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230 女子中学生と私の未経験

「ねえユミ姉、カラオケっていつ行くの?」

「え。それ正気で言ってたんだ」

「うたがうのは本気までにしといてほしいよ!?」


 がおーと吠えるメイちゃん。

 バイト終わりの更衣室で、突然トチ狂ったことを言い出すものだからさすがに驚いてしまった。


 だってカラオケって。


 全員でどうのこうのってやつだよね……?


「……メイちゃんってアガサクリスティーとか読む?」

「何かのキャラ?」

「いや、知らないならいいんだ」


 『オリエント急行の殺人』とか『そして誰もいなくなった』とかね。

 もしアレ知ってるならまさかそんな密室空間にあのメンバーを集めようだなどと口にすることはないだろう。

 なにが起こるか分かったものじゃない……


「……あのさユミ姉、実はほんとに誰かに脅されてたりするの……?」


 うわぁ、すごい真剣なまなざし。


「いやそんなことはないよ。ちゃんとみんなのこと大好きだしいたいいたいいたい」

「わたしの前でほかの人のこと好きとか言わないで」

「ご、ごめん……」


 つーんと拗ねてしまった。

 たしかに少し不用意すぎたかもしれない……反省しよう。


「メイ」

「つーん……ぇ、え、え?」


 無視しようとしたメイちゃんが慌てて振り向くのを、そのまま壁に追い詰める。

 あぅあぅと私を見上げる彼女は瞬く間に真っ赤になって、着替え途中の制服をきゅっと抱きしめる。


 ……しまった思いっきり下着だ。

 いや気にするな。上だけならまだ中学生相手でもセーフ……!


