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6.王宮大脱出

「ただいまっと。『インビジブル』『パーフェクトアイ』」


 ポータルを使ってアンジェ王女の部屋へと戻ってきた俺。すぐさま透明化の魔法をかけることも忘れない。


「勇人様、現在特に異常はありません」


 帰還してすぐ青龍から報告が入る。今のところは大丈夫、か。


「おかえり。何しに行ってたの?」


 前島さんが帰還の挨拶とともに俺に尋ねる。


「現状を打破できる方法を手に入れに地球にな。おっと、そうだった『召喚 白虎 マリン』」


 忘れていた白虎とマリンの召喚を済ませると、アンジェ王女に向き直る。


「え? ここどこ? なんか外国の宮殿みたい」


 マリンが疑問符を浮かべるが、白虎がすぐに突いて霊体化させる。まぁ、今この場では邪魔なだけだからな。


「また人が増えましたね……、ハヤトさんは本当に何者なのですか?」


「ただのお節介焼きさ。ただのな。それより行動を起こすぞ。アンジェ一派の人たちと元王妃が閉じ込められてる場所はわかるか?」


「私の一派のものたちはおそらく地下牢でしょう。母上は私と同じように自室にて軟禁されているかと思います」


「よし、二手に別れることにしよう。白虎とアンナリーナさんは元王妃を回収してきてくれ。残りで地下牢にいき一派の人たちを回収する」


「でも、回収するったって一派の人たちなんでしょ? 大人数になるわよ。どうやって匿うの? 王妃さんだけならともかく」


 前島さんがそう疑問を呈してくる。


「そのために地球に行ってきたんだ。ちゃんと回収する手筈はある。白虎は元王妃を回収したら牢獄で合流だ。頼んだぞ」


「アイ、マスター」


 白虎がビシッと敬礼を決めながらそう答える。


「なんだそれ?」


「いや、一度言ってみたかったのさ。ともかくこっちは了解だよ。道案内よろしくぅ!」


「は、はい」


 アンナリーナさんが戸惑いながらも白虎を連れ立って部屋の外へとでる。


「よし、俺たちも行くぞ。あ、アンジェにも『インビジブル』」


「これは……、何か変わったのですか?」


「透明化の魔法だ。今の状況だと消えたように見えないだろうけどちゃんと消えてるから。とりあえず音を殺して行くぞ。牢獄まで案内してくれ」


「は、はぁ。とりあえずハヤトさんを信じはしますが。本当に大丈夫なのですか?」


「大丈夫大丈夫、じゃ行くぞ」


 そう言って、アンジェ王女先導の元地下牢へと向かう。

 途中何回か警邏の兵とすれ違うたびアンジェ王女が身を固くしたが、兵士は何事もなく通り過ぎる。それを何回か繰り返すと、ようやくアンジェ王女は自分が見えなくなったと言うことを自覚し、遠慮なく歩くようになった。

 そして、しばらく歩くと地下牢へと続く階段へと辿り着いた。そこには当然のように見張りがいたが、呑気に相方とサイコロでゲームをしていた。


「あー暇だ暇だ。暇すぎて死にそうだぜ。ほら、お前の番だぞ」


「ボヤくなボヤくな。暇なのはいいことだろ。侵入者がきたら面倒なだけだぞ?」


「侵入者って誰だよ。この王都で抑えてない第一王女派はもういないだろ? 誰が侵入するってんだよ」


「それはその通りだが、何事も用心が肝心ってな。おっと、俺の勝ちだな。悪いね」


「あっ、くそ! 倍付けかよ! 今日はついてねぇ」


 そんなやりとりをするなか、俺たちは悠然とそのそばを通り抜けていく。侵入者がここにいますよー。

 俺はそのまま通り過ぎたのだが、青龍はそれではいけないと考えたのか、


「『スリープクラウド』」


 眠りの魔法を使い、見張り二人を眠らせる。呪文の発動も小声で最小限に抑えて、だ。


「ん、が……」


「むにゃ……」


 抵抗もせずにすぐさま眠りに落ちる見張り二人。やけにあっさり落ちたな。


「これでしばらくは多少しゃべっても大丈夫です」


 あ、そうか。一派の人たちを連れだすにはどうしても喋らないといけないもんな。俺としたことが失念していた。青龍がついてきてくれて助かった。


「テオ宰相。テオ宰相。私ですアンジェリカです」


 奥ではアンジェ王女が牢屋に向かって話しかけるが姿は消えたままだ。おいおい、そのままじゃ幻聴扱いにされるぞ。俺は近づいてディスペルマジックをかける。


「む……、幻聴か? いや、アンジェリカ殿下!? どうしてこのような場に!?」


 おい、おっさん。声がでかい。少しは音量落とせ。

 そこにいたのは宰相という言葉とはかけ離れた筋肉質のおっさんだった。むさい髭に筋骨隆々の体躯。どうみても、軍団長といった感じの野性味あふれるおっさんだ。どうみても宰相なんて呼ばれる存在ではない。


