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12.修羅場?


「ふぅ、こんなもんかな」


 俺はメテオストライクを丁度王都を避けて、その周りに振るように調整し放った。ちゃんとその場に人間とかがいないのは確認済みだ。

さて、これだけ脅したから大人しく降ってくれると楽なのだが。


「大人しく降ると思うか?」


 その場にいる青龍と白虎にそう話しかける。


「私の推測ですが降らないのではないでしょうか。クーデターまで起こした野心のある王子です、一つの脅しに屈するような存在ではないかと」


「私も同意見だね。ただ、王都にこもってもメテオストライクがあると考えると、籠城は無意味だ。野戦を選択するだろうね」


 青龍と白虎がそれぞれ意見を述べる。


「うーん、野戦となると面倒だな。まさか軍勢に向かってメテオストライク落とすわけにもいかんし。なんか、いい感じの魔法ないか?」


「んー、精霊魔法で塹壕を掘るとか? あぁ、でも銃がなきゃ塹壕はあんまり意味ないか。飛竜兵なんて兵科もあるみたいだし、塹壕は効果が薄いか」


 そもそもからして俺は精霊魔法を使えないっちゅうの。実現不可能なこと言うのはやめてもらいたい。何より、第十位階打った後だから魔力量がやばいんだってば。半減だぞ半減。そこに今から大規模魔法を行使する魔力はもうない。


「ハヤトさん。調子のほうはいかがですか?」


 白虎達と話していると天幕の方からアンジェ王女がやってきた。


「確かに多大な魔力を使うとは言ったが、疲労感に関してはそれほどでもないぞ。大丈夫だ」


「その……、今更になってしまいますが、ありがとうございますハヤトさん」


「ん?」


「いえ、私のためではないのは分かっています。サクラ様の為なのですよね。ですが、それだとしても私にこれだけ尽くしていただき本当に感謝の言葉もありません。ありがとうございます」


 そう言って、深く頭を下げるアンジェ王女。


「これから王になろうって人が、一冒険者に頭を下げるんじゃない。それにあの場はああ言ったが、あんたの力になりたいって気持ちもないわけじゃない。だから気にするな──、あぁいや、存分に負い目を感じてくれ。その方が戦後の褒賞に期待が持てるってもんだ」


 後半はちょっとおどけた感じでそう言った。俺の言いたいことが伝わったのか、アンジェ王女はくすりと笑う。


「えぇ、頼りにさせて貰いますよ。私の勇者様」


「まだ、それ引っ張るのか……」


「サクラ様には悪いですけれど、やはり私にとっての勇者様はあなたです。オーガから助けてくれたことも、スタンピードを軽やかに殲滅したことも、そして今回のことも。全部あなたがやってくれたことです」


「あー……」


 何となく気恥ずかしい思いをしながら頬をかく。困ったな、何というかこう言う風に言われるのは慣れてない。

 そんな風に照れる俺が面白いのか、アンジェ王女はコロコロと笑う。


「ふふ。勇者様の弱点見つけたりですね。先ほどは悪ぶっていたというのに。こちらが勇者様の本質なのですね」


「勘弁してくれよ……」


「それでは、軍議がありますので失礼しますね、ハヤトさん」


 最後に勇者様ではなく、ハヤトさんと言ってアンジェ王女は天幕の中へと引っ込んでいった。


「見ーたーぞーー」


 アンジェ王女が天幕に引っ込むと同時に恨めしそうな声が、俺の背後から忍び寄ってきた。恐る恐る振り向くと、幽鬼のような顔をした前島さんだった。


「ま、前島さん。見たって何を……?」


「桜」


「うん?」


「桜って呼びなさいよ。いつまで他人行儀で呼ぶつもりよ」


 なんか、いきなり妙なこといい始めたぞ前島さん。前島さんのセリフじゃないけど、そんなに距離感詰まるようなことあったっけ? 向こうからはギリ友達ぐらいにしか思われてないと思っていたのだが。


「えっと、じゃあ桜さん「桜」、じゃあ桜。見たって何を?」


「アンジェとそれはもう楽しそうに話してたわね。えぇ、それはもう」


「いや、楽しかったのは向こうだけで……」


「ふん。どうせあたしは落ちこぼれの勇者よ。防御系のギフトしか持ってない、あんたみたいなすごい魔法も使えない。何のためにこの場にいるかもわからない落ちこぼれよ」


「いや、桜がいるから俺のモチベーションになってるんだ。いる意味はあるさ。桜が言わなければアンジェ王女を助けようとは……少しは思ったかもしれないが、ここまでやることはなかったさ。桜がいたからこそいろんな人が助かってる、そこは誇るといい」


「うっ……、それよそれ! 何なのよアンタは! そんな、か、かかかカッコイイこと言っちゃってさ! 戦闘力もあって分別もあって、男気もあってって! 何なのよ本当にもう……」


 桜は顔を赤くして、こちらを思いっきり指差して罵倒、罵倒か? まぁ、文句を言ってくる。


「いや、そんなこと言われても困るんだが。俺は俺の意思に従って行動しているにすぎない。その意思が君を助けたいというその心だ。言ったろ、友達だから助けたいってな」


 俺がそういうと、前島さんは何故かショックを受けたかのような表情で固まる。なんだ? 俺変なこと言ったか?


「友達……、友達ね。アンタはそういう奴だったってことね。よーくわかったわ」


 桜はそういうとキッとこちらを睨みつけると再び指差して大声を出す。


「このスケコマシ! アンタなんかタンスの角に小指ぶつけて死んじゃえ、バカ!!」


 桜はそれだけ言うとダッと駆け出し兵士の中に紛れてしまった。


「い、一体何が……。というかスケコマシって」


「あーあ、全くご主人は女心が分かっていないなー」


 そう言いながらニヤニヤした表情でこちらを見る白虎。なんだその顔は俺が悪いと言うのか。


「女心も何も──、いやまて、桜のあれはつまり俺のことが好きとかそういうことなのか?」


「そうとしか考えられませんが。相思相愛と思っていた人物から友達呼ばわりされては怒るのも無理はないかと」


 青龍がそう畳みかける。冗談だろ? だって、


「いや、桜と別れる時に向こうが言ったんだぞ。「あたしとあんた友達だっけ?」って。そんな友達未満の状態だったのに、向こうからの感情が好きになるほどの好感度を稼いだ覚えはないぞ」


「いやいや、冷静に考えようよご主人。向こうからすれば、ご主人が前島桜を迎えにいく義務も義理もないんだ。それをちゃんと約束を果たして迎えに来たんだ。加えて、宰相の目の前で言った「前島さんの為だ」ってセリフよ。その後の宰相の勘違いの「惚れた女のため」ってセリフで倍率ドンよ。その後ご主人惚れた云々を否定できなかったでしょ? あそこでちゃんと否定できてれば前島桜も勘違いすることなかったのにねぇ」


 うぐ、そう言われればその通りだ。俺としては当たり前に当たり前をやっただけなのだが、それが好感度の元になってしまったと言うことか。


「どうしよう……」


 困った。まじで困った。今まで女性と付き合ったことがないからどうしていいか分からん。え? 白石と冬美? あいつらは後輩と幼馴染ってだけだしそういう色のあるお付き合いはしたことがない。女性に迫られたのは今回が正真正銘初めてなのだ。


「とりあえず、追いかけな。こっちは私らが何とかしとくからさ。どっちにしろ二発目以降のメテオストライクはご主人は打てないでしょ。だから、今は心残りの方を片付けておきな」


 そう白虎にぽんぽんと肩を叩かれ、俺は桜がいなくなった方へと駆け出した。


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