バーサーカー
☆
「ふむ、三大魔術師マオという強力な存在と協力関係になったと。そして魔獣がギルドの想定していたものよりも規模が大きく、危うく死にかけたと。なかなかファンタジーなお話でござるが、狩真氏にとっては現実でござるのだろう?」
一通り話し終え、セレンが準備してくれたお茶を飲みながら答えた。
「ざっくりと話すとそんな感じです。魔術に関しては上手く制御がまだできないので、この場では出さないようにしますが、いつか小さな氷を出して見せますよ」
「にわかには信じられないけど、あの洗面台を見る限りでは本当だろうし、やっぱり狩真の状況を考えると早くその『グールの首飾り』を壊す方法を見つけないとだめかもね」
「うーん、でもその前に夢の中で出会ったギルドの受付……宿の店主さんからの依頼を終わらせたいかな」
「さっき話していた、息子を探すってやつか?」
店主さんの息子さんは千年以上前にレイジという人物に狙われて以降、行方不明となった。本来千年となれば人間が生きていける時間では無いが、夢の中の世界の人間の平均寿命はもしかしたら長いかも? とか思い、そこまで深く考えなかった。
「このことはオカルトショップの店主さんやマリー先生は知っているの?」
「うん。というより、俺が話すよりもすでに知っていた感じかな。どうやらマリー先生も夢の中の世界に行ったことがあるっぽいんだ」
「ほほう。だからあの『オカルトショップ寒がり』の事も知っていたのでござるな。少し怪しいと思ったのでござるよ。あの美女が怪しげな店を知っているとは思わないでござるー」
その瞬間だった。
セレンは一瞬で尾竹先輩の首元を掴んで睨んでいた。
「美人な先生ですか? その先生は……兄とはどういうご関係で?」
「かっかっ……何も無いで……ござる……」
「そう、ですか」
うかつだった。俺はあらかじめ注意しておくべきだった。
いつも真実を言わずに心の中で『バーサーカー妹』なんて思っていただけで、本当にヤバイ人間だとは言っていない。
「せ、セレン! 尾竹先輩に謝れ!」
「はて、セレンは悪い事をしていません。兄の周りに怪しい女性の影があるのなら、排除するだけです。痕跡は残しません。この世界から消す。絶対に兄は渡しません」
「ひい!」
そう言って俺の背中にまた隠れる尾竹先輩。恐ろしさのあまり恐怖で震え
「ブラコンでヤンデレな妹……かなりコアな属性に拙者は感動でござる。リアルで攻められるとガチで恐怖でござるが、傍観する分には本当に尊いでござる」
うん、そんなにヤバくなかった。
「はあ、木戸。ウチに任せて」
「へ?」
そう言って音葉はセレンを抱きしめた。
「お兄ちゃんはどこにも行かないわよ。部活の時だっていつもウチ達に妹の自慢をしてくるのよ? それにウチも初めてセレンちゃんと会ったけど、こんなに可愛い妹がいたら、他の女の子は目に入らないわよ」
「おいふごっ!」
俺は全力で木戸の口を塞いだ。うん、妹自慢なんて一度もしたことないよな。だが許せ木戸。おそらくだが、今後のセレンの為にも耐えろ。
「おにい……ちゃんが、セレンの自慢を?」
「狩真氏。さっきも聞いたでござるが、セレン嬢はたまに『お兄ちゃん』と木戸氏を呼ぶでござるよな! 聞き違いでないでござるよな!」
「木戸先輩は俺の背中で黙ってください」
ぶち壊して来るなよと思いつつも、この人は先輩だ。
「あ、ああ。そうだな、自慢の妹だからな」
「わ、わかりました。そのマリー先生という方もとりあえず保留にします」
そう言うと、音葉の腕の中からゆっくりと抜け出して、ニコッと笑顔を浮かべた。
ふう、危うくこの町で不可解な事件……というか、殺人事件が発生するところだったよ。いや、冗談じゃ無く本当にね。
「こほん。それにしてもオカルト探求部というのが兄の所属しているサークルとのことですが、なかなか興味があります。話の内容は非現実的なのに、どこか現実味がある。まるでそれ以上知ってはいけないことに触れようとしているような感覚すら覚えます」
「流石セレン嬢でござる。それこそ我がおかたんの最終目的でござる。オカルト探求部は様々なオカルト……いや、本来ありえない現象や異世界と呼ばれる物をこの地球で調べつくし、そして『世界の理』を見つけ出すのが目的のサークルでござる」
「世界のコトワリですか?」
「古の時代、この地球は平面だと唱えていた人がいたでござる。が、実際この地球は丸い。それは間違い無いでござる。しかし、こことは異なる世界がもしも存在していて、その人はその異なる世界に行き、実際に平面だという事実をしっかりと発見していれば話は変わるでござる」
「いや、平面な世界もあるということですよね?」
「そう。地球は丸い。そして別の世界は平面の世界もある。さて、そういう世界はどういう原理で世界が動いているでござろうか」