「話は後で。ともかく今はここを脱出しましょう」


「しかし、脱出したとしてどうすれば……。もはや王城はデニス殿下の手に完全に落ちました。今更どうしようも……」


「ニコラ辺境伯を頼ります。そのためにあなた含め私の派閥の人員は全て救わなければならないのです」


「ニコラの奴をですか? 確かにやつなら動いてくれるでしょうが……。それよりもなんとおっしゃいました? 派閥の人間全てを救うと? どう考えても現実的ではありません。殿下お気持ちはわかりますが……」


「協力者がいるのですよ。その方に頼れば、なんとでもなります」


「協力者……ですか。分かりました、殿下のおっしゃる通りになさいましょう。ですが、私を逃すのは最後でよろしい。このテオ、老いたりといえどもまだ現役。逃げ遅れた時には殿となって王都軍の前に立ちはだかりましょうぞ」


 なんだろう。すごく理性的に話してるのに違和感しか感じない。それもこれもこの筋肉ダルマの見た目が悪い。これが宰相ってなんの冗談だ。これで政治ステが高いのか、冗談だろう? どうみても武力偏重のステしてるだろ。


「分かりました。ハヤトさん。セイリュウさん。お願いします」


 俺は無言で頷くと、青龍と手分けして牢屋の鍵に片っ端からアンロックをかけに走る。数が割と多いので辛い。早くやってしまわないと見張りの交代とか来かねない。


「鍵が空いた……?」


「何が起こってるんだ?」


 方々から聞こえる疑問の声と、次々と牢屋から出てくる囚人たち。

 そして、通算20個目の鍵を開け終えたところで、全ての人間を回収することができた。

 よし、ここからだ。俺はアンジェ王女に目配せをすると、インビジブルの魔法を解く。


「い、いきなり現れた!?」


「案ずる必要はありません。この方は我々の協力者です。ですがハヤトさん、これからどうするのです?」


「コイツを使う。今からこの中に入ってくれ」


 そう言って俺はマリンからもらった手鏡を使い、マリンの背中に通じる世界へのゲートを開く。ぶっつけ本番で成功するか不安だったが、どうやら成功のようで、俺がポータルで使ってるゲートよりも巨大なゲートがその場にできた。


「さぁ、この中へ。まずは俺から入る」


 安全確認も兼ねてまず俺から入るとする。多分大丈夫だろうが、いきなり裏世界とやらに放り出される可能性もあるからな。……大丈夫だよな?


 俺がゲートを潜るとそこは自然あふれる草原だった。周りには草木が生い茂り、遠目には動物の姿も見える。なんだ、移住者がいないとは言ってたが動物はいるんじゃないか。

 ともかく、ちゃんとゲートは機能しているようで何よりだ。俺はその足ですぐに戻ると、アンジェ王女たち一派をマリンの背中に招き入れる。


「だ、大丈夫なのかこれ? くぐったら死ぬなんてことないよな?」


「心配なら私からくぐりましょう」


「い、いえ、アンジェリカ殿下を行かせるわけには! それなら自分が!」


「いえ、ここは自分が!」「いや、私が!」「俺が!」


 なんてやりとりがあったが、無事全員をマリンの背中に渡らせることに成功した。

 そして、テオ宰相を最後に渡らせた後、白虎たちが元王妃を連れて牢獄へと到着した。


「や、連れてきたよご主人」


「母上、ご無事で何よりです」


「アンジェ。これはどういうことですか? アンナが言うからきましたが今の状況は──」


「説明は後です母上。それよりこの中へ早く」


「…………後で説明するのですよ」


 元王妃はアンジェ王女の真剣な表情を見てとるとそれ以上何も言わずに大人しくゲートの中へと入っていった。


「よし、これで全員だな。アンジェ王女も一応中に入っておいてくれ。中の人を取りまとめて欲しい」


「分かりました。ニコラ辺境伯領までの案内はアンナに任せます。ニコラ辺境伯の説得は私がしますのでその時には呼んでくださいね」


「分かった。じゃあ、俺たちも脱出するぞ」


 再びインビジブルをかけて、俺たちは苦もなく王城を脱出した。


「あたし空気だなぁ……勇者なのに」


 脱出するときの、前島さんのその言葉が妙に耳に残った。


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