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13.前島桜の恋心

「見つけたぞ」


 兵士たちに色々聞き込みをしたりして、ようやく陣の端っこの方で桜を見つけた。桜は後ろを向いたままだが、こちらの言葉に反応してビクッと小さく体を震わせた。


「何の用よ。お強い勇者様」


「お前まで勇者様って呼ぶのはやめてくれねーかな。いや、最初は確かに俺が代わりにやってたが、今はお前が勇者なんだし」


 何を切り出せばイイのか正直分からなかったが、とりあえず雑談から入っていくのが良さそうか。向こうの言葉に反応して言葉を返す。


「勇者、勇者ね。あたしって何のためにここにいるんだろうね……。勇者としてアンジェを助けたいのに、それもアンタに盗られて。アンタに好かれてると思ったら、振られて。ふふ……、正直死にたい」


 そう言って、頭を俯かせる桜。顔は見えないが悲壮な表情をしているだろうというのは容易に想像できる。


「死なれると困るな。俺はまだ蘇生の術は会得してない。それに君を地球に返すという約束も果たせなくなる。それだけは困る」


「何それ。蘇生ができたら自殺したあたしを生き返らせるつもりでもあるの? そんなの死者の尊厳の冒涜よ。そう思わないの?」


「む……、そう言われると言葉を返せないが。だが、死ぬのだけは考え直してくれ、流石に自殺なんかされたら目覚めが悪いとかいうレベルじゃない」


「じゃあ、あたしのこと好き?」


「好きだぞ。嫌いな奴のためにここまでする訳ないだろ」


 これに関しては間髪入れずに断言する。嫌いな奴のためにわざわざ、貴重なチート枠を一つ潰すわけがないだろ。


「……っ! 落ち着け、落ち着けあたし。こいつはそういうつもりで言ったんじゃない、落ち着けあたし」


 桜は小声でそう呟いているが、その実丸聞こえであった。もうちょっと小声で言ったほうがいいぞ、桜。


「そ、そう。あたしのこと好きなんだ。じゃ、じゃあさ、その……私と恋人になってくれる?」


 そう言ってくるりとこちらを向く桜。その顔は真っ赤に染まっていた。


「その前に聞きたいんだが、どうして俺のことを好きになったんだ? この前別れる直前には、全然ビビッとこないとか言ってなかったか?」


 どうしても確認したいことがありそれだけは聞いておきたかった。あの友達未満状態からどうやってここまで好感度を稼ぐに至ったのか。それを知らなければ返事をすることはできない。


「そりゃ、あの時はね。正直本当に迎えにくるとは思ってなかったし。あの時ビビッとこなかったのも事実よ。でも、王都でアンタと再開した時、今度は本気でビビッと来たのよ。その時からね、アンタがとてつもなくカッコよく見えたのは」


 桜はそこで言葉を区切ると、俺の方に一歩、二歩と近づいて言葉を続けた。


「で、極め付けは宰相に言った「あたしのため」ってやつよ。そりゃ、いいなって思った異性にそんなこと言われりゃ勘違いの一つもしようってもんよ。アンタ宰相が言った「惚れた女のため」ってやつ否定しなかったでしょ。それでもう完全にノックアウトよ。完全に恋に落ちてたわ」


 いや、否定しようとはしたんだぞ。宰相に言葉を阻まれて伝えられなかっただけで。ていうか、白虎が言ったことと全く同じでもはや笑うしかない。いや、笑ってる場合じゃないな。この状況をどげんかせんといかん。


「そうか。よくわかった」


 よくわかったというが、脳内はひたすら思考がぐるぐるしていた。いきなりの女性からの告白に動揺している自分もいるし、せっかくのチャンスなんだからお近づきになればいいと思ってる自分もいるし、いや、特に自分は向こうに感情を向けてないんだから告白を受けるのは失礼という自分もいるし、で俺は混乱の極みにあった。

 それでも、返事を待たせるわけにはいかないと、俺は言葉を紡ぐ。


「桜の気持ちはよくわかった。だが、俺はその告白を受けるわけにはいかない」


 俺がそういうと、桜は一気に気落ちした顔になる。


「それは、やっぱり青龍さんがそうだから?」


「いや、違う。青龍とはそういう関係じゃない。当然白虎ともそういう関係じゃない。あの二人とは純粋に主従関係で繋がっている」


 まぁ、本当は青龍の方はことあるごとに俺との同衾を狙ってきていたりするが、それは今言うことじゃないだろう。


「じゃあ、地球に残してきた彼女がいるとか?」


 桜は重ねて理由を求めて俺に尋ねてくる。


「違う。彼女はいないフリーだ」


「じゃあ、なんで……」


 見ると、桜の目には涙が浮かんでいた。そんな表情をさせてしまった自分を後悔しながら、それでも桜からは目を逸らさずに言葉を続ける。


「俺の気持ちが君に向いていないからだ。その状態で付き合ってもお互い不幸になるだけだ」


「だったら! あたしがアンタを振り向かせて見せるわ! 絶対あたしのこと好きにさせて見せるんだから!」


 桜はなおも諦めきれないのか、そう追い縋る。


「あぁ、是非ともそうしてくれ」


「えっ?」


 まさか、肯定の言葉が返ってくるとは思わなかったのか、涙を浮かべたまま惚けた表情を浮かべる桜。


「俺の気持ちが向いてないってのは今の話だ。いずれ君のことを好きになるかも知れない、そっちが俺に好かれるように努力してくれるなら願ったり叶ったりだ。俺の気持ちが君に向いた時、その時改めて君とお付き合いをしよう」


 これが俺の出した答えだ。問題の先延ばしとも言う。恋人が欲しいという俺の欲望と、不誠実な付き合いをするわけにはいかないという俺の理性が混ざり合って出した答えだ。


「わかったわ! 絶対に振り向かせて見せるんだからね! 覚悟しなさいよね、勇人!」


「あぁ、よろしく桜」


 俺がそう言うと桜はその名のような花のような笑顔を浮かべる。それはとても綺麗でこれが見れる男は幸せ者だろうなと思うような物だった。


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