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001 血のつながった姉と

始まりです。

光沢弾く白に、白銀の百合。

シンプルかつゴージャスなデザインのそのカードは、私が求めてやまないものだった。


―――百合援交専用ICカード“LILCA(リルカ)

 

これを提示すれば、女性ならば誰でも買えてしまう(・・・・・・)という魔性のカードだ。

どうせ都市伝説とばかり思っていたけど、こうして本当に手に入れられてしまうとは。


さっそく試してみたい。

そう思った私は、金属質な重みをもつそのカードを手に姉さんの部屋へと向かった。

姉さんは、ノックもなく入ってきた私に驚いたようすだったけど、リルカを見せつければ困ったように笑った。


「それ、冗談じゃないわよね?」

「もちろん。30分でいいからつきあってよ、姉さん」


私がベッドに腰かければ、姉さんは隣に座った。

そして私の太ももに、姉さんは手を乗せた。

さっきの困ったような表情と裏腹に、意外とノリノリだ。


姉さんのスマホにカードをかざせば、ぴぴ、と電子音が鳴って取引が成立する。


「本当に実の妹に買われちゃったのね」


姉さんのささやきが鼓膜をくすぐる。

ふっ、と、姉さんの吐息が私をじらす。


「ゆみちゃんは、私とどんなことがしたいのかしら」


姉さんの指先が、つぅ、とももをなぞった。


どんなこと、なんて決まっている。

わざわざこうして姉さんを買ってまでやりたいことなどひとつしかない。

私は笑って、姉さんをベッドに押し倒した。

ジムにも通っている姉さんの身体は引き締まっているのに、ふかふかと柔らかい。

とくに胸なんて、本当に血縁関係にあるのかと疑わしいほどだ。


もちろん、姉さんは本当の姉さんだ。


だからこそ、私は姉さんに言った。


「姉さん、ぎゅっとしてよ」

「ふふ。甘えんぼさんね」


姉さんが私をぎゅっと抱きしめてくれる。

それが嬉しくて、私も姉さんをむぎゅうと抱き返した。

柔らかくて暖かくて、ホットミルクみたいな香りがする。


普段家にいない母に代わって私の面倒を見てくれている優しい姉さん。

最近は大学のレポートが忙しくて、部屋に籠っていることが多くなってしまった愛おしい姉さん。

だけど今は、この30分だけは、姉さんは私のものだ。


「ごめんね、レポートの邪魔しちゃって……。でも、最近姉さんは忙しそうだから、寂しくて」

「そう、ね……」


姉さんは優しく頭をなでてくれる。

こんなわがままを言う妹に幻滅しただろうか。

怖くて顔を見られない。

だけど姉さんは、私の頬を包んでそっと持ち上げた。


姉さんは、優しく微笑んでいた。


心地よい安堵に蕩けていると、姉さんの唇が、私の額に触れる。

しっとりと張りついて、ちゅ、と可愛らしい音を立てて離れていく姉さん。

それだけで心がほわほわしてしまう。


「これからは、毎日すこしだけでも、こうしていっしょの時間を作るわ」

「そんな。悪いよ。私、我慢できるよ」

「私がしたいのよ。私だって寂しかったんだから」


そう言ってくれる姉さんが、涙が出るほどに嬉しかった。

顔を見られたくなくて姉さんの柔らかな膨らみに顔を埋める。

ふにふにと柔らかくて、溶けてしまうほど温かくて、眠たくなるほど心地いい。


うとうとしていると、ふと、気がついてしまう。


姉さんの胸は、ブラのごわごわした感触がない。

半分くらい眠っていたせいか、無意識に、確かめるように服の上から掴んでしまった。

やわらかい。

もむもむしていると、くすくすと、からかうような笑い声が降ってくる。


「ゆみちゃんは、抱っこじゃ物足りないのかしら」

「ぇ、あ、えと、そんなことないよ」

「そぉう?」


姉さんの指先が、シャツの裾から入り込んで脇腹をくすぐる。

くすぐったいよりも、驚きに身が竦んだ。

うとうとなんてしていられない。

見上げれば、姉さんの、見たこともない笑みが見下ろしている。


「わ、私、妹だよ」

「ええそうね。私はあなたが生まれた時からずぅっと姉よ」

「だ、ダメだよ、こんなの」

「あら。こんなのって、どんなこと?」

「それは……」


姉さんとこんなの(・・・・)をするところを想像してしまって、かぁ、と顔が熱くなる。

もしかしていま抱き合っているのもとてもイケナイことなんじゃないかってそう思えたけど、姉さんは私を抱きしめて離さない。


怖くなってきゅっと目を閉じると、姉さんの吐息が近づいてくる。


くい、と顔を上げられて、それで―――


「ぁ」

「冗談よ」

「な、なぁんだ」


ほっぺたに触れた、熱い、熱い、姉さんの唇。

イタズラめかしてウィンクする姉さんに、私はほっとする。

けど、すこしだけ、残念だなって、思っていた。


そんな気持ちを見ないふりする私に、姉さんは耳元で囁いた。


「―――また今度、ね」

「ぅ、」


またこんど。


そんな言葉を、冗談だって姉さんが笑うのを待っているうちに、30分は、過ぎてしまった。

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