5.四霊 霊亀
「よっと、戻ってきたな。じゃ、早速『召喚 白虎』」
一旦前島さんたちには別れを告げ、ポータルで地球に帰還した俺。すぐさま呼晶を用いて白虎を召喚する。
「よし、時間が惜しい。早速庭に行くよ。おっとその前に『ディスペルマジック』」
白虎は転移後すぐ、魔法解除魔法をかけて、透明化を俺もろとも解除すると、すぐさま部屋を出て庭に降り立ち、木の棒で魔法陣を描き出す。
「何をする気だ?」
「ちょっとこういう時に便利なやつを召喚するのさ」
「便利? 何を召喚するんだ?」
「四霊が一柱、霊亀さ」
「四霊? 霊亀?」
どっちも聞いたことない言葉だ。四霊ってことは四神と近しい存在なのだろうか?
「四霊ってのは中国神話に登場する四匹の瑞獣のことさ。現れれば吉兆とされるありがたい獣たちのことだ。四霊は、麒麟、鳳凰、霊亀、応竜の四匹だ。他はともかく鳳凰と麒麟ぐらいは聞いたことはあるんじゃないかな?」
確かにその2体なら知ってる。後者はビールの柄にもなってるしな。
「で、私が呼び出そうとしてるのはその中の霊亀。伝承だと背中に蓬莱山を背負ってるっていうとてつもなくでかい亀さ。実際は色々個体がいて、蓬莱山を背負ってるのが代表的なだけで、コイツらの生態は巨大な土地を背負っているという点にある。そして、霊亀が認めたものだけをその背中に住まわせるのさ」
白虎はそこで言葉を区切ると、魔法陣の中に入り、さらに微に入り細に入り魔法陣を細かく描いていく。
「そしてこれが、特徴の一つなんだが、霊亀はその本体を『世界の裏側』に置いていると言う点にある。これから呼ぶのは霊亀の端末に過ぎない。そしておそらくは異世界においてもそれは同等だろうと推測される。つまり、異世界に端末を召喚した時点で『異世界の裏側』にも本体を呼ぶことが出来るはずだ」
段々と白虎のやろうとしていることが飲み込めてきた。
「つまり、こっちで霊亀と契約して、向こうで霊亀を召喚して、その背中にアンジェ王女一派を避難させるってことか?」
「そう言うことさ。ま、多分に推測に推測を重ねた結果だが、上手くいくはずだ」
そう言って白虎は魔法陣を描き終えると、その中央に立つ。
「さて、ここからは祈ってくれご主人。私自身を触媒として霊亀を召喚するが……、本来ならちゃんとした霊亀用の触媒を用意すべきだけど、生憎用意している時間がない。ゆえに、四神である私自身を触媒として四霊のいずれかを召喚する」
「いずれか? 指定はできないのか?」
「残念ながらね。ちゃんとした触媒があればそうはいかないが、今回はこうするしかない。なーに所詮は4分の一、25%の排出率のガチャなんてそうそうないぞ! いけるいける!」
「それ75%は外れる計算だよな! 本当に大丈夫か? て言うか、できるまでやり直せば良くないか?」
「説明は省くけど、それはちょっと良くないんだよね。あと、土に線で書いただけの魔法陣じゃ一発でダメになる。一発にかけるしかないのさ。じゃあ、行くよ」
白虎はそう言うと、魔法陣の中心で何やら詠唱を始める。バチバチと雷光が魔法陣の周囲に走り、近づけなくなる。とりあえず危険そうなので一歩下がる。
雷光はさらに激しくなり、当たりが白い光で包まれる。そして、一際大きく光ったと思うと、すぐさま光が収束する。
光が収束した先には、白虎のすぐ横に一人の横たわる女性がいた。
「成功か……?」
「よっしゃ成功だ! おい、起きろ。寝てる場合じゃないぞ」
そういうと白虎はペシペシと女性の頬を叩く。成功ってことはこの女性が霊亀? ていうか、また女かよ。トウコツ以外女しかいないんだが?
