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神すら探す悪人


 ☆


 レイジという男。とりあえず初めて聞く名前だった。

「その人ってどういう人なの?」

「ざっくり言うと、自分の夢を叶えるために手段を選ばない悪人ですね。現在はどこにいるかがわからず、神と呼ばれる存在ですら彼を探している最中です」

「神って……突然現実味が無くなってきたような。その情報はどこから得たんですか?」


「ワタクシよ」


「ぎゃああああああああああああ!」


 ふと横を見たらマリー先生が正座してお茶を飲んでいた。というか俺の家がたまり場になってない?

「まさかフーリエがこの少年に色々と話をしているとは思わなかったわ」

「こうなった以上は関わってもらうしかありません。それにグールの首飾りを選定したのはワタチです。このままレイジに殺されるよりは警戒をしてもらった方が良いです」

 こ、殺され?

「ぶ、物騒な話ですね」

「実際レイジは冷酷よ。ワタクシが『こっちの世界』に来たのはレイジを探すため。あ、一応言っておくとワタクシはミルダ大陸からこっちに転移してきたのよ」

「マリー先生が?」

 あっちの店主さんがマリー先生の事を知っていたから、どこかでつながっていたのかなーくらいは想像していた。まさかこんなにあっさり言ってくるとは思わなかった。

「本当なら何度か行き来して情報を共有するつもりだったんだけど、魔術に少し欠陥があってね。あっちの世界に戻れなくなったのよ」

「そういう理由があったんですね」

 それならそうと言ってくれればあっちの店主さんに教えてあげたのに。まあ今夜教えてあげようかな。


「まあ、あえて欠陥を付け足したのはワタクシだけどね。あっちの世界に戻るの凄く嫌だし」

「フォローしようと思ったけどやめました。こってりあっちの店主さんに叱られてください」


 なんだこの駄目教授は。

「適材適所よ。あっちには『マオ』や『フーリエ』や『クアン』がいるもの。地球はワタクシとフーリエで調べて、伝達役として狩真には頑張ってもらうわ」

「なんだか俺ばっかり苦労する状況な気がします」

 それにしても知らない名前ばかりが出てきた。

「フーリエって、店主さんの名前ですよね。マオとクアンというのは?」

「ああ、マオは三大魔術師の一人で、お菓子がありえないほど好きな女の子よ。信頼できる人に対してはすぐに懐くし、魔術に関しては破格の強さを持っているから、出会ったら餌付けをしなさい」

 三大魔術師を餌付け……別のゲームで例えるなら『伝説の剣豪を誘惑』みたいな感じかな。

「クアンというのは?」

「魔術研究所に働く副館長よ。貴方と同じく地球出身よ」

「え、地球からミルダ大陸に行って滞在している人がいたんですか?」

「クアンは少し特別ね。事情があって不老不死になっちゃったりしているけど、地球の人間に対しては多分優しいわ。『多分』」

 すげー怪しい。そして突然のファンタジー要素たっぷりな不老不死。うーん。

 と、疑っていると店主さんは溜息をついた。

「まあ、実際あっちのワタチがこれからも狩真様に迷惑をかけるのは確定しています。せめて週の何日かはおかずを持ってくるので協力してあげてください」

「ええ! フーリエのおかずが週に数回貰えるの!? 狩真、半分ワタクシに譲りなさい。単位あげるから!」

「ひどい裏取引だなおい! 大学教授ですよね!?」

 確かに店主さんの作ったご飯は美味しい。しかしこれをマリー先生に渡して単位を貰えるなら……いや駄目だ。貰ったご飯を横流しなんて俺にはできない!

「マリー様は酷い時なんて毎日来るじゃ無いですか」

「でも作ってくれるから優しいわよね。『こっちのフーリエ』は」

 ニコニコと笑って指で店主さんの頬を突くマリー先生。

「やっぱりあっちの店主さんとこっちの店主さんは深い関係があるんですよね?」

「凄くざっくり言うと分身です。ドッペルゲンガーと言って、あっちのワタチとこっちのワタチは色々な意味で一緒です。と言ってもかなりの間あっちとは関わっていないので、もしかしたらあっちのワタチはとても明るい性格かもしれませんね」

