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アリーナの外に出た。
外は何故か人が一人も歩いていない。
近くに商業施設もあるのでもしかしたらそこにいるのかもしれないと考える。
「電車動いてないかも」
「だな」
「さすがにここから歩いて帰るのはやばい」
正直言って考えたくない案だ。
いくら隣県住みだからといって徒歩では何日もかかるだろう。
「そうは言っても、野宿で住めるほど安全でもなければ旅慣れしているわけでもないんだろ」
「ん」
私は思わずその場にしゃがみ込んだ。
考えたくない。
人がいないところで何も考えず寝たい。
そんな私の様子を見て彼は何か思ったらしい。
「俺の天敵がいるからここからは離れるが、近くに休めるところがあればそこで休んでもいい」
「駅までじゃないの?」
彼はそう問いかけると不満げに顔をしかめた。
「お前みたいな非力がこのまま生きていけると思うなよ」
「アッ、ハイ」
(あんだと)
とりあえず近くのホテルに泊まることにした。
ひとまずゆっくり腰を落ち着けようというわけである。
有名なビジネスホテルにきたが受付には人がいた。
そう、驚くことに時間が経つにつれて普通に人が出歩きだしていたのだ。しかも慌てた様子もなく、いつも通り。
どういうことだろうと偽夜長くんを見上げると、彼はその光景に目を見開いたまま顔を真っ白にして、うっすらと冷や汗をかいていた。
ギョッとして大丈夫かと聞いたが何も答えなかった。
ごく普通にチェックインをして部屋に入る。
部屋はよくある味気ないビジネスホテルだ。
「あれ?男女2人でホテルってやばくね?」
「逆に聞くが、何かあると思ったのか馬鹿が」
「思ってるわけないだろお馬鹿」
そういう問題ではないし、馬鹿と言われるとは思わなかった。
彼は汗をかいて身体が気持ち悪かったらしく、すぐお風呂に入りにいった。
その間私はベッドの上でぼーっとしている。
ただ頭の中は先ほどまでのことで回り続けてばかり。
いろんな問題が浮かんでは消え、浮かんでは消え、答えの見つからないまま、あっという間に彼はお風呂から出てきた。
彼はドカリとベッドに座り込む。
格好はバスローブだ。
最近のビジネスホテルはバスローブが用意されているのか。それともこのホテルの仕様なのか。
彼がおもむろに喋り出す。
「あんたは」
「ん?」
「あんたはさっきまでの光景をみてどう思った?」
さっきまでの光景。
このホテルに着くまでの光景のことだろう。
「おかしい
あまりにも普通
まるで日常」
タオルの影から見える彼の表情はあまりに暗かった。
「そうか
やっぱり、そうだよな」
彼が次の言葉を発さないと思った私は、これまで疑問に思っていたことを彼に問いかけた。
「ねえ、なんであなたたちは私達を殺そうとするの?」
彼は静かに口を開く。
「理由も何もない
ただ目に入ったら殺そうとせずにはいられなかった」
「止められないの?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「俺もこの状況を全部理解しているわけじゃない
わかっていたらこんな、こんな」
彼の動揺が見てとれた。先ほど彼が見せた表情と同じものだ。
私はできるだけゆっくりと、落ち着いて話しかける。
「どういうこと?」
「ドッペルゲンガーって知ってるか?」