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1.勇者召喚世界再び

「よし、到着っと」


 ポータルのチートを使い、俺は再びこの勇者召喚の世界に降り立つ。降り立った場所は、アドミンに最初に飛ばされたあのスタート地点だ。

 流石に、街中にいきなり出て誰かに見られては困るので、人の目がない場所を選んだ。

 すぐさま、呼晶を使って青龍たちを召喚する。


「お、ここがご主人の行きたがってた世界か。ここはどんな世界なの?」


「喜べ白虎。ここはお前の行きたがってた、中世ファンタジーの世界だぞ。いわゆる勇者召喚の世界だ」


「お、キタね! しかも、勇者召喚と来たか! てことはご主人が勇者として召喚されたの?」


「いや、勇者として召喚されたのは俺じゃない。別の人物だ。しかも、あれだぞ。召喚した王様がいきなり奴隷にしようとしてきたって言うな」


「うーん、テンプレで実にいいね! じゃ、当面の目的はその勇者と合流することかな?」


「そうなるな。と言うわけで早速『ロケーション』」


 まずは失せ物探し魔法で前島さんの居場所を探査する。


「む、結構遠いな。反応が薄い」


 少なくともこの反応は、俺たちが拠点としていたガロではないことは確かだ。ガロから……、これは北西か?


「とりあえず、一番近くにガロって都市があるからそこに向かおう。青龍、先導任せた」


「了解いたしました」


「ちょい待った、行き先が分かってるんなら飛んでいこうよ。歩きなんてめんどくさい。ご主人はもう古代魔法は全部使えるんでしょ?」


 青龍が先導しようとするところに、白虎が待ったをかける。なるほど、それは正論だ。しかしそれには大きな問題がある。


「俺もそうできるならそうしたいんだがな。生憎、俺はなぜか飛行魔法だけはどうやっても使えなかったんだ」


「飛行魔法が使えない? どうして?」


「そんなのは俺が聞きたいぐらいだ」


 そうなのだ。オールラーニングというチートがありながら、俺は何度やっても飛行魔法だけは使うことが出来なかったのだ。落下速度を減少させる魔法やら、ジャンプ力を増す魔法は使えたのに、飛行魔法だけはどうやっても使えなかったのだ。


「んー……空が飛べない。空が飛べないねぇ……、ちなみに飛行機は乗れる?」


「飛行機ならお前に会いに行った時に乗ったな。ていうか、飛行機に乗ったら空飛べるのは当たり前だろ」


「いや、なんかそういう概念で飛べないのかと。なるほど、飛行機には乗れる、と。となると……」


 そういって、何やらブツブツと呟き始めた白虎。とりあえず、それは置いておいて俺たちは先に進むことにする。

 白虎も白虎で呟きながらもちゃんとこっちに付いてきてる。

 1時間強でガロへと辿り着く俺たち。

 前と同じように犯罪履歴を見る水晶に手を当てて、街に入場する。

 そこで、また白虎がテンション高くして、門兵の兄ちゃんがドン引きしたのは内緒だ。


「おぉ! 中世風の街並み! これだよ! これこそ異世界転移ってやつだよ!」


 白虎のテンションは相変わらず高いままだ。散歩に行きたがる犬みたいにテンションが高い。


「テンション高いのはいいが、あんまりはしゃぎすぎて目的を忘れないようにな」


「分かってるよ。とりあえず当座の資金を得るんだよね?」


「あぁ、そうだ。また塩を売って資金を得る。しかし、もう一度ここに来るとなるとアンジェ王女に全財産を渡したのは失敗だったかな」


「あの場は仕方ありませんよ。一応名目上はパーティーで稼いだ金となっておりますし、罪滅ぼしという面もございます。それに、金で済むなら安いものです」


「まぁ、いざとなったら一旦地球に帰って金目のものを持って来れる俺だったら金ぐらいすぐか。じゃ、ちゃっちゃと換金に行くぞ」


 かって知ったるなんとやらで、商業ギルドに行き再び塩を金貨5枚で売ることに成功した。

 向こうの職員は俺を覚えていなかったが、流石にギルドマスターには覚えられていて、定期的な仕入れを打診されたが、丁重に断っておいた。

 あくまで、当座の資金を得るためで商人になるつもりはないからな。


「さて、金はできた。とりあえず後は地図でも手に入ればいいんだが」


 俺がそう呟くと、白虎が素早く反応する。


「地図かー。こういう時代だと地図は軍事情報だからね。精巧なのは手に入らないと思っていいよね。まぁ、今の目的を考えると概略図で十分なんだけど」


「冒険者ギルドにあるかどうか聞いてみては?」


「そうだな」


 そういうことで、冒険者ギルドに向かうことにする。おっと、Bランクの冒険者証を出しておかないとな。

 冒険者ギルドにつくと、適当な受付嬢を見つけて話しかける。あれ、この人最初に俺の担当した人か?


「おや、ハヤトさんじゃないですか。遠くに旅立ったって聞いてましたけど、ガロに戻ってきたんですか?」


 この人俺のこと覚えてたのか。まぁ、いきなりFからBに大躍進した新人だしな。覚えてても不思議じゃないか。


「あぁ、用事が済んで戻ってきたんだ。ダメもとで聞くんだが、俺の元パーティーメンバーがどこに行ったか知らないか?」


「知りませんし、知ってても教えれませんよ? そういうのは軽々に教えるとトラブルの元ですから」


 まぁ、そうなるだろうな。宿屋の紹介を利益供与になるから教えられないって言ったギルドだ。他のパーティーの位置情報なんか絶対教えてくれないだろうとは思ってた。


「じゃあ、地図かなんかは売ってないか? 別に精巧である必要はないんだ、大体の街や村の位置がわかるような概略図でいいんだ」


「概略でいいなら、2階の書庫の壁に貼ってありますよ。誰でも閲覧できるのでご自由に。で、久しぶりにガロにきたなら何か依頼を受けて行かれますか? 丁度Bランクに適している依頼があるんですけど……」


「ありがとう。でも、ここで依頼を受けるつもりないんだ。あいつらを追いたいからな」


 受付嬢の提案を俺が断ると、受付嬢はそれを予想していたのか、大して残念そうな表情を浮かべることはなかった。


「そうですか、なら仕方ありませんね。また、ガロにこられた時はお願いしますね」


 そこで、俺と受付嬢の会話は終了した。俺は言われた通り2階に行き、壁に貼られた地図を凝視する。


「ここから北西。そして距離の関係を考えると、今いるのは王都エングラントか」


 王都にいるとかすごい厄ネタと思うんだが、前島さんとアンジェ王女は何をしてるんだ?


「王都、ですか。アンジェ王女がいることを考えるとどう考えても穏当にすみそうにはない位置ですね」


「全くだ。とりあえず、色々準備して王都に向かうぞ」


「あ、じゃあ。せっかくだから王都までの護衛依頼受けたらいいんじゃないかな? こういう場合の定番でしょ? 空飛んで行けないから、少しでも移動速度早い馬車で行きたいじゃない」


 白虎がそう提案するが、俺はそれに対して難色を示す


「いや、それは合理的だが、さっき依頼は受けないって言った手前な……」


「そんなの気にしない、気にしない。それと私の冒険者登録もしてもらってないでしょ。そんなの許されざるよ。冒険者になりたいなりたいなりたい!」


「分かった分かった。ただ、護衛依頼があったらだからな! なかったら普通に徒歩で行くぞ」


 白虎が駄々をコネ始めたので、なんとか宥めて納得してもらう。

 やれやれ、前途多難だな。


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