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似たもの同士


「う、腕があああ!」

 ブンブンと振るも、巨大な目玉は俺の腕から離れない。そして目はしっかりと俺の方を見ていて初めて見た時の恐怖が蘇ってきた。

「その子はカルマ様の腕を甘噛みしているだけで害は無いですよ。少し落ち着いてください」

 料理を持って店主さんは部屋に入ってきた。いやいや、夢の中で出てきたヤバイ悪魔が俺の腕を咥えているんだよ?

 と言うか口はどうなってるんだ!?

「フーリエが悪魔術を使うなんて珍しいわね。何年以来?」

「手間を省いただけです。空腹の小悪魔、時間です。そろそろ帰ってください」

『ギャギャギャ!』

 俺の腕を咥えていた目玉の悪魔はボフッと音をたてて消えた。今のは一体。

 手にはべっとりと先ほどの悪魔の唾液がついている。と、気味が悪いと思っていたら店主さんが手拭いを俺に渡してきた。

「魔術を使えるのはカルマ様だけではありません。ワタチも使えます。それにそのグールの首飾りを売ったのはワタチなので、情報はワタチが出します。と言ってもワタチから出せる情報は少ないと思いますけどね」

「という事は店主さんは夢の中の世界に行けるということ?」

 そう聞くと店主さんは首を横に振った。

「残念ですが行くことはできません。ワタチはあっちの世界出身というだけです」

「え、でも全く同じ姿の店主さんがいたけど……」

 あっちの世界出身なのにどっちの世界にも店主さんがいると言うのは変じゃないかな。

 と、疑問に思っていたらマリー先生が話始めた。

「昔、この子は『ドッペルゲンガー召喚』っていう悪魔術を使ったのよ。狩真が言う夢の世界のフーリエとこの子は同一人物。ただ、記憶とかは別々ってだけよ」

「そんなあっさり言える内容なんですか?」

 と、そうこうしている間にテーブルの上には肉じゃがと煮魚。そして味噌汁に白米が置かれた。

「温かいご飯も時間経過で冷めてしまう。それと同じくらいワタチの出身地やマリー様の置かれた状況は単純な物です。とりあえずご飯を食べてからお話をしましょう。今のカルマ様はご飯を食べて冷静になるちょっとした時間が必要ですよ」


 ☆


 美味しかった。

 うん……はっきり言ってすげー悔しい。これはマリー先生も通いたくなるわけだ。というか俺もお隣さんだし時々ご飯を頂きに来ようかな。

「落ち着きましたね。で、何が知りたいですか?」

「グールの首飾りの外し方です。店主さんが売りつけたということは、何か知っているのでは?」

 確かにファンタジーな世界で生活するのも悪くはない。が、そう思ったのも数日の間だけで、命の危機も体験した。できることなら普通の生活を送りたい。

「ふむ、ワタチが見た限りだと紐の部分にきめ細かい魔力が編み込まれていますね。となれば方法はあります」

「本当に!?」

 聞いてみる物だ。これで俺は普通の生活に戻れる?

「方法はありますが、こっちの世界では難しいです。あっちの世界の『静寂の鈴の巫女』にお願いをすれば、その魔力を消し去って呪いが解かれると思いますが、それではこっちに戻って来れません。ふむ、ちょっと時間を下さい」

 静寂の鈴の巫女。なんだか一度聞いたことあるような単語だな。

「あ、そうだ! 三大魔術師!」

 ゲームとかだと二つ名があるキャラクターって何か頭に入って来るんだよね。強者って感じがして熱い展開とか絶対あるもんね。

「へえ、まさか貴方から三大魔術師という単語が出るなんてね」

「知っているんですか?」

「ワタクシも少しだけあっちの世界については知っているの。むしろあっちの世界に少し用があるのよ。貴方が行き来しているって聞いて羨ましいとすら思えるわ」

 マリー先生が食後の紅茶を飲みながら話始めた。

「そうね、もしも三大魔術師の内、やたらお菓子が好きな少女に出会ったら絶対に仲良くなりなさい。多分貴方の悩みを解決するのに一番動いてくれる人だと思うわ」

 三人の内どの人だろう。少女という事は巫女さんかな。

 後片付けを終えた店主さんがキッチンから部屋に入ってきて、何か紙に書き始めた。そしてそのまま俺に渡してきた。

「これを『あっちのワタチ』に渡してください」

「これは……えっと、読んでも?」

「別に良いですよ。貴方には直接関係ありませんから」

 そう言って店主さんの渡した紙を見る。またしても見たことが無い文字だが、じっくり見ると文字が頭の中に入って来る。


『貴女の息子はおそらくそっちの世界にいます』


 息子。

 ふとセシリーやシャトルが店主さんから依頼されている物について頭が過った。

 そして俺がシャトルとパーティを組むことでようやく解決するかもしれないと言っていた。

 もしかして人探し?

