14.星落とし
桜との会話を終え、青龍と白虎の元へと戻る。
そして、白虎は俺たちを見るなりニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「お帰りー。ずいぶん早いお帰りだね。もうちょっとごゆっくりしててもいいんだよ?」
ニヤニヤを止めずにこちらをからかってくる白虎。その言葉に桜の顔が真っ赤になる。
「アホか。時間制限の1時間までもうそんなに時間があるか。それにまだそういう関係じゃない。早とちりすんな」
そう言って、白虎の額にデコピン一発。
「ちぇ、つまんないの。まぁいいやそれよりもうすぐ期限の一時間だ。準備だけはしっかりね」
「あたしはどうしたらいいいかな? 君にこんなこと言うのはアレだけど、あたしもこの1ヶ月で結構人殺しは経験してきてるからさ、前線で役に立てると思うよ?」
「そんな悲しいこと言うな。俺がロクに殺せないのに、桜にだけ殺させるわけにはいかないだろ。待機だ待機」
「うん、えへへ」
俺が待機命令をするとにへらと表情を崩して笑う桜。こんなんでも嬉しいのか、なんかこっちまで笑顔に──、
「あまり甘い関係を前面に出さないでいただけますか」
そんなほのぼの空間に青龍が水を差す。
「桜さん。私自身、勇人様の交友関係に口出すつもりはありませんので、あなたのことはとやかく言うつもりはありません。ただ、勇人様を裏切らないようにお願いしますね。私から言うのはそれだけです」
「は、はい……」
青龍のガチトーンに硬くなりながら返事をする桜。なんか、青龍ちょっと怒ってない? 俺の気のせい?
「あ、そうそう。勇人様」
「ん、何だ?」
「私はハーレム容認派ですので。いつでも手を出してもらっても構いませんよ?」
「ぶっ!」
この状況でいきなり何を言い出すのかコイツは。しかも手を出すって。あぁ、桜からの視線がきつい。
「どう言うこと、勇人。青龍さんとは何もないんじゃなかったの?」
「いや、何もないぞ。本当だぞ。ただことあるごとに同衾を迫ってくるってだけで俺からの感情は──」
「勇人!」
「はい、なんでしょうか!」
桜に怒鳴られ、思わず敬語で返事してしまう。
が、その後すぐに桜は嘆息すると、やれやれと首を振った。
「ま、何となくそんな気がしてたからいいんだけどね。青龍さん、勇人を見る目が全然他と違うんだもの。他は養豚場の豚でも見るような目で見てるのに、勇人を見る目だけはまるで恋人に向けるような目だったもの」
「そうなのか?」
俺は青龍のその表情しか見たことないから分からんのだが。他はそんなに冷たい目で見てんのかあいつ。
「英雄色を好むって言うし、ハーレムぐらい容認しないとダメかなぁー。今後も絶対増えるし、断言したっていい。はぁ、私の初恋がこれかぁー。初恋は実らないほうがやっぱりいいのかしら。でも、惚れた弱みよね。こんなんでもいいと思っちゃってるし」
こんなんとは失礼な。しかし、ハーレムねぇ。俺はそんな気はあんまりないんだが。でも、ハーレムは男の夢でもあるよな。平等に愛すってのがかなりの難物であると言うことに目を背ければ、だが。
「まぁ、いいわ。ハーレムはあたしも容認します。ただし! ちゃんと平等に愛すること! それが条件よ、いい!?」
「いや、ハーレムもクソもまだ恋人ですら……」
「いい!?」
「はい、イイデス……」
桜の迫力に気圧されて思わず頷いてしまう俺。そんな俺を見てケラケラと笑う白虎。おい、笑いすぎだ。
「ははは。いきなり尻にしかれて大丈夫、ご主人? あ、ちなみに私は今のところご主人のハーレムに加わる気はないよ。こいつは外から眺めてたほうがよっぽど面白そうだ」
そう言って、いたずらっ子のような笑みを浮かべる白虎。正直なことを言うと、お前のそのロリ巨乳には抗い難い魅力があるのだが、それを言うと桜からの視線と白虎からのからかいが飛んでくることは想像に固くないので、口には出さないでおく。