霊亀は青い長い髪に、パジャマ姿だった。ご丁寧にナイトキャップに抱き枕までしている。抱き枕に隠れてスタイルは正確には見えないがいい方ではないだろうか。まぁ、コイツらの現世の姿は自在に変えれるみたいだからあまり今の外見を気にしても意味はないが。
「ふぁ~~~ぁ。もう朝~~?」
「今は昼だ。とっとと起きろ」
「むにゃ……、ここどこ~? あなたはだれ…………ヒッ!」
霊亀は寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり白虎を見るなりズサササと効果音をつけながら盛大に後ずさる。
「びゃ、びゃ、びゃ、びゃ、白虎!? な、なんで!? 私何か悪いことしましたか? ごめんなさい、殴らないで! ちゃんと真面目に移住者探しますから怒らないでぇぇぇぇ!」
霊亀は頭を抱えながら、その場にうずくまり謝罪を連打する。
「いや、なんで私がお前を怒らないといけないのさ。そんなの私の管轄じゃない。そう言うのはむしろ玄武の方だろう。いや、玄武にもそんな管轄ないけどさ。ともかく怒るために呼んだわけじゃない。こっちこい、何もしないから」
白虎はちょいちょいと霊亀に手招きをする。それを見て霊亀はおっかなびっくりこっちに寄ってくる。
「ほ、本当に怒りません? 騙して悪いがとかしません?」
「しないしない。ていうか、お前移住者が全然いない土地背負ってるのか。こりゃ都合がいいね」
「なんですかそれ。どうせ私は落ちこぼれですよ」
「落ちこぼれかどうかは知らないけど、こっちにとっては都合がいいのさ。さて、紹介しよう。私の主人の真宮寺勇人だ」
「お、おう」
いきなり紹介されて、どう返せばいいのか。とりあえず生返事を返すことしかできなかった。
「主人……、主人!? 契約したの!? 白虎ともあろう存在が人間と契約!? 信じられない!?」
いや、こいつ割とノリノリだったけどなぁ。異世界探訪ができるってんなら俺じゃなくても契約したと思うぞ。
「ちなみに、青龍の奴もご主人と契約してるぞ」
「ヒィッ!? 青龍ですって!? あの鬼の!? 信じられないパート2!」
鬼ってなんだ。青龍のやつはそんなに神霊界で評判悪いのか。
「そうそう、青龍とも私とも契約してるすごい人なんだぞ、ご主人は。さて、ここまでいえばお前を召喚した理由は分かるよな?」
「はい、分かりました! 契約します! いえ、させてください! そしてあわよくば私の背中に載せる新たな住人たちを是非とも勧誘していただきたく!」
まさに光速といった勢いでブンブン首を縦に振ると頭を差し出し五体投地してきた。
「よーし、契約成立だ。じゃあ、ご主人血だして」
「あぁ……。なぁ、白虎これっていわゆる圧迫面接……」
「気にしない気にしない。話早い方がいいでしょ」
そして、白虎に指先を切ってもらい(いまだに自分ではうまく切れない)血を出して霊亀と契約をする。
白虎の時もそうだったが、契約したから何か変わったという感触は全然ないな。ただ、あぁ契約したんだなという感慨があるだけだ。
「じゃ、ご主人。こいつに名前をつけてやってよ」
「名前? 霊亀じゃないのか?」
「そりゃ種族名だよ。そんなん私がご主人のこと人間って呼ぶようなもんだよ。そりゃないでしょ?」
「それもそうだ」
思えば白虎は霊亀のことを徹底して「お前」とか「こいつ」とか呼んで霊亀とは一度も呼んでないことに気づいた。
しかし名前、名前か。いきなり言われると思いつきようがないな。
「じゃあ、女性体みたいだしマリンで」
まぁ、割と安直な名前ではあるが俺にしてはいい名前ではなかろうか。
「わかりました。これより私はマリンと名乗ります。あのそれより、移住者の件は何とぞよろしくお願いいたしますね。私も早く人を乗せたいので」
「おう、考えておくよ」
別名先延ばしとも言う。というか、現状移住者の当てなんてないし期待されても困る。アンジェ王女一派は一時的な避難先として使うだけだし。
「あ、ではこれをご査収ください」
そう言ってマリンは手鏡のようなものを取り出して俺に渡してきた。
「それは私の背中に渡るためのゲートを開くアイテムです。移住希望者がいましたらそれを使って私の背中へと来てください。か、歓迎致しますので!」
そう言って、再び五体投地するマリン。その五体投地は癖なのか?
「じゃ、ご主人すぐに異世界に戻るよ。これから忙しくなるよ」
「おう。じゃあ、すぐに行くぞ」
「うぇ?」
一人疑問符のマリンを置いて俺はポータルですぐにアンジェ王女の部屋へと戻った。




