木戸の妹
☆
目を開けると地球に戻っていた。
おそらく自分が思っていた以上に疲れていて、すぐに布団に入ったのだろう。
しかし三大魔術師のマオ……一応パムレって名乗っているんだっけ。そんなチートキャラがこんなにあっさり出てくるとは思っていなかったな。
『オハヨー。オハヨー』
「ぬああああああああああ!?」
突然目の前にクーちゃんが飛んで来た。
『キキキッ。オドロイタカ?』
「驚かさないでよ。はあ」
『カリマ。オレ、ハラヘッタ』
「お腹が空いたのか? えっと、空腹の小悪魔って何を食べるんだ?」
『チョットダケ、チ、ホシイ』
さすが悪魔だ。悪魔系の伝承では血とかが関係しているし、この悪魔も主食は血なんだろうな。
「えっと、自分で手を切るのは嫌だな」
『ダイジョウブ。ウデ、アマガミ。ソレダケデ、チ、ノメル。キズツカナイ』
「そうなんだ。まあ、傷がつかないなら良いか」
そう言って俺は腕を差し出した。クーちゃんはニコッと笑って俺の腕を咥えた。うん、ちょっと気持ち悪いし、腕が唾液だらけだけど、ちょっとくすぐったい。
ばたん。
「おはようございます。突然ですが空腹の小悪魔に間違っても血を与えないでください。お腹が空いたと言って来たらトマトで充分です。ただでさえ名前を教えちゃったので、それに加えて血も与えちゃったらもう逃げることはできません。あ、そろそろワタチは自分の店に行きますね。では」
ばたん。
「絶対わざとでしょ! それに何で俺の家の鍵が開いてるの!?」
突然ドアが開いて言いたいことを言って帰っていく店主さん。
夢の中の店主さんはとても優しいのに、こっちの店主さんは凄く理不尽だよなー。
『オイシカッタ。オレ、カリマヲマモル』
「あはは、まあマリー先生もいるし大丈夫かな」
ばたん。
「おはよう。その様子だとマオと仲良くなったみたいね。それはそうと悪魔術に関してワタクシは専門外だから、呪われたら諦めなさい。多分フーリエも自分に対する呪いとかは防げるけど、誰かが呪われた場合とかの対処はしたことが無いと思うわ。じゃ」
ばたん。
「だから何でここぞというタイミングで俺の部屋が開いて一番最悪なアドバイスをしていくのかな!」
同じアパートに心強い大人がいると思っていたのに、全部後付けで教えてくる辺り、楽しんでいるような気さえするよ!
と、そんなことを考えていたらスマホから音が鳴り出した。オカルト探求部のグループチャットだ。
『おはようでござる。今日は念願の木戸氏のご自宅に行く日でござるな!』
『おー、とりあえず部屋掃除もしたからいつでもいいぜ』
『楽しみ! セレンちゃんに会えるのね!』
『あー、うん。まあ大丈夫だろう』
そうだ。今日は木戸の家に遊びに行く予定だった。
高校時代から時々遊びに行っていたし、俺にとってはそこまで珍しくないけど、面子が珍しいというか奇妙だよね。
一人はポスターブレードを持つオタクの先輩。
もう一人は絶対に高校時代は憧れの的であっただろう美女。
まあ、セレンも音葉とのやり取りを見る限り、暴走はしないだろう。
『集合場所は?』
そう言って俺たちは昼過ぎに木戸の家に集まることになった。
☆
「おおー! ここが木戸氏のご自宅でござるか! 立派でござるな」
「え、この辺って結構お金持ちが住んでいる住宅地よね。それでこの大きさ? 凄いわね」
木戸の家の前で驚く二人。
「およ? そう言えば狩真氏のご実家もこの辺では?」
「そうです。もう少し進んだ先に俺の家があります」
「えっと、家族と仲が悪いから一人暮らしをしているとか?」
「違う違う。大学生になって色々とやってみたいな―と思って、最初に思い浮かんだのが一人暮らし。今でも普通に連絡とかしてるよ」
と言っても最近連絡してなかったっけ。店主さんから数日に一度ご飯をもらえる状態になったけど、少し実家からお米を貰って店主さんに渡そうかな。
そんなことを考えていたら木戸の家の扉が開いた。
「おー来た来た。入ってくれ。あと音葉……さんはできる限り僕と距離を取ってくれ」
そうだよね。異性を呼び捨てで呼ぶって、親しくないとできないよね。あのバーサーカー妹の前では難しいよね。
「お邪魔するでござる!」
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
そう言って家に入ると、俺は見慣れたリビングに到着。他二人は初めて見る光景に色々と眺めていた。
「じろじろ見ても何もないよ」
「いやー、トロフィーが多いなーと思って」
サッカーで有名な木戸は様々なチームに所属し、そこで優勝をして、さらには優秀賞も獲得している。何度も見たが、やっぱりこの数は多いよね。
「ふむ、それには不釣り合いな大きなドールでござるな。リビングに置いてあるとは、なかなか理解のあるご家族ですな」
「あ、そいつが妹のセレンだ」
「ふおぁあああああああああああ!」
尾竹先輩がぴょーんとジャンプして俺の背中に隠れた。いや、尾竹先輩って俺よりも色々とデカいから隠れても隠れ切れてないよ。
「初めまして。妹のセレンです。兄がお世話になっています。狩真さんは久しぶりですね」
「ああ、元気そうだね」
そう言って頭を撫でる。っと、入院している時に撫でていたせいか、今でも自然と頭に手が向かうんだよね。
「あー! ズルい! ウチも!」
そう言って音葉はセレンに抱き着いた。というか持ち上げて膝の上に乗せてそのままセレンの座っていた椅子に座った。
「お、お兄ちゃん……この人は……?」
「お前が慕ってる音葉お姉さまだよ」
「貴女が!?」
そうだよな。グループチャットに乱入してきて、顔も見ずに音葉お姉さまって呼んでたもんな。
「一つ質問です。音葉お姉さまは兄の事をどう思っていますか?」
「へ? セレンちゃんの方が好きよ?」
「お姉さまっ!」
おいおいおいおい、答えになって無いよ!
でもセレンの質問に対しての答えとしては百点満点だ!
以前同じ質問を別な女子生徒にした時、
『友人』
『格好良いと思う』
『話したことは無い』
という答えですらセレンの中ではアウトなのだ。ちなみに少しでも頬を染めて意識してる感を出したら全力で俺と木戸が止めに入る。
「ということでセレン。音葉は安全だ」
「はい。この方は問題ありません。あ、失礼しました、そちらの大きな方は?」
「せ、せせせ、拙者は尾竹でござる。オカルト探求部の部長でござる」
「尾竹先輩さんですね。兄がお世話になっています」
ペコリと頭を下げるセレンを見て、尾竹先輩は固まった。
「金髪……白い肌……まるで二次元から抜け出した天使とはこのことでござるな」
俺からすれば悪魔……こほん。まあ、夢は夢のままにしておいた方が良いだろう。
「さて、家に来たのは良いが、何をする? ゲームでもするか?」
「ふむ、そうしたいところでござるが、拙者としてはおかたんが勢ぞろいプラス天使がいる状況ですし、できれば狩真氏の現状報告を少し聞きたいでござるな」
「俺の?」
「おかたんは比較的自由とは言っても集まる日は週に一度だけ。こうして集まれたのでござるし、オカルトっぽい状況に遭遇している狩真氏から色々と情報を聞き出しておきたいでござるよ」
「セレンは退屈じゃないかな?」
「かまいません。兄の部活に興味があります」
まあ、セレンならそう言うだろうな。




