040 とても平和な姉と後輩ちゃんと(1)
3p編始まるよ
「うふふ。ほらゆみ。あーんしてちょうだい」
「あ、あーん、む」
「美味しい?」
「う、うん」
「せんぱぁい♡みうはセンパイにあ~んってしてほしいッス~♡」
「えと、あーん」
「あぁ~んっ♡むふふぅ♡おいしッス♡」
「それはよかった、うん」
膝に乗せて甘やかそうとしてくる姉さん。
膝に向き合うように座って甘えんぼしてくる後輩ちゃん。
プリン美味しい私。
思えば後輩ちゃんに住所を知られていた時点でいつかは姉さんと鉢合わせるんだよなと、そんなことをいまさらになって思う。
鉢合わせたからってどうしてこうなるのかは、たぶんきっと、私が抱いてはいけない類の疑問だろう。
オトナなOLさんに子供扱いされた数日後。
ようやく課題もほとんど終わって、夏休みが始まったぞ、っていう気分になっているとき。
突然襲来した後輩ちゃんと遭遇した姉さんが、私を明らかに甘やかそうとしてきたのが発端で、気がつけばこんなことになっている。
しかもまだリルカ未使用。
使うべきなのだろうか。それとも今日はひとまずお休みしてやり過ごすべきなのか。
悩んでいると、後輩ちゃんがずぃっと顔を近づけてくる。
「ってゆ~かぁ~、みうセンパイといつもみたいなキモチイことシたいんッスけどぉ~♡」
「後輩ちゃんんんんん?」
「あらあら」
とんでもないことを言いだす後輩ちゃんに、後ろでなんてことないみたいに笑う姉さんが怖い。
冷や汗をかく私に笑みを深めて、後輩ちゃんは耳元に口を寄せる。
「おねぇさんなんかほっといてぇ、センパイのお部屋行きましょーッス♡」
「うふふ。ずいぶんと愉快な知り合いがいるのね、ゆみ」
「ね、姉さんあの、」
「あら。恥ずかしがらないでいつもみたいに『あみ』って呼んでいいのよ?」
「ねえさーん?」
いつもっていつのいつもなんだろう。
遊園地デート以降一度も使ってないのに。
嫌に心臓が弾む私を、姉さんと後輩ちゃんの視線が後ろから前からじりじり抉ってくる。
貫通しちゃうんじゃないだろうかこれ。
「ねぇせんぱぁい♡それともぉ~、このおねぇさんにみうとシてるところ見てもらいたいッスかぁ~♡」
すりすり。
身体をまさぐられる。
そういう経験が豊富なだけあってこう、なんだろう、煽るのが上手い。
ごくりと生唾を飲み込む私に気をよくした後輩ちゃんは、そして、ちらっとシャツの中を覗かせる。
吸い込まれる視線の先には、ついこの間見たやつと同じくらい布面積の少ない薄い桃色のやつ。
っていうかこれ、なんか、影になって見えないけど、すけ……?
「センパイのためにぃ、センパイお気に入りのえっちなやつ♡着てきたんッスよぉ~♡」
「私の知らないところでお気に入り登録されてる……?」
「そんなこといいながらずぅっと見てるじゃないッスかぁ♡そんなにカワイイッスか♡みうのピンク色のところ♡」
「ぴんく……」
いけない。
想像してしまう。というか想像以前にやっぱりこれ……。
「ゆみ?物珍しいからって他人様のことをじっくり見たりしてはいけないのよ」
姉さんの手がそっと目を塞ぐ。
ぞわっと総毛立つ私に、姉さんはむにゅぅぅぅ、と胸を押し付ける。
「それとも、いつも見ているから、私にはもう飽きてしまったのかしら」
「ぅあ」
姉さんの言葉で、姉さんの身体を思い出してしまう。
とくに最近一緒にお風呂入ったし、なんならたまに夜暑いからって……うん……えと。
駆け巡る妄想のせいで脳が過熱する私。
後輩ちゃんが不機嫌になるのが視界がなくとも分かった。
ぐいと手を引かれて、後輩ちゃんはその手をオーバーオールの脇に差し込む。
ふにりと触れる収まりのいい胸。
シャツとあんな薄っぺらの布でしか守られてないせいで、妙に生々しく感じる。
指先を少しでも動かしたらとてもヤバい気がして硬直するから、逆に引き抜いたりもできない。
「センパイはぁ♡みうのオッパイが好きなんッスもんね♡」
「あら。そうなのゆみ。私、あなたの口からちゃんと聞きたいわ」
「か、勘弁してください……」
私の懇願はふたりには届かない。
むぐぅと背に押し付けてくる姉さんと、ぐに、と手を押し付けてくる後輩ちゃんと。
どちらを選ぶとか意味が分からないし、というかそもそもなんでこんな目隠し胸比べしなきゃいけないのか。
私はぶんぶんと頭を振って姉さんの手を払うと、変なところに掠めたりしないように後輩ちゃんのナカから手を抜く。
そうしてまず後輩ちゃんの手を取って、不機嫌そうなその目を覗き込む。
「あのね。そりゃあ私も可愛い子の胸に触るのは嬉しいけど、こんな風に張り合うみたいにされたら悲しいよ。まるでそういう、性的な部分でしかあなたを見ていないみたいに思われたくない」
私の言葉に、後輩ちゃんは瞳を動揺させると唇を噛んで俯いてしまう。
