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オカルトショップ寒がり


 ☆


 しっかりと十分前に旧東京駅前に到着。

 その昔、この付近にはレンガで作られた東京駅があったそうだが、今はガラスで作られた立派な東京駅が存在する。

 元々あったレンガの東京駅は解体されて、旧東京駅という名前で記念碑だけが残っている。

 待ち合わせスポットとしてはかなり有名な場所で、とりあえず旧東京駅前ねーみたいな感じで待ち合わせをするのが一部の界隈では憧れらしい。

「お、来たでござるー。狩真氏ー。こっちでござるよー」

 相変わらずリュックにポスターブレードの尾竹先輩に安堵しつつ、隣には美男美女もとい木戸と音葉が立っていた。

「おはよーって、マリー先生も? それとこちらは」

 店主さんを見た音葉。


「マリー先生の娘さん?」

「篠原音葉さん。貴女の単位は本日消滅しました。来年も頑張りましょう」

「嘘でしょ!? ちょ、お願いします。悪気は無かったんです!」


 教授を敵に回すと怖いな。俺もうっかり騒音を立てたら科学の単位がやばいぞ。

「ワタチは今から貴方達が向かうオカルトショップの店主です。偶然ですが狩真様と同じアパートに住んでいて、どうせ向かうなら一緒が良いと思ってきました」

「なるほど。ん? 様?」

 そして音葉は俺をグイっと引っ張って少し離れたところで耳打ちする。うん、近い。

「狩真『様』ってどういう事? いや、どういう関係?」

 あー、夢の中でも店主さんって相手問わず『様』付けだったから、そういうキャラだと思ってたけど、普通そう思うよな。

「店主さんって皆に様呼びするみたいなんだ。多分自己紹介したら『音葉様』って呼ばれると思うよ」

「そうなんだ。ふう、危うく同級生が危ない道に進んだのかと思って通報するところだった」

 見た目は小っちゃいけど多分俺たちより年上だぞ。夢の店主さんとこっちの店主さんは同年代かはわからないけど。

「全員いるみたいね。じゃあ早速フ……店主の店へ向かおうかしら」

 一瞬マリー先生は店主さんの名前を言おうとしたっぽいけど、ぐっとこらえてた。もしかして注意されたのかな。それか昨日さんざん名前呼びされたから仕返しの今日の目覚ましだったのかな。


 ☆


 歩き進むとビルとビルの間にある裏路地を何度も潜り抜けてようやく小さな小屋があった。

 小さなライトに照らされて『オカルトショップ寒がり』と書かれてあった。寒がりってなんだよ。

「おい狩真。今更だが僕はとても怖いぞ。大丈夫か?」

「チャラ男が何を言うか。一番こういうの耐性ありそうだろ」

「考えてもみろ。不気味な裏路地。助けを呼ぶ声が届かない距離」

「うん。まあ、ちょっと怖いな」


「目を輝かせて襲ってくるバーサーカー妹」

「安心しろ。怖いのはお前もしくはお前に言い寄って来る人だけで俺は怖くない」


 確かにこの狭い空間であのバーサーカーセレンが来たら発狂するね。もちろん木戸が。

 店の中に入るとこれはこれはまた不気味一色というか、コウモリのはく製とかよくわからない目玉のキーホルダーとかあるよ。

「ふっふっふー、狩真氏が驚くのは当然でござる。ここの品物のほとんどはマジでヤバイものでござる。そこのコウモリのはく製も全部本物でござるよー」

 わー。いらない情報が入った所為でコウモリのはく製がこっちを見ている気がするよ。

 同時に音葉が俺の服の裾をギュッと握っているよ。うん、お化け屋敷に行くカップルってこういう感じなんだろうな。

「ここがオカルト探求部御用達の店よ。さっき来た道をちゃんと覚えておきなさいよ」

 自信が無いけど、まあ一本道だから迷うことは無いかな。

「今日は会員証の発行でござる。ささ、早速こちらの椅子に座るでござるよ」

「ここはワタチの店ですよ。まあ、楽ができるので良いですが……では最初に木戸様から」

 そう言って木戸に紙が渡された。

「だ……大丈夫? 僕、これ名前書いた後すさまじいノルマとか課せられて逮捕とかされない?」

「失礼ですね。ここはド健全なオカルトショップですよ。むしろ会員証が無いと逮捕されるレベルですよ」

 ド健全なオカルトショップって単語は今後絶対に出てこないと思う。いや、不健全なオカルトショップという単語も無いとは思うけどね!

