の才能を妬み、鞄を漁るという行為をさせて、後輩たちに破壊を命じましたが、それがシュールストレミングだったとは思いませんよ!」
「だそうだが、木戸。お前からの言い分はあるか?」
その質問に木戸は答えた。
「常識的に考えて、学校にシュールストレミングを持ってくるわけないでしょう。なに無理やり僕の名前を出して巻き込もうとしているんですか?」
「おまえええええええ!」
「だまれええええええええええええええ!」
田崎先輩の叫びを超える先生の声に遮断された。
「はっきり言おう。学校にシュールストレミングを持ってくる者なんて普通いない。俺の推測では単純に興味本位で学生同士が集まってシュールストレミングを空けたのだろうな。だが、固い缶詰を普通に開けるのではなく叩いたり壁にぶつけて周囲に悪臭をまき散らしたと思われる。隣の民家からもクレームが来る。この後始末はどうする?」
「いやだからこれは木戸の弁当で!」
「シュールストレミングが弁当なわけあるか!!!!」
ちなみに音葉は今のツッコミに耐え切れず、俺の背中に隠れて笑いをこらえていた。そしてその光景を尾竹先輩が見て、右手のポスターブレードを握りしめている。
「そうだ! 包みだ! 包みが木戸の家の物だって証拠になる! そもそも包みに入った状態で壊したからこんな被害が出たんだ!」
なるほど。シュールストレミングは缶詰だ。誰がどう見ても弁当箱には見えず、わかる人ならそのまま壊そうとしない。つまり、中が見えない状態で破壊行為に出たということだ。
「木戸、これはまずくないか?」
「ああ、だが僕では無いと言い切るしか……先輩が戻ってきた」
そして悪臭の最中、田崎先輩は包みを持ってきた。それにはべとべとの液体がまとわりついていて、もはや包みかどうかわからない状態だった。そしてあまりの悪臭に吐き気が迫ってくる。
というかあれは包み?
俺の想像する包みって正方形の布だと思うんだけど、取っ手部分のような穴があるけど、その割には三個以上穴があるような?
「ほへへふ!(これです!)」
鼻をつまみながら先生に渡す。と、一緒に見ていた音葉がぼそっと言った。
「あれ、下着じゃん……」
先生が布上の物を広げていくと、複数の女性用のパンツが結ばれていた。まるで手品師が口から複数のハンカチを次々と出すような感じに結ばれている。
「木戸、もしかしてあれ……」
「お前なら例の能力を使えばわかるかもしれない。僕が許すからじっくり見てみろ」
「う、うん」
よく見ると物の名前が分かる能力を使って見た。
『セレンの下着』『セレンの下着』『セレンの下着』
とんでもない爆弾がそこにあった。
と、同時に俺のスマホが震えた。おそらくセレンからだ。
『非現実的な物を出すことで、相手はさらに社会的に死ぬ。そして兄は無実という状況を作りました。兄をいじめる人は男性女性問わず許しません。生涯残る傷を残すのも妹の役目です。ワタクシのパンツで兄のサッカー人生がより良いモノになるなら惜しみなく出します』
バーサーカーであり最強の守護神だなおい!
「木戸お前、鞄にパンツとシュールストレミングを仕組んでいたのか!」
その声に木戸は思いっきり返した。
「パンツとシュールストレミングを鞄に入れる大学生がいてたまるか!」
なんというシュールな掛け合いだろう。
「シュールストレミングなだけにシュールだね」
「今それ俺も思った」
そんなやり取りを音葉としていたら、先生が手を二度叩きまとめ始めた。
「えー、サッカー部員はこれから職員室に来るように。場合によっては女性の下着を窃盗したとして警察に突き出す。それとシュールストレミングに関しては近隣住民への賠償金も絡むから覚悟しろ」
「ちょっと待ってください! 俺は何も!」
「何もしてない。そうだな。お前は何もしていない。だが、他の者はお前に命令されたと皆口々に言った」
「なっ」
そして田崎先輩はその場で膝をついた。
☆
「いらっしゃいま臭! ちょっと、ワタチの店に変な臭いを持ち込まないでください!」
店に入ったらひどい接客を受けた俺たち四人組。サッカー部が問題を起こしたとの事で、サッカーの部活動は本日休みになり、数少ない頼りの綱である店主さんの店で臭いが消える薬が無いか尋ねてみた。もちろん提案者は尾竹先輩だ。
ちなみにここへ来るまで何度知らない人から臭いと言われたことだろう。音葉の目からどんどん光が消えて行くように見えたけど、病んでない?
「直接触れなかっただけなのに残り香に触れていただけでこの臭い、さすがでござるな」
「ということでオカルトショップなら究極な臭い消しが無いかなと思い来ました」
「臭い消しですか。まあ、無いわけでは無いです。例えばこれ」
そう言ってスプレーを渡してきた。一見普通のスプレーに見えるけど?
「見た目は普通のスプレー缶で、ボタンを押すと火が出るガスバーナーです」
「あぶねえ!」
急いで尾竹先輩に渡した。
「あの、どうして拙者?」
「いや、一番安全に扱ってくれそうかなと思ってですね? 信頼しているからです!」
実際は音葉には渡せないし木戸も友達だし、一番俺の心が痛まない人に渡したーなんて口が裂けても言えない。
「そ、そう言われたら仕方が無いでござるな。しかし店主氏。これでは拙者の限定品シャツが燃えてしまう。汚れを落としつつ臭いを消す類の物は無いでござるか?」
「普通に漂白剤と洗剤じゃ駄目なんですか?」
ごもっともな反応。
「うむ、拙者もそう思ったのでござるが、どうやらシュールストレミングは洗剤で簡単に落ちそうに無いでござる。早急に臭いを消すかつ物を残す方向で考えているでござるよ」
「そんな非現実的な物を求めてワタチの店に来たのですね。はあ、消すのは無理ですが薄めることくらいはできますよ」
「本当に!?」
音葉が飛びついた。
「く、臭い臭い! 離れてください!」
「早くこの臭いを消したいのよ! どうやるの!?」
「分かったから離れてください。はあ、ちょっと生臭い感じは残りますが、それくらいなら漂白剤で落ちるので我慢してくださいね」
そう言って、店主さんは躊躇なく召喚した。
空腹の小悪魔を。




