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18.報酬授与と地球への転移

「勲功第一位、ハヤト・シングウジ。前へ」


 後日、褒賞を授与すると言うことで、アンジェ王女──いやもう女王か──に呼び出されたのだが、いきなり式典に巻き込まれてしまった。

 勘弁してくれ、こちとら王宮での礼儀も知らない異世界人だっつーの。一応事前にどうすればいいかは教えてくれたが、正直半分も頭に入ったか怪しい。失敗しないように意識するだけで精一杯で、周りを見ている余裕など全くなかった。


「はっ」


 呼ばれたので返事して前へ。アンジェ女王の前に、えーとまずはひざまずくんだっけ? ひざまずいて、頭を下げる、と。


「この度の貴公の働きは見事である、戦功一位を称え、これを授与する」


 横にいる執政官、か? まぁ、そんな感じの人が文章を読み上げる感じで言葉を紡ぐ。それと同時に、俺の目の前に何か持った人がやってくる。えーと、まだここで顔あげちゃいけないんだっけ? どっちだっけ。


「面をあげよ」


 あ、言われた。ここであげればいいんだな。俺が言われた通りに顔を上げると、目の前には身長ぐらいありそうなでかい杖を持った人が立っていた。杖? これが褒賞?


「ハヤト・シングウジには、国宝「ラインハルトの杖」を授ける。今後もその比類なき魔法によりウィンダミア王国に迫る危機を振り払うことを期待する物である」


 いや、それ無理だから。俺もう帰るから。とはいえ、この場でそんな返事ができるはずもなく、俺は恭しく杖を受け取る。っていうか、


(い、いらねぇ……)


 正直杖なんてもらっても困る。そもそもからして、発動体の指輪があれば魔法は発動するし、逆にいえば発動体としての力がない杖なんか持っても、ただの棒状のデッドウェイトに過ぎない。俺にとっては無用の長物どころか邪魔以外の何物でもない。

 しかも、さっき聞こえた言葉が錯覚でないとしたら、国宝って言ったよな、この儀式官。そんなものを他世界の人間にホイホイ与えるんじゃない。しかも俺にとっては完全に無用の長物を! これは、事前にアンジェ女王と取り決めで何が欲しいとか注文しておくべきだったな。とはいえ、それを後悔しても遅いわけで。


「しかと受け取りました。今後もアンジェリカ女王陛下に一層の忠誠を誓います」


 って言えって言われたな確か。うん、ちゃんと覚えてるぞ。そして、一歩二歩と下がってから、振り返って退出、だな。

 ちゃんと今までの行動があってるか不安だが、とりあえずさっさとこの重い空気の中を出るに限る。俺は急いでしかし慌てずに玉座の間を後にする。


「ふーっ」


 玉座の間を出ると大きくため息を一つ。あーしんどかった。短い時間だったが神経が存分にすり減った時間だった。

 とりあえず、褒賞の授与は終わったし、これで王城にもう用はない。さっさと桜と合流して地球に帰ろう。そうしよう。

 ラインハルトの杖はアイテムボックスにしまっておこう。多分一生ボックスの肥やしになると思うが。


「あ、やっと来た。待ってたわよ」


 城を出ようとすると、ちょうど出入り口に当たるところに桜が待っていた。俺を待っていたのか? ってそんなの考えるまでもないか。


「おう、それじゃ帰るか。まずはお前の記憶を読ませてもらうぞ」


「き、記憶を読むって……」


 俺が記憶を読むというと一歩後ずさる桜。


「いや、お前のいた地球に確実に送り届けるためには、その場所の記憶が必要なんだよ。俺のいた地球と違う地球の可能性もある以上な」


 俺がそういうと、桜は途端に表情を変え悲しみの表情を浮かべる。


「そっか……、違う地球の可能性もあるんだった。なんで忘れてたんだろ……。じゃ、もう会えないのかな……」


「あー、少なくとも俺がその地球に尋ねに行くことは可能だが──」


「でも、あたしからは会いにいけないよね……」


 そう言って沈痛な表情を浮かべる桜.うーむ、こういう時なんと答えを返せばいいのやら。


「ねぇ、あなたの冒険についていくことって無理かな? あたしあれから強くなったんだよ? モンスターも殺せるし、なんなら人殺しだって躊躇なくできるようになった。絶対足手まといにはならないから。ダメ……?」


 縋るような瞳でそう言ってくる桜。なんか物騒なこと言い出しましたよこの子。

 うーん、俺としては連れて行ってもいいとは思うんだが、俺以外のやつを転移させることは出来ないっぽいしな。呼晶も俺と契約してる召喚獣じゃないとダメだし。まさか、人間相手に契約するわけにもいかない。

 どうしたものかと悩んでいると後ろから声がかかる。


「勇人様。勇人様がどうしてもとおっしゃるのなら解決する方法がございますよ」


 いつの間にか実体化したのか、青龍が後ろに控えて俺に声をかける。


「解決ってどうやって? 召喚も一緒に転移もできないだろうに」


「勇人様には霊亀がいるではないですか。霊亀の背中に待機してもらって、あたらしい世界にきたら霊亀を召喚してそこから連れ出せばいいのです。そうすれば、誰であろうと異世界へ連れて行くことができます」


 青龍のその言葉を聞いた桜の顔がパアッと明るくなる。


「なるほど、そういう方法があったか。でも、霊亀の背中ってまだ全部見て回った訳じゃないけど、自然しかなさそうだったぞ。待機するには厳しくないか?」


「あの背中、北海道以上の広さがありますので、全部見て回るのは厳しいかと。まぁ、待機場所に関してはプレハブ小屋でも買って建てておけばいいのではないでしょうか? もしくは、移住者に大工などいれば建ててもらうというのも手ですね」


