125 お祭り騒ぎな彼女たちと(11)
平和主義な先輩たちによってまんまと優勝トロフィーになったところで文化祭一日目は終わってしまう。
親友につんつくと小突かれながら図書委員ちゃんに本を渡すために待合せたら、当たり前のように先輩たちもいた。そんな集団は、主に生徒会長さんがいるからか妙に目立って、楽しそうな気配に誘われて後輩ちゃんまでやってくる。
これは大所帯になったなとしみじみ思っていると遠くにカケルも見つけて、せっかくだから誘ってみたらやや驚いた様子で合流してくれた。
こういう特別な日だからか校門の前で待機していた先生がとても面白いものを見たかのように片頬を上げていて、なんだかまたいずれいじられそうな気配がある。
とりあえず手を振ったら振り返してくれて、先生の隣にいた別の先生が驚いていた。
……ん?
ということは、これでほぼ学内の好きな人をコンプリートしてしまったわけだ。さすがにあのふたりはこの場にいないだろうし。いても呼びつけるのは忍びない。
なんかもういっそハーレムだぜいぇいとか図に乗りたいような、そんな冗談を言う暇があったら無事に家に帰られるかどうかを心配したほうがよさそうなそんな気分。
ひとりで謎に緊張しながら、みんなで帰路についた。
「こんちわッス! セートカイチョーさんとそこのメガネっ子さんはほぼハジメマシテッスよね!」
「こんにちは」
「はははい! よ、よろしくお願いします」
「よろしくッス! みうはみうっていうッス! お気軽にみうって呼ぶッス! センパイたちセンパイッスもんね!」
普段かかわりのなさそうな人たちにも果敢に話しかける後輩ちゃんをきっかけに、なんだかんだ面識のない人の間であいさつが交わされる。
私を中心にした集中線が蜘蛛の巣状につながるこの光景……なんだかこう、妙に気恥ずかしい。
「にしてもバリエーション豊かッスねー。知ってたッスけど! めちゃゆーめー人もいるッスし、先輩もスミに置けないじゃないッスかぁー」
「まあユミカはスミどころか渦中の人だからね」
「気分は栗ですよ……」
「カチュウ違いじゃないですか……?」
先輩や図書委員ちゃんとくだらないことを言っていると、早々に興味を切り替えた後輩ちゃんが生徒会長さんにずぃっと顔を向ける。
「えっ、えっ、てゆーかぶっちゃけセートカイチョーさんってセンパイとどこまでいっちゃったッス!? 気になるッスけど!」
「下世話が過ぎない? 言い方っていうものがね」
「ベッドの上で気持ちよくしていただいたこともありますが……そのくらいですね」
「ひゅぅーう」
「へぇ」
「はわぁ」
「あはは。……ふうん」
「シトギ先輩それわざとやってます???」
「はて」
そんな可愛らしく首をかしげてる場合じゃないんですよ。
ノリノリなの後輩ちゃんだけで明らかに空気が変質した若干二名がいるんですよ。
あと図書委員ちゃんは目を隠しても意味ないからね? それともあれか、この状況が目も当てられないとでも言いたいのかその通りだよ。
なんだこれカオスか……?
「ぜひとも詳しく聞いておきたいねユミカ」
「いや考えてるようなことじゃなくてですね」
「ボクはせいぜいマッサージだろうと考えているけれど―――それどころじゃないとでも?」
「ごめんなさい合ってますマッサージです」
「わたしユミカの家また行きたいなあ」
「この文脈で……? いやいいけど」
「やたっ。じゃあゴハンいらないって連絡しよー」
「今日は無理だよ!? おもてなしさせてよちゃんと」
「あはは、そーゆーとこスキかも」
「ドコ???」
なにが良かったのかにこにこ笑うカケルはとりあえず大丈夫……なのかな。たぶん。
先輩はさっきから脇腹を指でふぃふぃつまんでくるのがとても気になる。引きちぎられたらどうしようとか、そんな普通必要ない心配が止まらないんだ……
というか、いつなんどき先輩たち―――というか先輩が勝者特権を行使しだすのかと戦々恐々しているんだけど、さすがにこの場ではしないっていうことなんだろうか。
……それとももしかして、こうして意識するのもまた特権とでも言うのだろうか。私が気にしすぎなだけなのかそれとも……うん。あんまり考えないようにしよう。
「島波さんのマッサージ……わ、わたしも興味があると言ってみてもいいでしょうか」
「はいはいみうもみうもーッス!」
「別にいいけども。私別にプロとかじゃないよ?」
「そうご謙遜なさらないでもかまいませんよ。随分と柔らかくしていただきましたから」
そう言って自前の大きな胸を軽く持ち上げるシトギ先輩。
あくまでもほぐしたのは肩なんだけど、なんだかこう……ね。
「へえ。そんなに柔らかかったんだね、ユミカ」
「いやむしろカチカチでずいぶんご苦労しているようでしたけど」
「柔らかそーッスもんね」
「肩がね。見た目はほっそりしてるしね」
「わ、わたしはそういうのはちょっと……」
「どういうのか私には全くわからないよっっっ」
「でもぶっちゃけ手が滑るくらいはあったんじゃない?」
私は目をそらした。
シトギ先輩は苦笑していた。
言葉より明確で火を見るよりも明らかだった。
西日が目に染みるなぁ……
「まったくユミカは目を離すとすぐにオイタが過ぎるね」
「みうもオカシなことされちゃうんッスかねー♪」
「はわぁ」
「あはは! じゃあせっかくだしキタイしとこっかな」
「いえ、あの、基本的には真摯にマッサージをしていただいたのですよ?」
「シトギ先輩……先輩が口を開くたびに私の寿命が削れるんです……」
そういえば以前も思ったんだっけ。
複数人を一堂に会するべきじゃない、って。
なんにも学習してないや……あははは、は、はは……




