パムレの用事
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パムレが席を外している間にようやくシャトルが肩を落としてため息をついた。
「まさかあの三大魔術師の一人と一緒に食事をするなんて……しかも城の中じゃなくて食堂って……足の震えを止めるのに精いっぱいだったわ」
「森の中ではパムレットの元祖について威張っていたけど、実際そんな余裕はなかったんだ」
「当り前よ。三大魔術師はこのミルダ大陸の中でも一番重要視されている存在。一般の国民からすれば英雄に近い存在だけど、王族からすれば絶対に敵対しちゃいけない存在なの」
国を亡ぼすことが容易にできる存在。まあ、王族にしてみればそうか。ゲーム中のチート級キャラ。そんな存在がポンと現れたから、俺としては『あー、そういう感じの登場かー』くらいの印象だったけどね。
「でも見た感じ可愛い小さな女の子だし、喧嘩を売るような真似をしなければ大丈夫でしょう?」
「それはそうだけど……」
「それに、あまり良い考えではないと思うけど、今の内に色々と良い印象を与えていれば、困った時に助けてくれるかもよ?」
下心ってやつだ。
『それは魔力お化けに関しては無理じゃよ』
「そうなの?」
セシリーが店主さんと会話しているパムレを見ながら話した。
『あやつは相手の発する言葉を理解していない。相手の心と会話をしている。常に相手の心を読む『心情読破』を使って心を読み『意思疎通』という術を使って相手やその周囲に自分の意見を伝えている。故に話した言葉に裏があった場合はすぐに悟られるのじゃよ。むしろ裏の言葉しかあやつには聞こえていないとも言えるのう』
「え、つまり俺が心の中で『ちっこい』とか思っていたのは」
「……聞こえてたよ」
「ぬあああああああああああ!?」
後ろからひょっこりパムレが現れた。
「ち、違うんだ。その、第一印象でそう思っただけで別に悪意があるわけでは!」
「……まあ、慣れているから良い。若干好感度が下がった程度」
や、ヤバイ……そう言えばマリー先生には『仲良くしなさい』って言われてた人だよね。
「……マリーに仲良くしとけって助言されたんだ。へー」
「やばいよセシリー。常に心を読まれていると安心して会話ができないよ!」
アニメでしか見たことが無いジト目とやらを実際に俺よりも低身長の少女がしてきたよ! これ、リアルでやられると結構心に刺さるな!
『我を巻き込むな。全く、魔力お化けはいつもそうやってからかうのじゃから』
ため息をつくセシリー。そして再度黙り込むシャトル。うーん、どうしよう。
「た、確かにマリー先生には助言されてたけど、現状力が無い俺にとってパムレの力は非常に重要だと思うんだ。俺としては友好的な関係を望んでいる。その、さっきのは本音ではあるけど、悪意はないんだ」
「……じゃあ友好的な関係を結ぶのであれば、カルマはパムレに何を与えてくれるの?」
すさまじい圧。この少女の目は若干眠そうな感じに見えるが、その奥はとてつもないオーラを放っていた。
「ち……地球からお菓子を持ってくるというのは?」
「……乗った」
チョロい!
お菓子が好きって言ってたからダメ元で言って見たけど、本当に良いんだ! というかこの俺の考えも読まれてるんだよね!
「地球のお菓子をどのように持ってくるかは聞かないでおこう。本当に持って来れるのかを試したげる。もし持って来なかったら『パムレットの刑』に処するね」
パムレットの刑!?
それってさっき出されたシュークリームみたいなお菓子の名前だよね?
もしかして俺、そのシュークリームみたいなお菓子の中に突っ込まれて食われるのか!?
『安心するのじゃ。ちょっと語尾が『パムレット』になるだけじゃ』
「完全に頭の中ぶっ壊してるじゃん! やばいよそんな術!」
仮に地球でもその呪いが受け継がれたら、うっかり会話なんてできない。「こんにちはパムレット」って言うことになるってことだよね?
「その、パムレ……ちゃん?」
「……ん? ガラン王国の姫の長女だよね。かなり久しぶり」
「え、私と会ったことがあるの?」
「……まだ二人が赤子で布団に入っていた所をシャムロエと見ていた。シャムロエと凄く似ているね」
「大叔母様と知り合いなの!?」
大叔母様。確か店主さんと知り合いの王族……だっけ?
