123 お祭り騒ぎな彼女たちと(9)
文化祭のクラス出し物の中には、一日目しかないものもある。
家庭科部の手作りお菓子と小物だとか、文芸部の詩集だとか。
その中のひとつに図書室で開催している古本の配布があって、当然ガチ勢であるシトギ先輩に連れられて私たちは図書室を訪れた。
私といるとイメージが違うらしい先輩は、シトギ先輩にそう指摘されたからといって何が変わるでもなくいつも通り。逆に私のいないときの先輩はどんな風なんだろうって気になって見つめてみるけど、返ってくるのは微笑みばかりだった。
さておき。
そんなこんなでやってきた図書館。
新しく入ってきた本に押し出されて本棚にいられなくなった本を読書好きのために解放しようという催しは、昼前ということもあってすでに一通り終わった感がある。
それでもまだ熱心に本を吟味する生徒もちらほらいて、その中には図書委員であるはずの彼女も混ざっていた。
「こんにちは」
「あ。こんにちはシマナミさん。先輩方もこんにちは。ご一緒に回られているんですか?」
「ええ。文化祭の出し物をすべて制覇するという私の目標にお付き合いいただいているのですよ」
「ボクはユミカと文化祭がまわりたいだけかな」
「はわぁ」
先輩のストレートな言葉にぽぽと頬を染める彼女に、先輩は気をよくしたようでうむうむとうなずく。
まあ気持ちは多少分かるけど。
「オノデラさんは、今日は委員会側じゃないの?」
「もちろんそうですよ。ですがそのぅ……」
にっこりとうなずいたかと思えば、テーブルに並べられた本をちらりと見やる。
そういえば声をかける前の彼女も同じように、それはもう熱心に見ていたような気がする。
なるほど。
「ほしい本があるの?」
「はい。……ですが、図書委員は終わった後に残ったものからしか持っていってはいけないんです」
「ああ。じゃないとなくなっちゃうもんね」
「昔そういうことがあったみたいです」
冗談めかして笑うと真剣な表情でうなずかれる。
表情的に彼女も似たようなことをしでかしそうな雰囲気があるっていうのは気のせいじゃなさそう。
「ああ、それボクらのふたつ上の先輩だよ」
「急遽中止になったと張り出されていましたね」
「へぇー」
その先輩に返還させるんじゃなくて中止になるっていうことは、たぶん相当な読書好きだったんだろう。
そんな先輩に思いをはせつつ。
「ほしい本って、これ?」
「はい。そうですね」
彼女が物欲しげに見つめていた本は指輪物語の大きなハードカバーの本だった。
あの指輪物語がお役御免になるなんてあってたまるかと思ったけど、聞くところによると文庫版を仕入れたから重いやつはさようならするらしい。
なるほどねーなんて思いながら、私は本を小脇に抱えた。
「じゃあこれもらおっかな」
「え……」
―――絶望、と。
そう表現する以外にあり得ない、深い、深い暗闇に沈む彼女の表情。
このまましばらく放置してみるのも悪くないとは思ったけど、気絶とかしそうな危うさがあるのでひどいことはしないでおこう。
「それで、終わったらまた取りにおいでよ。なんなら家きてもいいし」
「え?」
「ほかの人にとられないように私が貰っとくよ。それならいいでしょ?」
「シマナミさん……ッ!」
ぱぁ、と感極まった様子でまるで神様にするみたいに手を合わせる彼女。
ちょっと大げさすぎやしないかとは思うけど悪い気はしない。笑みを浮かべていると、横からむぃっと頬がつままれて、反対側の肩にぐぃっと力強く手が置かれる。
「へえ。そうやって女を誘えばいいわけなんだ。参考になるよ」
「島波さんはとてもお優しい方ですのね」
左右の先輩たちに圧力をかけられる。
とてつもなく人聞きが悪いし。この件に関してはただ彼女に喜んでもらおうっていうだけでほんとに下心とかないのに。
「あーはは。えっと。まあ放課後とかでいい?」
「はい」
「じゃあまた校門のところでいい?」
「もちろんいいよ」
「構いません」
「……いや、なんで先輩たちが答えるんですか」
おいおいまさかな、と視線を向けてみても、ふたりは特に答えずしれっとしている。
ぱちくりとまたたくオノデラさんの困惑に、私は応える言葉なく苦笑するのだった。
……え。
ほんとに四人で帰ることになったりしない……ですよね……?