 確かに。こっちの店主さんはどこか寂し気な印象。一方であっちの店主さんは笑顔を絶やさずに宿屋兼ギルドの受付をやっている。

「ともあれ、あっちの世界と関わらせてしまった以上、ワタチは貴方を保護するくらいはしますよ。こう見えて魔術に関しては自信がありますからね」

 そう言って店主さんは手から小さな炎を出した。俺が氷の球を放った時以外で魔術を地球で見たのは初めてだ。

 そして手の炎を消して部屋の隅に移動し、そこで何かごそごそと音を立てて作業をした。

「何をしているのですか?」

「いつレイジが来るかわかりませんからね。あまり他人のプライベートに踏み込むのは良くないと思いますが、最低限の監視は置いておきますよ」

 そして床が若干光った。


『ギャギャ? ヨンダカ?』


「ぬあああああああああああ!?」


 目玉に翼が生えた悪魔がぬっと出てきたよ! 

 確か『空腹の小悪魔』だっけ!?

「いつ見てもグロイわね」

「一体何を!」

「これを通してワタチに情報を送ってもらうのですよ。万が一レイジがこの部屋に突撃して来ても、ワタチが隣の部屋から壁をぶち破れば間に合います」

『ダイショウハモラッタ。ズットココニイル』

「安心してください。この大きさだと万が一噛まれても甘噛み程度です。慣れれば愛着がわきますよ」

「ちなみにワタクシは絶対無理ね。とある研究機関で目玉のホルマリン漬けを見た時、気を失いかけたわ」

「それに近い存在が俺の部屋に在住するの!?」

 オカルト趣味だったら大歓迎だろうけど、残念ながら俺はそんな趣味を持ち合わせていない。うわー浮いてるよ。可愛い……とは絶対思わないよ。


「と言う事で仲良くしてください。じゃ」

「ワタクシも帰るわね。じゃ」

「マジで待ってー!」


 俺の声はむなしく、そのまま二人は帰って行った。と言っても隣の部屋だから何かあったらすぐに駆け込めるんだけどさ。

『ヨロシクタノムゾニンゲン』

「意思疎通は……できるのか……うわー」

 人間の目玉と同じくらいの大きさの目玉に翼が生えて、ふわふわと飛んでいる。というか別に羽ばたいているわけではない。この翼は飾りなのだろうか。

「とりあえず空腹の小悪魔って呼べば良い?」

『カキュウノアクマニナマエハナイ。ナンデモスキナナマエデヨベバイイ』

「じゃあクーちゃんって呼ぶか。とりあえず名前で呼べば愛着もわくだろう」

 本当は嫌だけど。

『クーチャン。キニイッタ。オマエノナマエヲオシエロ』

「ああ、俺は狩真だ」

 その瞬間扉が開いた。


「言い忘れました。その子に名前を聞かれても教えないでください。悪魔的な契約が発生するので」

「完全に狙ったタイミングで入ってきたよね! たった今教えちゃったよ!」


 突っ込むと扉が閉まった。いやいや、完全に確信犯じゃん!

『カルマ。オボエタ。ダイショウハスデニイタダイタ。カルマノカンシヲガンバル』

「お、おう」

 悪魔的契約って言うからてっきり寿命とか取られると思ったけど、特に何も無いか……。


 何も無いといいなー。


 ☆


 そして夢の中。

 いつも通り夢の世界もとい『ミルダ大陸』に到着。

 いつもより目覚めが早かったのか、店主さんのモーニングコール前に目覚めたらしい。

 着替えが終わって部屋を出て広間に行くと、すでに店主さんがテーブルを拭いていた。

「おや、今日は早いんですね。おはようございます」

「おはようございますこっちの店主さん」

「こっちの? ああ、地球のワタチと色々とお話でもしましたか?」

「はい。情報が多すぎて頭がパンクしそうです」

「そうですか。ちなみにあっちのワタチは元気そうですか?」

「マリー先生に食事を作ったり、お店を運営していたりしていて、頑張っていますよ。と言っても学生の俺が頑張っているなんて上から目線で言える立場じゃないですけどね」

「ふふ、別に構いませんよ。あっちのワタチは姉妹みたいなものです。元気そうならそれだけで十分ですよ」

 そう言って店主さんは首にぶら下げていたロケットを取り出して、中の写真を見た。

「それは?」

「ワタチのかけがえのない存在。血は繋がっていませんが、大切な息子です。そうですね、そろそろ概要だけでもお話しましょうか」

 そう言って店主さんは椅子に座った。机を挟んで向かいの椅子に座るように促され、そして本題に入った。

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