「名前書きます!」

 焦りつつも木戸は名前を書いた。

「次は音葉様ですね」

 そして音葉も震えながら名前を書いた。

 書き終えた紙を見て店主さんはニヤッと笑った。


「ふふ、これでもう逃げられませんからね」

「きゅう……」


 音葉ああああ!

「オカルトジョークですよ。これくらいで気を失っていたら人間社会で生きていけませんよ」

「店の雰囲気と店主さんの笑みは冗談に見えないから!」

 と言うかその後に俺が名前を書くことになっているんだけど!

 すごく書きたく無いよ!


「あ、狩真様はもう大丈夫です。契約自体は勝手に進めてましたから」

「なんで!?」


 皆名前を書いたのに俺だけ書いて無いのに大丈夫なの!?

「昨日ワタチの家でご飯を食べた時、部屋に髪の毛が落ちてたので勝手にそれを使って契約しました。悪魔的に契約したのでお二人よりも強い契約です。モウニゲルコトハデキマセンヨ」

「待って狩真。店主さんの家でご飯食べたの!?」

「おい狩真。今の話詳しく聞かせろ!」

 恐怖とめんどくさいが一気に襲い掛かってきたよ!

 そして気を失ったはずの音葉がぐっと起き上がってきたよ!

「あーもう、店主さんの家でご飯を食べた話は後でするよ。そうだ、マリー先生に渡す物があったんだった」

 そう言ってくしゃくしゃの紙をポケットから出してマリー先生に渡した。

「おや、誰からかしら」

「夢の世界の宿屋の店主さんです」

「あー、文字を見て分かったわ。うん、その……狩真には色々苦労をかけてしまうけど、よろしく頼むわ。ワタクシは身動きが取れないから」

 苦笑するマリー先生。それを見てため息をつく店主さん。何か知っているみたいだけど、きっと話してくれないんだろうな。

 と、そんな事を話していたら各々オカルトショップ内の商品を見ていた。

「『有名な大学に合格する確率が上がる本』……うん、大丈夫かしらこの店」

「音葉様は面白い物を最初に見つけますね。本店で一番信頼性の高い商品ですよ?」

「え、でも本を読むだけで有名大学に合格……ってよく見たら参考書じゃん! 詐欺じゃん!」

「詐欺ではありません。コツコツと問題を解けば可能性は上がります。しかもお値段もお手頃かつオカルト的に無害な分類に入る本なのですよ?」

 逆に有害な本って何だろう。

「おい狩真。この羽ペン見てみろよ」

 木戸に呼ばれて見てみると、綺麗な虹色の羽ペンを木戸は持っていた。

「この羽ペン、インクを着けなくても文字が書けるんだぜ? これ、実はすごくね?」

「え、どういう仕組み何だろう」

 鳥の羽にしか見えない羽ペン。俺も使ってみたけど赤色で統一されているみたいだ。


「あ、使い過ぎに気を付けてください。それ、持つ場所が凄く細い針になっていて、血を吸って文字を書く悪魔的道具です」

「おい木戸今すぐ棚に戻せ!」

「おう!」


 なんという商品を並べてるんだ。

「ふっふっふ、拙者も最初その羽ペンを見つけてテンションが上がったでござる。コミックサーキットの原稿でインク代の節約になる―と思って調子に乗ったら救急車に運ばれていたでござる」

 本当にヤバイ物じゃん!

