3.王都到着
保存食の件で一悶着はあったが、それ以外は特に支障もなく王都まで到着した俺たち。何件かモンスターの襲撃はあったが、なんの問題もなく撃退できたとは言っておこう。
とりあえず、当初の予定通りに4日でつけたので結果は上々と言えるだろう。ジーナさんもフィールドワークを割とする方なのか、普通に俺たちのペースについて来れたのも大きい。
「無事王都までつきました、ありがとうございます。ハヤトさん」
「まぁ、気にするな。こっちも仕事だからな」
「はい。まぁ、正直あなた方の保存食は研究者としてはすごーく気になるのですけど、教えてはくれないんですよね?」
「あー、その件は勘弁してくれないか。広まると厄介になる」
「確かにどう考えても既得権益と正面からケンカになりますよねぇ。えぇ、黙ってますよ。その黙ってる代わりに……」
そう言って、ジーナさんはモジモジとしだした。そこでズバッと賄賂を要求できないあたりこの人の善良さが窺える。
「……分かった。3食分ぐらいで手を打とう」
「ありがとうございます! 大事に食べますね!」
提案としたのは割と少ない量だが、それでも満足する様子のジーナさん。もっと要求できるだろうに、要求して来ないのはこの人の性根なんだろう。
レトルトを3食分渡して、ジーナさんとは別れる。
その後、冒険者ギルドで護衛依頼達成の報告を済ませると、ちょうど昼時になったので、飯どころで飯を食うことにした。
「さて、無事に王都についたわけだが」
「で、肝心の勇者は今どこなのさ?」
「それもそうだな、ちょっと調べてみるか。『ロケーション』」
飯を食いながら今度の方針を相談しようとしたら、白虎がまず指摘してきたので、前島さんの居場所を調べる。
「む、結構近いな。これならすぐに合流できそうだ」
「ご主人、一応聞くけど近いって王宮の中とかじゃないよね? それやられると合流は難しいんだけど」
「いや、王宮がある方向じゃないな。これは街中のどっかだな。王都の地理は分からないから、正確な場所は歩いて調べないといけないが」
「ふーん。街中なら安心だね。そいじゃ飯食ったら向かうとしようか」
「そうだな」
俺たちはのんびり飯を食い終わると、勘定を済ませて店を出た。ちなみに味は可もなく不可もなくと言った感じだ。ぶっちゃけ道中食べてた保存食の方がうまい。これが王都の標準なのだとしたら、そりゃジーナさんも保存食にハマろうというもんである。
「さて、前島さんの居場所は……っと」
ロケーションで判明した場所を目指してひたすら街を歩く。
しばらく歩くと一軒の宿屋に到着する。なるほど、ここに泊まっているってわけか。俺はそのまま宿の中に入る。すると、都合がいいことにロビーにいる前島さんを見つけた。
「見つけたぞ、前島さん」
「えっ?」
俺の言葉に振り返る前島さん。そして、驚愕の表情を浮かべる。
おいおい、なんだその表情は。ちゃんと迎えに来ると言っただろう。まさか、来ないとでも思ったのか?