「さて、紅茶も無くなったし長居するのも悪いからそろそろ帰りましょう」

「は、はい」

 これ以上何か情報が得られるとは思えなかった。いや、この続きの情報はきっと夢の中でしか聞けない。おそらくそうだろう。

「ごちそうさまでした。またご飯を食べに来ても良いですか?」

「ワタチの家は食堂じゃないですよ」

 また赤い目を光らせて凄い剣幕で睨んできた。え、もしかして俺嫌われてる?

「そうよねー。フーリエのご飯って美味しいのよね。ちなみに狩真。この子の店ってそれほど収入があるわけでは無いのよ」

 収入が無い。ふむ。


「食材は持ってきます」

「特別ですからね。あ、マリー様はきちんと支払ってください」

「ちょ! ワタクシも食材持ってくるわよ!」


 一人暮らしの醍醐味である自炊よりもおいしいご飯を取ってしまった感が否めないな。いや、腹が減っては戦はできぬとも言うし、背に腹は代えられないだろう。

「ではお邪魔しました」

「またね」

「はい。明日は名前で呼ばないでくださいね」

 そう言って扉が閉められた。

「ではマリー先生、また明日」

「まさか教え子が同じアパートだなんて……はあ、まあ良いわ。またね」

 そう言ってマリー先生は自分の部屋に向って行った。

 俺も自分の部屋に入り、風呂で体を洗って夢の世界に向う準備を整えて布団に入る。

 もう慣れたものである。


 ☆


 目を覚ますと茶色い天井。今日も夢の世界にしっかりと行ったらしい。

『カルマ様ー。朝ですー』

 と、店主さんの声が扉から聞こえた。

 ちょうど地球の店主さんから手紙を渡されたし、今渡してしまおう。

「店主さん、ちょっと待って」

『はいー?』

 急いでドアを開けると割烹着姿の店主さんがフライパンを持って立っていた。いや、漫画とかでしか見ないよ。そうやって起こすお母さん的存在の人。

「これ、店主さんに渡してって言われました」

「えっと、誰にですか?」

 うーん、説明しにくい。

「えっと、別の世界にいる店主さんそっくりな人です」

 現実の店主さんはこっちの世界について詳しいけど、こっちの世界で地球の話題って簡単に出して良いのかわからないんだよね。

 と、一人で悩んでいると店主さんが考え込んでいた。

「チキュウのワタチ……読ませてもらいますね」

 そう言って手紙を受け取った店主さんは、真剣な表情になった。

「これはとても重要な情報ですね。ありがとうございます。引き続きそちらの世界のワタチとそっくりな人とは仲良くしてください」

「仲良くと言うか、借りてるアパートのお隣さんだったので仲良くせざるを得ない状態ですね。大学の先生も同じアパートでしたし、気が休まらないですよ」

「師が近くにいるのは良い事ですよ。勉強とか直接教えて貰えば良いと思いますよ?」

「うーん、紫髪の外国の女性ですし、十代の大学生が気軽に近づいて良い存在では無いですよ」

「紫髪? もしかして名前はマリーという名前では?」

「あ、やっぱり知っているんですね。あっちの店主さんとは仲良かったので、こっちの店主さんも知っているかなーと思って……」

 ました。と、言おうとした瞬間、手に持っていた手紙を握りつぶした。

「そう……ですか。マリー様はそっちに『逃げて』いましたか。ふふふ、ふふふふふふ」

 え、もしかして言っちゃいけないやつだった?

「あ、カルマ様には直接関係が無い私情ですのでご心配なく。ワタチとマリー様はとても仲良しです。はい。ナカヨシデス」

「いや、絶対仲良く無いでしょ! 俺、明日マリー先生と一緒に買い物するんですけど、どんな顔して会えば良いんですか!」

「おや、でしたらこのメモを渡してください」

 そう言ってさっき握りつぶした紙に俺が昨日渡したペンを使って文字を書いた。


『早く帰って来なさい』


 帰って……一体何が背景に隠れているんだろう。

「えっと、マリー先生はこっちの世界に行きたいけど行けない状態って言ってました。俺の現在の状況が羨ましいって言ってましたよ」

「ふむ、でしたらなおさらシャトル様へ出していた依頼を遂行してもらって、マリー様を連れ出すしかないですね。フフフフフ」

 いや、だからすげー怖いんだけど。

「貴重な情報を頂いたので特別に小鉢一つおまけしますね。あ、クエストも取り置きしてあるので、食べ終わったらシャトル様と一緒に来てください」

「ありがとうございます」

 うん。こっちの世界も地球も店主さんには逆らわないようにしよう。ご飯が大変なことになりそうだ。

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