7.ニコラ辺境伯領へ
「よし、ここでいいか。『ディスペルマジック』」
俺は人気のない路地に入るとディスペルマジックを唱え、全員の透明化を解除する。
「これで見えるようになったの? あたしから見れば何も変わってないように見えるんだけど」
「ちゃんと変わったよ。ま、その確認は自分でな。とりあえず次はニコラ辺境伯領にいく訳だが」
「お任せを、ニコラ辺境伯領ならば行ったことがあります。道案内は私にお任せを」
そう言って、アンナリーナさんが申し出てくれる。
「行ったことある? 辺境伯領に?」
「はい、姫様のお付きとして数回」
「じゃあ、その場所とか思い出せる?」
「? はぁ、思い出すぐらいなら出来ますが」
「よっしゃ! それなら大幅ショートカットできる! アンナリーナさんちょっと記憶読ませてもらうぞ。辺境伯領のことだけを思い浮かべるんだ。できれば人気のない場所が望ましい」
「な、何をなさるおつもりで!?」
アンナリーナさんが一歩後ずさる。
「大丈夫大丈夫、場所以外の記憶は読むつもりないから。これも手早くクーデターを治めるためだ、協力してくれ」
「そ、それを言われると……。分かりました、どうぞ」
そういうと、アンナリーナさんは悲壮な覚悟を決めた目でこちらを見る。なんか、俺悪役みたいになってない? まぁ、いいや記憶読ませてもらおう。
「『メモリーリード』」
記憶を読む魔法でニコラ辺境伯領の場所の記憶を読む。ふむふむ、こんな場所か。
「よし、もういいぞ。では、ポータル開通!」
そして、俺のチート能力ポータルで辺境伯領までのゲートポータルを開く。一応は異世界転移のためのチート能力だが、原理上は同世界上の異なる場所でも使えるはずだ。そう思った俺の予想は正しく、ゲートをくぐると、アンナリーナさんが思い浮かべたのと寸分違わない場所へと転移した。
「よし、オッケー。前島さん、アンナリーナさん行くぞ。ゲートをくぐればニコラ辺境伯領だ」
「え? ショートカットとかズルくない? あたし旅する気まんまんだったのに」
「ズルくて結構! 今は時間との勝負だからな、いたずらに時間をかけてるわけにはいかない」
「いや、そりゃそうかも知れないけどさ……。これが本物の神様によるチートか……」
神様じゃなくて管理者なんだが。まぁ、似たようなもんか。
「では、勇人様向こうでまた召喚してくださいね」
「あれ? お前らってテレポートできないっけ?」
「いや、知らない場所には無理だよご主人。地球だったら、ガイアの後押しがあるから知らない場所でも『そこにいたことにする』ことができるけど、異世界じゃそれは無理さ。だから、ちゃんと呼んでくれないと転移できないよ」
「分かった、向こうですぐ呼ぶ」
そう言って、俺、前島さん、アンナリーナさんでゲートをくぐり、ニコラ辺境伯領に到着する。
すぐさま、青龍と白虎を召喚し、マリンとのゲートも開く。青龍、白虎以外の三人でゲートの中に入ると、アンジェ王女が一派の人たちに色々説明しているところだった。
「アンジェ王女。辺境伯領に到着だ、説得は任せたぞ」
「えっ? もう着いたのですか? 早すぎやしませんか、まだ1時間もたっていませんよ?」
「ちょっと裏技を使ったんでな。移動は一瞬だ」
「もうなんでもありなのですね、ハヤトさんは。分かりましたすぐに向かいましょう」
「お待ちくださいアンジェリカ殿下」
しかし、そこに待ったをかけた人物がいた。筋肉ムキムキマッチョマンのテオ宰相だ。
「殿下の信ずるお方を疑いたくはございませんが、さっきの今で辺境伯領に到着したとは到底信じることなどできませぬ。その者が殿下を騙して捕らえようとしているのではございませんか?」
「テオ。あなたほどの知恵者がらしくないですね」
今なんつった? 知恵者? この筋肉ダルマが? この世界は筋力=知力の法則でもあるのだろうか。
「あなたたちを脱出させたのは誰だと思っているのですか? このハヤトさんなのですよ。それに、わざわざ益のない私たちの保護を申し出て、尚且つ、このような避難地まで用意してくれたのですよ? このような大それたことができる方が今更私を嵌めたとしてそれにどうやって抵抗できると言うのですか。こうなった以上我々は彼を信じて託すしか道はないのです。それ以外に私たちの生き残る道などありはしないのです。騙されたと言うのなら私たちの命運がそれまでだったと言うことでしょう」
「し、しかしですな……。いや、このさいぶっちゃけましょう。ハヤト殿と言ったか、先程の失礼は侘びさせていただきたい。そして、お尋ねしたい。今の我々では貴殿に出せる対価というものは存在しない。恩賞などは何も与えられない状態なのだ。その状況下でなぜあなたは我々を助ける? 率直な意見をお聞かせ願いたい」
うーむ、毎度いうがこの筋肉ダルマが理性的に話してると違和感しか感じない。まぁでも、向こうは腹の中開けて言ってくれてるからこっちも正直に答えるとするか。
「恩賞目当てじゃない。もっというとアンジェ王女の為でもない。俺は俺なりの理由があってあなたたちに味方しているが、あなたたちの為ではない」
「では何のためだと?」
「前島さんの為だ。俺がここにきた目的の究極は勇者である前島さんを元の世界に戻すことだ。その前島さんが元の世界に帰ることを一時放棄してまでアンジェ王女を助けたいと言った。なら、俺はその願いを叶えるだけだ」
「う、ウェ!? あ、あたし!?」
後ろの方で前島さんが動揺する声が聞こえる。
「そうか……、そうですか。殿下のためですらなかったということですか。いえ、分かりました。むしろそれの方が信頼に値すると言うものです。惚れた女を助けるためですか。まさに英雄譚の一説にふさわしい。勇者の立場は逆のようですが、あなたのようなものをまさに勇者と呼ぶのでしょうな」
「いや、待て。何か勘違いしているようだが──」
別に俺は前島さんの事は好きでもなんでもないんだが。と言おうとしたが筋肉ダルマに言葉を阻まれる。
「でしたら、ニコラのやつの説得は私も同行させていただきたい。殿下だけでなく、私もいたほうが説得力が増すでしょう」
「いや、だからな──」
「では参りましょうか、勇者殿」
人の話を聞かない宰相はズンズンと歩いてゲートをくぐる。
そして、後に残されたのは顔を真っ赤にした前島さんと俺、アンナリーナさん、アンジェ王女である。
どうするよ、これ。