「……シャムロエは三大魔術師以外で数少ない話し相手。シャムロエも一度は生き返った旦那をもう一度失ってしばらく話せない状況が続いていたけど、双子が生まれてそれどころじゃ無くなっていつの間にか元気になってた。シャトルとシャトラはパムレにとっても久しぶりに印象深い赤子」
「こ、光栄です」
一度は生き返ってまた亡くなった……うーん、どこから突っ込めば良いのだろう。ゲーム内で主人公が蚊帳の外という場面は良くあるけど、実際に遭遇すると結構寂しいな。
「……緊張しなくてもパムレは国に干渉できない存在。こうして出会えたのなら仲よくしよ? 言葉遣いも友人のような感じで良い。というかパムレは言葉を理解していない」
「うん!」
と、シャトルは言っているが、まだ緊張している様子。その内この固まった緊張がほぐれるのだろうか。
「……そうそう、パムレも実は一つ用事があって来たんだった」
「何?」
「……『危篤者の代弁者』。プルーっていうパムレと同じくらいの身長の女の子を見なかった?」
町の中には少女が沢山いる。と言ってもほとんどはどこかのご家庭の娘さんだ。
「特徴は?」
「……修道服を着ている。あと黒い。基本的に葬儀とかの仕事に携わっている」
葬儀屋なのかな。うーん、俺もここに来たのは最近だし、見てないかな。
「『危篤者の代弁者』のプルー様って、静寂の鈴の巫女様に一番近い存在よね。流石に私でも名前は聞いたことがあるけど、修道服を着た人はしばらく見てないわね」
「……そっか」
「そのプルーって人に何か用なの?」
「……とっても重要なこと。詳細は話せないからざっくりと説明するね」
そう言って、パムレは一呼吸を置いて話した。
「……いい加減三大魔術師って立ち位置疲れた。プルーに代わって欲しい」
「すげー重要な内容をきちんと話しているね! そしてそんな重要な会話をこんな食堂で話して良いの!?」
え? え?? この会話、他の人に聞こえてないよね?
『こんな食堂って言いましたか!?』
店主さんにはあとでしっかり謝罪しておこう。
「えっと、プルーって人は凄い人なの?」
俺がシャトルに聞くと少し悩みながら答えてくれた。
「噂程度だけど、三大魔術師と同等の力を持っているって聞いたことがあるわね。パムレちゃんが代わって欲しいって言ってるって事はそう言う事なんだと思うけど」
「そうなんだ。ちなみにセシリーは知っているの?」
フワフワと浮いているセシリーに聞いてみた。
『し、知らぬぞ?』
「ぜってー知ってる!」
何故目を逸らした!
『いや、これは我の口から言えぬ事なのじゃよ。とりあえずそこの魔力お化けと同じくらいの実力を持っている……くらいが我から言えることなのじゃよ』
凄く汗を流しているよ。どうしてそこまで焦っているのだろう。
「もしかしてセシリーはプルーの居場所を知っているとか?」
『それは知らぬ! むしろ知っていたら率先して悪魔店主の依頼に協力するように我からも頭を下げるつもりじゃ!』
これは本当に知らないっぽいな。プルーの居場所に関してはともかく、その内情に話せない内容があるということか。
「……とりあえず今夜はここに泊まるね。部屋は……シャトルの部屋に泊まって良い?」
「ええ!? むしろ私の部屋と同じで良いの!?」
「……フーリ……こほん、店主の宿はいつも世話になっている。手間を増やすと後々大変だから」
「別に気にしなくて良いのに」
ふいに後ろから店主さんの声が聞こえた。
「パムレ様は一応大陸では有名な人です。繁忙期だと少し困りますが、空き部屋がある日は別に遠慮しなくて良いですよ」
「……セシリーがいると言ってもガラン王国の姫がいる以上警備は大事」
「まあ、無理強いはしませんがね。布団をもう一つ用意しますね」
苦笑して店主さんは客室の方に向って行った。
「お互い協力し合っているんだね」
そう言うとパムレはニコッと笑って答えた。
「……という建前。実際は宿代が少し安くなる」
『空き部屋が埋まるのはワタチとしては儲かるだけなので、相部屋だと少しだけ損する気分なのですよねー』
おおー、客室の方から店主さんの声が聞こえて来たぞ。というか協力関係だと思ったらただの消費者と経営者の戦いだったよ。




