10.王都進撃
辺境伯の準備が出来たようなので、外壁の外に出るとそれはもう壮観なほどの軍隊が整然と整列していた。数は……どれくらい居るんだろうな? こういう軍隊の数え方とかあるらしいが俺にはわからん。
整列した軍隊の背後には輜重隊とかもいるようだ。そんなの必要ないんだがなー。まぁ、兵士たちは何も知らないわけだから、輜重隊を連れて行かないのも不自然か。
「これで全部?」
「さよう。して、この数を王都まで本当に運べるのであろうな? 今更できませんと言われても困るぞ」
「問題ない。じゃあゲート開けるぞ」
俺は手鏡を出すとできる限り大きなゲートを想像し、その場にマリンの背に繋がるゲートを開く。すると、俺の想像通りの巨大なゲートが出来上がる。この大きさならこの大軍も簡単に入るだろう。
「アンジェ王──、いや殿下。先に入って一派の人たちに一時離れるように言っていただけませんか?」
「アンジェと呼んでもらって結構ですよ、ハヤトさん。私とあなたの仲ではありませんか」
アンジェと呼びそうになって、辺境伯からすごい睨まれたので、慌てて殿下と訂正したのだが、そこに油を注ぐアンジェ王女。
やめてよね、そういうの。辺境伯の視線がさらに鋭くなったじゃないか。
「と、ともかく。お願いしますね!」
「はい、分かりました。すぐさまゲートから離れるように言っておきます」
そう言って、ゲートをくぐるアンジェ王女。その様子に兵たちの一部に動揺が見られるが、しばらくしてアンジェ王女が中から再び出てくる。
「準備できました。中に軍を入れても大丈夫です」
アンジェ王女が再びゲートから顔を出すと兵士たちの動揺が少し収まった。まぁ、いきなり謎のゲートが出てきて中に人が消えたら動揺ぐらいするか。
「では、辺境伯様、軍を中へ」
「うむ。者ども! これより我らは王都へ向かい、クーデターを起こし陛下を弑虐したデニス殿下を討ち取りに向かう! 私の後に続け!」
おおおおおおおおおお!!
辺境伯が気合を入れると軍隊が咆哮した。その声はまさに大気を振るわせんばかりだった。
「出陣!」
辺境伯が馬に乗り軍配を振るうと、足音を立てながら辺境伯軍がゲートの中へと次々入っていく。入っていく軍隊を見る限り歩兵中心に、騎兵が少しあと飛竜兵って感じの構成のようだ。しかし、飛竜なんて初めて──、いやスタンピードの時に一応見たか、まぁ間近で見るのは初めてだ。この世界は飛竜を兵科として運用してるんだな。
それにしても行軍が長い。軍隊の移動に時間がかかるというのがよくわかる一幕である。結局、軍隊を全部ゲートに収容したのはまるまる30分はかかった。
「これで、全部入ったか」
「じゃ、王都にテレポートしましょ」
「おう、ポータル」
前島さんに言われるまでもなく、俺はポータルを開き、王都の人通りの少ない路地にワープする。もちろん、青龍や白虎を召喚するのも忘れない。
「さて、それじゃ王都の外に布陣するか。どこかいい場所ないかな」
「少しお待ちを、勇人様」
青龍はそういうと、すぐさま大ジャンプをする。そういや、こいつジャンプに魔法使ってないよな? とすると素の身体能力での飛翔ということになるが──、深く考えないようにしよう。
しばらくして、シュタッと青龍が元いた場所に着地する。
「西の門が手薄で、さらに広い平原が広がっておりました。軍を展開し、メテオストライクを打つには絶好の場所かと」
「オッケー。じゃあ、そっちに向かうか」
青龍の先導で西門から出る。しかし、クーデター起こしたってのに門の封鎖とかはしてないんだな。アンジェ王女たちが逃げたなら必ず封鎖してるかと思ったんだが。とするとまだバレてないのか? まぁ、こっちにとっては好都合。
西の平原を駆け、軍隊が展開できるような広い場所を見つけ、そこにゲートを展開する。中に入り、アンジェ王女に声を掛ける
「王都に着いたぞ。すぐにゲートをくぐってくれ」
「分かりました。皆さま、これより外に出ればすぐに王都になります。戦闘の準備をお願いします」
アンジェ王女のその言葉に軍隊にざわつきが広がる。まぁ、無理もない。いきなり訳もわからずゲートをくぐったら自然溢れる大地で、30分もせずに王都に着いたと言うのだから、動揺して然るべきだろう。むしろ、ゲートくぐった時点でモラル崩壊してないだけ大したものだ。
そして、また同じように30分ほどかけてゲートから軍隊を出す。
「本当に王都であるな……。何という摩訶不思議な力か」
馬に乗ったニコラ辺境伯がそうポツリと呟く。
「さて、これからどうする? 俺の方はメテオストライクの準備はすでに出来ているぞ?」
「まずは陣を張る。そのうち王都側も気づくであろう。その時使者なり先ぶれなり来ると思われるので、本番はそこからである」
ニコラ辺境伯はそういうと軍隊に指示を出し始める。そうされると俺はしばらくやることがないので、待機になるな。
さて、どうなるか。