 北海道ってそんな広いのかあそこ。それだと確かに全部見て回るとか不可能だな。プレハブ小屋ねぇ。まぁ、金はあるから買うだけなら問題ないが搬入と組み立てが大変そうだな。まぁ、でも解決方法はあるようで何より。

 あ、ちなみに霊亀の背中に退避させていた、アンジェ王女の一派たちはすでにこちら側に移動済みだ。すでに、奴の背中にはもう誰も人がいないことになるな。


「じゃ、その方向で。取りあえずは、桜を地球に送り返すぞ。ほら、とっとと記憶読ませろ」


「あ、うん」


 そう言ってこちらに頭を差し出してくる桜。いや、別に頭が対象の魔法ってわけでもないんだが。まぁ、いいか。


「『メモリーリード』」


 魔法を唱えて桜の記憶を読む。うん、この場所か、ちゃんと覚えたぞ。


「よし、行くぞ。アンジェ王……じゃない女王に別れは告げたか?」


「うん、それは昨日のうちに済ませたから」


「なら、行くか! 『ポータル』」


 もらったチート能力、ポータルで地球へのゲートを開ける。そして二人してゲートをくぐるとそこは紛れもなく地球だった。

 うん、電信柱もある、地面はアスファルト、家の壁はブロック塀。どこから見ても現代地球だな。

 桜の方をみやるとつぅーと涙を流していた。


「帰って来た……。帰ってこれた……。よかった、よかったよぅ、ぐすっ」


 思いっきり泣きじゃくる桜。まぁ、俺だけ帰れるってなった時に半狂乱になったことを考えるとい郷愁の念が強いのは分かってたが、泣くほどなのか。まぁ、いつでも帰れる俺とは背負ってる背景が違うのは当たり前だが。


「で、ここがお前の家でいいのか?」


「ぐすっ……、うん。私の家の前よ。行きましょう、家族に紹介するから」


「いやいや、待て待て。それは流石にまずいだろう」


 家族に紹介するとか言い出した桜を慌てて止める。


「なんで?」


 そこで純粋に疑問を返す桜。こいつわかってねえ。


「今のお前の状況を冷静に考えろ。お前は異世界に行って1ヶ月以上行方不明だったんだ。それがいきなり帰ってきて、そばには見知らぬ男。俺が親なら真っ先に警察を呼ぶね」


「あ……」


 俺の指摘で気づいたのか、言葉を失う桜。


「で、でも、紹介もしたいし……」


 そう言ってモジモジし出す桜。あーもう、こいつは。


「それはまた折りを見てでいいだろ。取りあえず、今は一人で帰れ。次の異世界に行く時は迎えにくるからその時でいいだろ」


「……うん、分かった」


 絶対にわかってないって顔だが、そこは妥協したようだ。


「じゃあまたな、桜」


「うん、またね」


「『テレポート』」


 桜に別れを告げると、ポータルでなく、テレポートを使って俺の家へと帰る。

 そうすると、寸分違うことなく、俺の家に帰ってくることができた。


「さて、ここは本当に俺の家なのか」


 桜に言ったように、ここは俺のいた地球と違う並行世界の地球の可能性がある。それを確かめておきたかった。

 そのまま鍵を開け──うん、鍵は合ってるな──自分の部屋へ。するとそこは俺が異世界に行った時そのままの状態で残っていた。


「ふむ、部屋の内装は出てきた時と変わらない、か。だが、念のため……」


 俺は呼晶で青龍たちを召喚する。


「青龍、白虎。聞きたいんだが、ここは間違いなく俺のいた地球か?」


「どうでしょう? ガイアとの繋がりは確かに感じますが、全く同じかと言われると自信はありませんね」


「そんなん確かめるの簡単じゃん。私らをここに置いたまま、『ご主人の世界の自分の部屋』にポータルで転移すればいいんだよ。私らがいたら同じ地球ってことだ」


 白虎に指摘されて、確かにそれはその通りだと気づいた。


「なるほど、じゃあ『ポータル』!」


 白虎のいう通りポータルを起動する。すると、目の前に2つのポータルが開いた。


「うん、こりゃくぐるまでもなく確定だね」


「ですね」


「とすると桜とは同じ地球ってことか。こりゃ面倒がなくてちょうどいいな」


 あ、連絡先交換するの忘れてた。でも、よく考えれば1ヶ月以上異世界に行ってたんだからスマホの電源なんてとっくに切れてるか。ソーラーバッテリーとか電源持ち込んでる俺とは前提条件が違う。


「ま、取りあえず心残りに関しては無事消化できた。あとは次の異世界だな」


「あ、そうだご主人! 異世界救ったらチートが何か貰えるんでしょ! だったら、もらって欲しいのがあるんだけど」


「貰って欲しいもの?」


「うん、それはね──」


「──それいるか? ポータルでも解決できそうな事案だが」


「ポータル経由だと時間かかるじゃん。こっちはすぐにできるからお得だと思うよ」


「うーん、まぁ一応提案してみるけどな。そもそもからして今回のは異世界をちゃんと救えたのか未知数だからそもそも貰えない可能性もあるぞ」


「ま、ダメ元でいいじゃん」


「ま、それもそうか」


 じゃ、あとはアドミンからの連絡待ちだな。今回の件は、はてさてどうなったのか。


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