「そういえば、って思って。私はメイを恋人にするつもりだから、意思表示もかねて」

「ゆ、ゆみ、ねえ、」

「呼び方くらいでびっくりしてたら……この先大変だと思うよ」


 つぶやきは彼女の首元に触れさせる。

 逃げ出そうとしているのかなんなのか、背伸びをするように顔を遠ざける彼女はまったく可愛らしい。


「好きだよ、メイ。恋人にしたい。……これからは、毎日顔合わせたら言うようにしよっか。いつも同じように、違う言葉で、メイに告白するね?」

「ひ、ひぃ」

「だから、ほかの人なんて関係ないくらいに私だけを見て?」


 =関わりたいなんて言わないでね。


 いやうん……だってそんな地獄みたいなカラオケパーティを主宰する私の身にもなってほしい。

 もちろん、そんなささやかな願望とは別にまぎれもない本心ではあるんだけど―――それはそれとしてガチ勘弁デス。


「……で、でもそれはそれとして知っておきたいよ……ユミ姉が、どんな人を好きなの、か……」


 ……ぅん。


「前にあった人たちも、そうなんでしょ? たしかにちょっと結構かなり怖いカンジ分かったけど……でもやっぱり、知っておきたい、ユミ姉のゼンブ」


 ちょっぴりの葛藤を漏らしながらもまっすぐな視線だ。これをはぐらかすことは……さすがにできないなぁ。


「……分かった。ただし覚悟はしておいてね……国産と外国産のホラー映画観るとか」

「ゆ、ユミ姉ってゆうれいフェチなの……?」


 愛は人を狂わせるんだよ……

 違うかもしれない……


「あとは、私がメイを好きだってことを、絶対に疑わないでね」

「……うん」


 こくりと頷くメイ。

 ちょっと気負いしているようだ。


 それならと、私は黒リルカを差し出した。


「メイが安心できるまで……なんでもしていいよ」

「あ、あんしん……」

「ほかのみんなに会っても、今みたいにイヤな気持ちにならないくらい、好きにして?」


 ぴぴ、と私は彼女のモノになる。

 久々の服従感―――ただこれだけで幸福を覚えてしまう私はこう、やっぱりけっこうなマゾヒズムがある気がする……


 さておき。


「おいで?」


 私はベンチに座って彼女を招く。

 ごくりとつばを飲み込んだ彼女は私の隣にやってきて、きょろきょろと目を泳がせた。


「どっ、どうすればいいの……?」

「メイのしたいようにしていいんだよ」

「わかんないよ……」


 ねだるような上目遣いに、だけど私は笑みを返すだけ。

 いつぞや『ヘンタイ』がどうとかお話をしたけど、今回はもっとしっかりと彼女の欲望を引き出していきたい所存。


「難しく考えないで? 私を見て、思いついたことを、そのまますればいいの」

「おもいついた、こと……」


 じりじりと視線が私を上下する。

 思春期だ……かわいい……


 なんて思っていると。


「……あ、のね」

「うん」

「…………むっ、胸、とか、……さわってみても、い、い?」


 ……おお。

 いや、それくらいならまだスキンシップの領域。

 たぶん! きっと!


「もちろん。……脱いだほうが、いい?」

「ヌッッッ!? だっ、ちゃ、着衣で!」


 その言い方はなんかアレだね。

 慌ててるメイちゃんもかわいいけど。


「あんまり触りごたえないと思うけど」


 どうぞ、と差し出す。

 差し出すというか、まあ、力を抜いて待つ。


 メイちゃんは、もう顔から鼓動が聞こえてきそうなくらいに真っ赤になりながら、私の胸をそっと押した。

 びくつく手が、だけどふぃふぃと、張り付こうとする。


「…………ど、ど、う?」

「んー。ふふ、うれしいかな」

「そっか……」


 気持ちいい、とでも答えてあげればよかっただろうか。

 神妙な顔つきで胸をもぃもぃするメイちゃんは、いったいなにを考えて胸を欲したのだろう。


 真っ赤にはなってるけど、なんというか、エッチなことをしてやろうっていう、そういう雰囲気ではないみたいだし。


「……ユミ姉、ヘンなことは、しないんだもんね」

「へんなこと?」

「ほかの人とも、ケンゼン、なんでしょ?」

「まあ、うん」

「じゃあ、こういうことしたの、わたしだけ……だよ、ね?」


 ぱちくりと瞬く。

 そんな私をどう思ったか、メイちゃんはにへらと笑った。


「ゆ、ユミ姉がふっ、フケンゼンなことしたのは、わたしだけだから……わたし、特別?」


 ……そういうことか。

 つまりメイちゃんは、ほかの誰も触れたことのない私の部分を欲しがっているんだ。

 そういうものがあれば、大丈夫だと、そう伝えてくれようとしている。


 ……なるほど。


「そんなの、初めから特別だよ」

「それでも、わたしだけが……ほしくて」

「うん……」


 そうか……


 ……………………となるとこれじゃちょっと不適格だよ……とか、言えないよなぁ……胸のひと揉みふた揉みで不健全ライン超えてるとか判断したら私もう半数以上を『おてつき』にしてるようなものだし……いやもちろんそんなことはなくて、私はとても健全でプラトニックな恋愛をしているんだけれど。


 健全、だょ……?


「………………もしかしてチガう?」

「え、あ、いや、」


 ヤバい、メイちゃんが察した。

 唖然としている。

 そうかと思えば彼女はむぅっと頬を膨らませて、服の下から手をおおおおお!?


「これでも!?」

「だ、ダメ……っ」

「~~~~~! ユミ姉ヤりすぎ!」


 いやダメって『それはもうほかの人がやった』っていうことじゃなくてね!?

 私はなにもやってませんけど!?


「じゃ、じゃあこんどは……!」

「ひぅっ」


 ふんすふんすと我を忘れたメイちゃんは、いろんなとこを揉みこもうとする。

 黒リルカの効果によって逆らうことのない―――絶対的に無防備な体にはその刺激はあまりにも甘美で、たまらなくて、どうしようもなくて……ガチでヤバい。


「ふっ、ぅあっ」

「ユミねえっ……はぁっ、ユミ、ねえ……!」


 もはやメイちゃんもめちゃくちゃ興奮状態で自分が何をやっているのかさえ理解していない気がする。


 これは煽りすぎたか……?