「普通に太陽系とか、水があるからーとかじゃないの?」
「科学の話では無いでござるよ。平面な世界が存在するなら四角の世界も存在するかもしれない。そう言った世界がポンポン存在した場合、それらを作った神と呼ばれる存在が出てくるでござる。拙者はその神を見つけるのが夢なのでござる」
これまた大きな……中二病だ。
「事実として現在狩真氏はグールの首飾りで異世界に行ってるでござる。これは紛れもなく事実。宇宙は確かに広いでござる。故に生物が存在する星があってもおかしくは無いでござる。が、グールの首飾りは地球の伝承が基になっている物でござる。夢の中の世界が何かしらによって作られたと言っても過言ではないでござるよ」
「何かしらって……?」
そう言うと尾竹先輩は顔をぐっと近づけて来た。
「それこそ神でござる」
まあ、この地球でも神という単語は存在する。信じるかどうかはその人次第だけど、それに伴った宗教や文化が存在する。
実際に見たという人は周囲にいないけど、夢の中の世界には精霊が存在したし、俺の自宅では現在進行形で悪魔が存在する。架空と呼ばれていた存在が現実にいる以上、完全否定できない。
「でも尾竹先輩。その世界のコトワリってやつを知ってどうするんですか?」
木戸が素朴な疑問を投げた。
「拙者は世界に対して『ざまあみろ』と言いたいのでござる。あらゆる理不尽を拙者に与えたこの世界に一矢報いる。それが拙者の最終的な夢なのでござるよ」
あらゆる理不尽……それって容姿のことかな。確かに髪は薄いし、いつも眼鏡は曇っている。ポスターブレードを見る限りほとんど尾竹先輩の趣味だとは思うし、一部自業自得だと思うんだけどなー。
☆
夕方になりそろそろ木戸の家を出ることになった。
「あー、セレンちゃんをもう少しフニフニしたかったー」
「つ、疲れました」
いつも兄の為なら全力で襲い掛かるセレンが、疲れ切っている。
音葉はもしかしてセレンの暴走を止めてくれる新たなストッパーとしてこれからも活躍してくれるのでは?
「また来て良い?」
「狩真さんと一緒なら良いです。兄と音葉さんの二人だけだと……少し不安です」
まあそうだよね。男女二人だけだといつバーサーカー状態になるか
「え? その時はむしろ木戸は外に出てってもらうわ。二人で遊びたくないの?」
そっち!?
「よ、良かったな。音葉おねーさまが二人っきりで遊びたいそうだ。いやーセレンって友達が少ないから助かるぜ」
「お兄ちゃん! これはヤバイです! セレン、絶対色々と失います!」
「は? お前、音葉だぜ? 見た目からして良いお姉ちゃんじゃねえか」
「見た目で騙されてはいけません!」
俺と尾竹先輩はセレンを見て、大きく頷いた。
「あはは、まあ次に来るときは狩真と一緒に来るわ。だから遊ぼ?」
「は、はい。わかりました。音葉お姉さま」
何だろう。完全服従って感じの構図が見えたんだけど。
☆
そして帰り道。
尾竹先輩は途中の分かれ道で颯爽と帰り、途中までは音葉と一緒だった。
「はー、セレンちゃん可愛かったー」
「あのちょっと暴走したセレンを見て驚かない音葉に驚いたよ」
「へへ、正直少し驚いたよ。でも、大事なお兄ちゃんを取られる妹の気持ちは……まあ、わからなくないからね」
そう言って舌を少し出した。
「え、もしかして音葉にも兄妹が?」
「いないよ。でもお兄さんって呼べる人はいた。まあ、どこか別の機会で話すね!」
そう言って音葉は自宅へ続く道に向って走って行った。
もしかして聞いたらまずい内容とかなのかな。
「それこそ『心情読破』を使えば良いのよ」
「ぬああああああああ!?」
振り向くとマリー先生が立っていた。
「びっくりしたー。どっから湧いて出てきたんですか」
「人をフーリエみたいに言わないでよ」
どこか納得してしまう言葉だが、文句を店主さんに向けようとしている辺りなかなかの人だ。
「それより『心情読破』って」
「相手の心を読み取る魔術よ。マオと会ったなら経験あるでしょ?」
そう言えば三大魔術師のマオは相手の心と会話しているんだっけ。
「あっちの世界に帰ったら『心情読破』を教えて貰うと良いわ。色々と役に立つからね。それとこれ」
そう言ってマリー先生は俺にシュークリームを渡してきた。
「え、あ、ありがとうございます」
「貴方にじゃないわよ。今夜はこれを鞄にでも入れて寝なさい。そしてマオに渡せば『心情読破』くらい簡単に教えてくれるわよ」
「あ、そう言えばお菓子を渡す約束をしていました」
「ならちょうど良いわね。あの子だけは絶対に逃がしたら駄目よ。この先も必ず必要になる魔術師だからね」
「随分と重要視するんですね」
「あの子だけはあらゆる場面の鍵なのよ。貴方の首飾りを壊すにしろ、リエンを探すにしろ、魔力が関係しているならあの子は代わりがいない唯一の存在だからね」




