183 そういうんじゃない保健室登校児と寝起きで(1)
精の出るスポーツ娘との早朝密会を終えて。
急ピッチで準備を終えた私は、いつもより少し遅れて登校した。
ちらっと覗いたらカケルはすでに教室で友人らしき人たちとお話をしていて、なるほどさすが陸上部だなぁとか思ってみたり。
で、お昼。
冷静に考えたらあんまり授業には遅刻するべきじゃないので、午前中は相談事とかはいったんなし。正直、ハーレム云々っていうのもまだうまく消化しきれてないし。
せめてこう、もっと健全な名称だったらなぁ……いや、っていうか名実ともにまともになってほしいんだけども。
さておき。
じゃあ昼休憩にはどうなのかといえば、なにせ私はといえばめちゃくちゃ寝不足だったものだから、お昼寝をすることにした。おなかいっぱいな時間を耐えられる気がしない。
お昼ご飯をかっくらったら、保健室のベッドにお邪魔する。
隣のベッドは使用中だったけど、ついお話に花を咲かせてしまったら本末転倒なのでいったん寝ることにする。
スマホのタイマーを15分くらいにセットして、ぐっすりーぷ。
―――
――
―
ぴぴぴぴぴぴ
「んぁ」
「ッ」
ば、と体を起こす。
……そう、寝てたんだ。
寝てたんだけど、、、こう、短時間の睡眠って『やばい起きなきゃ!』みたいな気分ですごい急覚醒するよね。
って。
「あれ? おはよう?」
「……おはよう」
私が起き上がったのにか、それともアラームにか……ともかく驚いた様子のユラギちゃん。
いつからそこにいたのか、パイプ椅子に座って顔をしかめている。
「せっかく来たんだから挨拶くらいしとくべきだったね。ごめんごめん」
「別にわたしんちじゃないし」
「ふふ。それはそうだけどさ」
くわぁ、と盛大にあくびをして。
目をくしくしとこすって。
熱を持つようにじぃーんとする頭を軽く振って。
それからぱちぱちと瞬きで眠気を散らして。
「え。見てたの? 寝顔」
「は? 違うし」
「あ、そう。じゃあなにしてたの?」
「……別に」
ほほぅ。
「コイツを見てもおんなじことが言えるかな?」
「うわ出た」
「そんな本気で呆れなくてもよくない……?」
まあ呆れられても使うんだけどさ、リルカ。
ぴぴっと。
「まあでもそんな隠すことじゃないよ。人の寝顔ってなんか面白いしね」
「別に面白くないし」
あー。
うん。
もしかして、っていうかもしかしなくても、ちょっと冗談が過ぎただろうか。
いけないな。寝起きっていうのはどうも思考がごちゃついてしまう。
「ごめんね」
「そう思うならやんないで」
「はい……」
しょんぼり。
なんかもう、ほんとに申し訳ない。
はぁーあ。
なんてやってると、彼女は舌を打つ。
「あのさ、落ち込まれるとウザいんだけど」
「ご、ごめん」
「…………別に怒ってないし」
それ怒ってる人が言うやつじゃん?
と、思ったけど、でも、そっぽを向く彼女はなんとなく本当に怒っていないように見える。
まあ、なんとなくではあるけども。
じゃあどういう感情なのかと言われれば……うーむ。
これは……つまり、たぶん。
「もしかしてだけど……照れてる?」
「……」
あ。
分かる、分かるぞ。
今は明らかにめちゃくちゃ怒ってる。
「ごめんごめん。えへ」
「にやにやすんな」
「ごめんって」
「あーもうウザい」
何度も何度も舌を打つ彼女は、だけど耳まで真っ赤にしている。
面白がっていたわけじゃないなら、いったいどうして寝顔なんて見ていたのか―――そりゃあ強引に口を割らせるなんてリルカ中の今なら訳ないけど、さすがにしない。
だけど妄想するのは自由だろう。
ふふふ、可愛いやつめ。
「ぜったいまたバカみたいなこと考えてるし」
「そんなことないよぉ」
「だって顔がバカじゃん」
「もしかしなくても罵倒だよ?」
やいのやいの。
彼女とくだらない話をしているだけでなんとも癒される。
もはや私にとっての一番の癒し空間と言えるかもしれない。
……彼女とも、きちんと話をしておくほうがいいんだろうか。
ユラギちゃんはなんだか、そういう感じではない……と、思うんだけど。
どうなんだろう。
分かんないや。
ああでも、もしかしたらハーレムを目指すかもしれないとか言ったら面白い反応を……いや普通に呆れられるだけか。
「なにひとりで笑ってんの」
「いや。ちょっとバカみたいなことを考えててね」
苦笑してみせるとけげんな表情をされる。
彼女にだって相談してもいいとは思うんだけど、でも、なんとなく言葉が出ない。
なんでだろうなぁ、とか、思いながら。
私は、彼女とくだらない言葉を交わす。