その頬をむにゅっとはさんで持ち上げて、額にチュッとキスをした。
「もちろんそういう魅力があるのも知ってるよ?今も、とってもどきどきしちゃったし。だけどせっかく遊びに来てくれたんだから、もっと違う可愛いところが見たいな」
「センパイ……♡」
私の手をきゅっと手を握った後輩ちゃんは、どこか感動した様子で頬を上気させる。
「そうやって女の子を手玉に取ろうとしてるんッスね……♡どうしようもない女たらしッス♡」
「えぇ……」
いやまあ、正直ちょっと説得するために情に訴えかけてやろうとは思った。
本音ではあるし、嘘偽りもないけど、ちょっとフィルターかけたのは間違いない。
だからってそんなバッサリ言わないでもいいのに……。
「しょーがないセンパイッスね♡今日のところはタラされてやるッス♡」
なんて言ってぎゅうと抱きついてくる後輩ちゃん。
あんまりグイグイされるとブラがズレるからやめて欲しいとか言ったら酷いことになりそうなので、とりあえずなでなでと受け入れておく。
していると、ぐいっと顔を上向きにされる。
首に負担を感じるくらいにされて、姉さんがそんな私を見下ろす。
「うふふ。私にはどんなことを言ってくれるのかしら」
「えと、そういう会になったんですか……?」
「私もゆみに口説かれてみたいもの」
口説いていたつもりはないんだけども。
そんなことを思いつつ、とはいえ言いたいことがあるのは事実なので、大人しく口を開く。
「あのね、姉さ」
「あみ」
「………………あのね、あみさん。もしかしたら勘違いしているのかもしれませんけど、私胸が大きいからあみさんのカラダ好きなわけじゃないですからね?そりゃあ、まあ、あみさんのカラダって誰が見てもすごい綺麗だし、魅力的ですけど」
「うふふ。ありがとう」
にこにことお礼を言われる。
なんともやりにくい。というかこの期に及んで姉さんにああだこうだ言うの妙に気恥しい。
この際一気に言ってしまおうと、私はすぅと息を吸った。
「でも私、どちらかというと手が好きです。私は甘えんぼだって自覚あるから、いっぱい優しくしてくれるのが嬉しいです。だからあんまり胸は、大きさにこだわりっていうか、好きっていうのがなくて……や、手も特別なにが好きっていうのないんですけど」
うむむ、と唸っていると、姉さんはくすくす笑う。
恥ずかしくなって目を逸らすと、姉さんの指が私の耳をくすぐる。
「てっきり私、好きな人なら胸の大きさは関係ないって言われると思ったわ」
「それもまあありますけど……でも私、あみさんの胸がおっきくて良いなって思ったことたくさんあるので。なんか、それはそれかなと」
「沢山?」
「おぅん……」
つい口走った本音を拾われて、姉さんの顔がほんとに見れない。
というか今も圧迫感がね。うん。
そう思っていると、後輩ちゃんがむぎゅうと身体を密着させてくる。
「せんぱぁい♡みうはオッパイちいさくてウレシイッス?♡」
「えと、まあ、それなりに」
「えぇ〜♡たくさんじゃないッスかぁ〜♡」
たくさんというほど触れ合ってないからね。
とか言うと攻勢に出られるので言わない。
どれだけじぃっと見つめられても言わない。言わないったら言わない。
「ちぇっ」
口をつぐんでいると、後輩ちゃんはつまらなさげに諦めてくれる。
ホッと安心する間もなく気を取り直した彼女は、私越しに姉さんを見つめる。
「ってゆーか、おねぇさんもセンパイのことスキなんッスね」
「当然じゃない。姉妹だもの」
後輩ちゃんのじっとりとした視線を堂々と見返す姉さん。
バチバチの火花が散っているような……あれ。ずっとそうだったっけ……?
なんて思ってると、後輩ちゃんの手が後ろポケットを漁ってリルカを引っ張り出す。
そしてそれを姉さんに突き出した。
どきりとするけど、裏に名前を書いた私にしか使えないはずだ。
だけどそもそも後輩ちゃんはそんなつもりじゃなくて、そのカードを見て笑みを深める姉さんに色々なことを察したようだった。
「やっぱりおねぇさんもコレでセンパイとシてるッスね」
「あの、ところでさっきからシてるとか言うのやめない?シてないよ?健全だよ?」
「うふふ。そもそもゆみのハジメテは私よ?」
「姉さんに張り合われると私じゃもうどうしようもないよ!」
私の悲痛な叫びは届かず、ふたりの睨み合いは熱量を増す。
どっちが私をどうこうできただの、私がどういうことを喜ぶだの、きわめて不毛な戦争。
いつの間にか私をいかにして照れさせて妥協させて流してしまうかっていう議論に発展する辺り、もしかしてふたりって相性いいんだろうかと。
そんなことを想っていたら。
「―――とゆーわけでセンパイ、ヤるッス!」
「うふふ。ゆみ。今からたくさん可愛がってあげるわね」
「……うん?」
どういうわけかな?????