「じゃあこの目玉のキーホルダーも実は本物の目を使ったりとか……」

 音葉が震えながらキーホルダーを持ち上げて話始めた。

「それはワタチが趣味で作ったプラスチック製の『空腹の小悪魔ちゃん』です。一個百円ですよ」

 ニコッと笑みを浮かべる店主さん。いや、流れ的に買いそうだけどデザインがなー。空腹の小悪魔ってあの目玉に翼が生えた悪魔だよね。もうトラウマしか無いんだけど。

「う、うーん、よーく見れば……可愛い?」

「ふむ、空腹の小悪魔ちゃんの魅力が分かるとは音葉様は見る目がありますね。特別に一つ差し上げますよ」

「あはは、わーい」

 うん、音葉の目が喜んで無い。

「さて、では早速本題のような物に入るでござるが、このグールの首飾りを取り外す方法はこの店に無いでござるか?」

「あー、そのことですが」

 俺は簡単に昨日店主さんたちと話した内容を軽く話した。


「ふむ、夢の世界の中で取り外す方法はあるものの、そこで取り外せば戻れなくなるかもしれない。かといってこっちの世界では取り外す方法は無いと。困りましたな」

 色々な商品があり、もしかしたらこれを使えば取れるのではと思えるものもあるが、店主さんの話では絶対に無理との事らしい。

「ちなみにマリー女史はグールの首飾りを取る方法はご存じで?」

「そうね。一つは『静寂の鈴』という道具。これは鈴の音が周囲の呪いとかを抑え込む力があるのよ。それを使えば壊せる可能性はあるわね」

 三大魔術師の一人『静寂の鈴の巫女』。おそらくその巫女が持っている鈴を使えば壊せるかもって前に言ってたっけ。ゲームをやっているとなんとなくその辺はキーワードになるよね。

「もう一つは禁書『ネクロノミコン』。これは地球でも有名な伝承上の本ね。これがあれば壊せるかもしれないわね」

「ネクロノミコン……」

 音葉が少し考え込んだ。

「何か知っているの?」

「うーん、名前は有名なの。クトゥルフ神話っていう有名な創作物で出てくる本だけど、実在するって話もあるの」

 創作上の本が存在する。それはつまり誰かがその創作物を見て作ったということだろうか。そうなるとそれほど凄い物とは思えないけど。

「ネクロノミコンだけは別格よ。創作物が作り出した創作物というありえない現象で生まれた物体。そこのオタクはテレビの中からアニメの少女が出てくるなんて想像はしたことあるわよね?」

「もちろんでござる! しかし拙者は紳士故に絶対に触れないでござる。あ、音葉氏も安心されたし。拙者は間違って触れた相手が悲鳴を上げた挙句警察を呼ばれるという事案を何度も乗り越えた故、人に触れるということを全力で避けているでござる」

 それはそれでどうなの!? 完全に冤罪じゃん!

 そして音葉も笑って良いのかどうか微妙な表情しちゃったよ!

「というか尾竹先輩は痩せたりしないんすか? ちょっと太っているのが気になっているなら僕のやってる早朝ジョギングでもやります?」

「木戸氏って見た目に反してすさまじい陽キャのオーラ全開でござるな。しかしせっかくのお誘いでござるが、拙者のスケジュールは細かく決めている故に、まことに残念でござるが遠慮させていただくでござる」

 いまいち謎なキャラクターの尾竹先輩である。うーん、そう言えば俺も一時期木戸の早朝トレーニングに付き合ってたっけ。

「尾竹先輩」

「何でござる狩真氏」


「木戸の家からジョギングスタートすると、木戸妹が見送りしてくれますよ」

「はぐぶし!?」


 聞いたことが無い言葉と共に、尾竹先輩は固まった。

「いや、拙者のような者が木戸氏の麗しき妹様に会っては悲鳴をあげて逃げ帰るでござる」

「そうか? セレンは『男だったら』普通に接するけど」

 やたら変な意味がありそうだが、単純に兄に近寄る女性を排除するバーサーカーという意味が込められているのは俺と木戸しか知らない。

「くう、かなり夢のような計画ですが遠慮するでござる。もしも予定に空きが生まれたら良いでござるか?」

「良いっすよ」

 ふむ、どれだけ木戸妹に会いたいのやら。まあ会うだけなら問題無いけどね。

「さて、本題の会員証は作ったし、今日は帰りましょう」

「そうですね。皆はこの後どうするの?」

 音葉の口調だとこの後みんなで遊ぶという流れだろうけど、それ以上にちょっと俺の事情がある。

「俺と尾竹先輩は用事で先に帰るね。ちょっと家具が壊れちゃって」

「すまぬでござるな。皆の人気者の狩真氏を拙者が独り占めでござる」

「そっか。じゃあ木戸はどうする?」

「ん? あー、僕も早く今日は帰るよ。というか暇だったら音葉は狩真の家に行って見たらどうだ?」

「へ?」

 唐突なフリに俺もびっくり。

「部活の交流もかねて良いのでは? まあ拙者は淡々と洗面台を修理するだけだから、気にせずおしゃべりしてくだされ」

 そう言われ、何故か俺の家で尾竹先輩と音葉が来るようになった。


 何で!?

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