「は、勇人くん……」
「よ、久しぶり。あれからどれくらい経った?」
「1月ぐらいしか経ってないけど、ていうか本当に迎えに来てくれたんだ……」
「俺はちゃんと約束を守る男だぞ。異世界転移の準備もできてる。さぁ、地球に帰ろうか」
俺がそう提案するが、前島さんの表情は曇ってしまう。
「ねぇ、その異世界転移って今すぐじゃないとだめな系?」
「いや、いつでもいけるぞ? あ、いや俺が知ってる場所じゃないといけないから、前島さんの記憶を覗かせてもらってからになるが、それさえ済めばタイミング的にはいつでもできるぞ」
俺がそう言うと、前島さんは何か決意したかのような表情を浮かべ、俺に向き直る。
「だったら、地球に帰るのは少し待って欲しいの」
「……何かあったのか? アンジェリカ王──アンジェがいないことと何か関係があるのか?」
そう、この場にいるのは前島さんだけで、アンジェ王女とアンナリーナさんがいない。そして、この場所は王都。何かあったかと言うのは聞かなくてもわかるだろう。
「うん、ちょっと落ち着いて話をしましょう」
そう言って、俺たちはロビーにあるソファーに互いが座り話を始める。
「まず、勇人くんと別れてからの話をするわね」
「あ、その前にこっちの新しい仲間を紹介しておく。四神が一柱、白虎だ」
「よろしくニキー。趣味はネット小説漁りと同人誌作成。押しも押されぬオタク街道まっしぐらの白虎だよ。君が勇者前島桜さんだね。話はご主人から聞いてるよ。ま、仲良くやろうよ」
「オ、オタク……。四神がそれでいいの? ていうか、青龍に引き続き白虎まで仲間にするなんて。四神をコンプリートでもするつもりなの?」
「今のところその予定はないが……」
あと二柱で揃うから揃えたいという気持ちもないわけではないが、どうも朱雀に対して青龍からの当たりが強いので、仲間にできるとしても玄武までがせいぜいだろう。まぁ、今のところ戦力は足りてるので四神を増やす予定はないが。
「ま、まぁとりあえずこっちの話をするわね。勇人くんと別れてからの話」
そう言って、前島さんはポツポツと俺と別れてからの話をし始めた。
まず、別れてからすぐは前島さんとアンジェ王女のランク上げに徹したそうだ。しばらくガロで依頼をこなしつつ、ランクを上げる毎日だったとか。
その甲斐あって、アンジェ皇女はDランク、前島さんはCランクに上がったとか。アンナリーナさんはサポーターという分類らしくランクアップは特殊なようでE止まりだそうだ。
で、ランクがそれぐらいに上がり切ったころ。王都からアンジェ王女の元に使いが来たそうだ。なんでも王が危篤ですぐ戻るようにとのことだ。
それだけならばよかったのだが、その知らせを持ってきた人物が問題だったのだ。持ってきた人物は第一王子デニスの使いだったのだ。デニスという名前は俺は初めて聞くが、とりあえず第一王子なので、アンジェ王女とは王位継承権を争う存在である。そんな人物から王危篤の使い。どう考えても誘き出して殺す罠である。
前島さんも、アンナリーナさんも懸命に反対したのだが、アンジェ王女は頑として譲らなかった。
「父上が危篤というのなら、第一王女である私は戻らなければいけません。それが明らかに罠だとわかっていても、です」
「し、しかし!」
「アンナ、あなたには一時暇を出します。私が戻らなければ、勇者様を私に代わってお支えするのですよ」
「ひ……お嬢様! そのようなことは!」
「大丈夫ですよ。私とてそう簡単に殺されてはやれません。その時は必ず一矢報いてやりますよ」
そんな感じで、三人で連れ立って王都へ向かい、その後アンジェ王女は単身王宮に向かって今に至るということらしい。
「あたしもアンジェについていってあげたかったんだけど、アンジェに絶対にだめって言われて……。なんとか助けてあげたいんだけど」
「ふーむ」
そこまでの話を聞いて俺は深く考え込む。背景がまだイマイチよくわかってないが、王危篤という話でもって他の王位継承者を呼び出す。これが自派閥の使いならホイホイ戻っても問題ないが、今行われているのは他派閥の者からの使いである。王危篤という話が真実かどうかに関わらず、どう好意的に見積もっても始末する段取りでしかないだろう。
そこにホイホイ行ったアンジェ。自業自得ではあるが、流石に見捨てるのは目覚めが悪い。
「で、今アンナリーナさんは?」
「部屋で待ってるわ。ちょっと同じ部屋にいるのは気まずくてあたしはロビーにいたんだけど」
「ふむ、アンナリーナさんはいる、と。とりあえず、王宮に侵入してみるか?」
「とりあえずってそんな簡単に……。あたしだってそれを考えてなかったわけじゃないわよ。でも、警備がすごく厳しくて私たちじゃどうやっても入れなくて……」
「アンナリーナさんがこっちにいるのが幸いしたな。王宮内の道案内を任せられる。アンジェがどこにいるか大体分かるはずだ」
「いやでも、そもそも警備が厳しくて侵入できないんだから……」
「案ずるな。こういう時こそ魔法の出番だ」
そう言って俺は前島さんにウインクをする。