そんなやりとりをしていると、辺境伯の陣に動きがあった。正確には王都の方にだが、王都から軍が展開したのだ。それを受けて辺境伯の軍勢も平原に軍を展開する。
「きたな」
俺がそう言うと、白虎と青龍と顔をみあわせ、アンジェ王女のいる天幕へと向かう。
「ハヤトさん、これらましたか」
「やはり王軍は野戦を選択しましたか。数は3万。対してこちらは2万。野戦では多少の兵力の差はひっくり返せるとはいえ、厳しい戦いになりますな」
アンジェ王女のいる天幕には、ニコラ辺境伯もいて、今現在も軍議が行われていた。
「もう一発メテオストライクを打つか? うまくいけば恐慌状態にできるかもしれない」
「それもよろしいでしょう。ですが、当てる気はないのでしょう? 脅しがそう何度も通用するとは思えん。それに貴殿らに頼りきりでは──」
「大丈夫です。次は当てます」
ギョッとして俺は発言者である青龍の方を見やる。え? やる気なの青龍? いや、俺だと確かに大量殺戮とか出来ないし、青龍たちならできるんじゃないかっていう期待もわずかにはあったけども。でも、主である俺がしないのに従者である青龍たちにそんなことをさせるわけには。
「青龍、それは──」
「弟子のあなたに命令される筋合いはありませんね。私が決めたからそうするのです。それに全部を当てる気はありませんよ。少しです、少しね。丁度八つ当たりもしたかったところですし」
おいぃ! 最後のやつが本音だろ。八つ当たりでメテオストライクを打つんじゃない!
というか、俺が拒否しようとしたらそれを遮って、言葉を続けてきやがった。主である俺に否定されたら命令に逆らえないから、言葉を封じてきたか。
「大丈夫ですよ、勇人様。あなたがこれを気負う必要は全くありません。これは私の独断。私の判断でする行いです。あなたが気に止む必要はこれっぽっちもありません。と言うわけで早速行ってきます」
「お、おい」
言うが早いが、青龍は天幕を出ると、平原へ飛び出していった。慌てて後を追う俺。青龍は軍の先頭に到着すると、フライの魔法を使って空を飛ぶ。そして、魔法で声量を上げたのか、大きな声で王軍に宣言する。
「さぁ、恐怖しなさい。偽王に率いられる愚かな賊軍よ。これより見せるは天上の星を落とす秘儀。大いなる災いを前にして何人が立っていられるかな? 我が名は青龍。汝らを恐怖のどん底に叩き落とすものである。『メテオストライク』」
そんな口上を述べると、青龍は右手のひらを空に向けて魔法を発動する。
そしてすぐに効果が現れ、天空より数多の隕石が落下する。
しかし、青龍がいった通り隕石は少ししか、いや今のところ全く当たっていない。丁度綺麗に隊と隊の間を縫うように隕石を落下させている。しかし、破片は隊に直撃させていたり、全く当てようとしていないわけではないようだ。
だが、それがわかるのは冷静に見れるこちらだけで、実際に受けている王軍はたまったものではないだろう。すぐさま王軍は恐慌状態に陥り、隊伍が乱れ、逃亡者が出だす。
すると、当てまいと思っていた隕石が逃げようとした兵士を直撃するわけで、そうなるとさらに恐怖が伝播する。恐怖は恐怖を呼び、王軍は完全に統制を失った。
先頭にいる指揮官と思しきものが必死に統制を取り戻そうと声を張り上げているが、隕石落下による轟音と地揺れで兵士たちには聞こえていないようだ。
しばらくして、隕石の落下が収まるとそこにあったのは逃走と離散で、ほぼ壊滅状態となった王軍だった。
「今が好機! ものども逆賊を蹂躙せよ!」
その隙を逃す辺境伯ではなかった。辺境伯は軍配を振るうと軍を進め、言葉通り王軍を蹂躙した。
メテオストライクの恐怖で混乱状態に陥っている王軍を蹴散らすのは訳もなく、程なくして辺りには辺境伯軍の勝鬨が響き渡った。