 この勢いでいったらそれこそ私の肉体のすべてを揉まれる―――


 いやそれで終わるのか……?


 もし全部の全部を揉み終えて、それでなおメイちゃんが納得しなかったら……その次は、指ではなく、いったい何が私に触れることになる……!?


「んゃっ、あっ、ぅ、んんんぅッ」


 ああけれどけれどどうしようもない。

 な、なんでこんな、上手い、っていうかヤバい、メイちゃんが、こんな我も忘れて私を求めているという事実に脳が機能してくれない。


 ほんとロクでもないなこの私は……!


 マゾヒズム拗らせすぎだろ……!


 これ、さては本格的にヤバいな?

 ちょっとあ、まずい、これ下手したらメイちゃんに連れてかれる……! どこにとは言えないけど……! 多分天国に最も近いところに……ッッッ!!!!


 私はなけなしの理性を振り絞ってメイちゃんの手を握る。私の首元にあみあみと吸い付いていた彼女はゆらりと、まるで熱に茹だったみたいに濁った瞳で私を見上げた。


「き、もちい、よ、」


 私がそう告げると、彼女はぴたりと止まる。


「もっと、して、いっぱい、シて?」


 彼女はそれはもうまじまじと私を見つめる。

 唾液をこぼしながら、たぶんきっと快楽にとろけきっているだろう私の顔を。


 そして―――


「……わ、わあああああ!?」


 悲鳴を上げながら彼女は逃げていく。

 勢いあまってベンチから落ちた彼女を心配したかったけど、全身の疲弊感がそれを許さない。


 ああでも……メイちゃんが私と違って理性を持っている子でよかったよ……ガクッ……


「ゆ、ユミ姉……? ユミ姉! ユミ姉ッ! お、お母さん呼んでくるね!?」

「それはちょっと待って」

「きゃあ!」


 がしっ。

 手をつかんだら悲鳴を上げられた。

 いやでも気を失ってるような場合じゃない。


 だってこのありさまをもし母親なんかに見られてみろ。


 死ぬじゃん。


 私。


 未成年淫行で死刑だよ。

 私もまだ未成年だけどそんなこと関係ないんだよ……!


「だっ、大丈夫だから。ね? 落ち着こう?」

「わ、わたし、わたし、ゆ、ゆみね、ねねね、」

「お、落ち着いて。深呼吸だよ」

「こ、こここれ、ここ、これって、だって、わたし、ゆ、ゆみねえと―――え、えっちしちゃった……!」


 ……そうきたかぁ。

 目をキラキラさせながら青ざめるというなんとも器用な表情に、申し訳なくなる。

 だけどこれは健全だったんだよ……私が私である以上今のがマズい行為だったと認めるわけにはいかない……!


 ―――トントン


「「!?」」

『メイ? ユミカちゃんも、なにか―――


 私はとっさに無リルカをたたきつけていた。

 世界が灰色に染まって、私とメイちゃんはふたりきりになる。


 と、とりあえずあれだ。

 この時間が終わっても私の身体の状態は戻らないから今のうちに整えて、それからそして、茫然としながらもなんか口角上がり始めてるメイちゃんをあれはまったく健全だったと説得する……ッ!


 そうしなければメイちゃんはこんな状況でしかもカードのせいでハジメテをシたとかいう黒歴史とともに命を狙われかねない……!


 さすがにそれはかわいそうすぎる!

 シラフに戻ったらメイちゃんが発狂してしまう!


 っていうかそれしか私にも生きる道はないし!


 この30分に私たちの命運がかかっている!

 ほんと誰だよ黒リルカなんて使ったやつッ!

 いつもいつもロクなことにならないのにッ!


 ほんとリルカってクソだッッッ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こ、これは…さすがに健全とは…健…全…。 にしても誘い受け適正がグングン上がっていきますね。Mなのを更に自覚し始めているし、本格的に一発何かが起こっても仕方ない領域に突入してる気がします……
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