17.女郎蜘蛛 2
「『ファイヤーボール』」
何度目かのファイヤーボールを土蜘蛛たちの群れに放つ。青龍はひたすらアシッドクラウドで土蜘蛛たちを削っているが、無限の魔力を得られる青龍と違って、俺の魔力には限界がある、位階の高い魔法なんか使って魔力の無駄遣いはできない。ファイヤーボールではまれに撃ち漏らすが、魔力の節約のためには仕方がない。
トウコツの方はトウコツのの方で、相変わらず素手と爪、ブレスだけで土蜘蛛を屠っていた。そういやこいつは魔法使えないんだな。まぁ、性格的に魔法とか向いてなさそうな性格してるが。
千代ちゃんは大群を相手にするのに疲れて来たのか、明らかに討伐のペースが落ちている。よく見れば肩で息をしていて疲れているのは明らかだ。
「大丈夫か、千代ちゃん。『メジャーヒーリング』」
疲労でえらい事になる前に、体力を回復させる。まぁ、完全回復とはいかないがないとあるのとでは大違いだろう。
「かたじけない、勇人殿。これでまだ戦えるでござる」
そう言うが早いか、千代ちゃんは再び土蜘蛛の群れに突っ込む。あまり無理をしてほしくないんだが、こればっかりは仕方ないだろう。
「『アシッドクラウド』『アシッドクラウド』『アシッドクラウド』」
ひたすらBotのようにアシッドクラウドを連発する青龍。洞窟だから大丈夫なもんの、外でやったらえらい環境破壊になるな。しかし、流石に位階の高い魔法だけあって、全て確殺している。そこらへんの状況判断は流石と言ったところか。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ~」
対して、おちょくった言動をしているのが白虎だ。さっきからひたすら女郎蜘蛛を挑発し、女郎蜘蛛の攻撃を一手に引き受けている。
「おのれ、莫迦にしよって!」
女郎蜘蛛は怒り心頭で白虎を追いかける。が、その巨体ゆえか一向に追いつくことはできない。
そうやって、白虎が女郎蜘蛛と遊んでいる間、ようやく土蜘蛛たちの始末が終わった。千代ちゃん辺りは再び肩で息をしてしんどそうである。他のメンツに関しては言うに及ばずだが。ちなみに俺は結構しんどい。
「あ、そっち終わった? じゃ、始末しちゃおうか」
白虎は土蜘蛛の始末が終わるのを待っていたのか、俺にそういうと立ち止まり、集中を開始する。
「『スタビライザー』『クインテットマジック』『デス』」
「がっ……あぁ……」
白虎が魔法を唱えるとあっさりと、本当にあっさりと女郎蜘蛛は大きな音を立てて倒れ伏した。
「ま、こんなもんかな」
「即死魔法って風情がないような気がするんだが」
あっけらかんとしてる白虎に対して少し文句を言う。
「とは言っても、効く保証もないし、効くなら効くで一番の最適解だと思うけどね。属性魔法でもそこらへん一緒でしょ? 弱点つくのは基本だよ」
「そりゃそうかも知れんが」
「終わったのでござるな。若様、この千代、仇をとりましてございます」
千代ちゃんは胸に手を当てて黙祷を捧げる。
「ふいー、終わった終わった。じゃ、また戦いになったら呼べよな。戦場はいくら経験しても飽きたりねぇぜ」
トウコツはいつものように姿を消す。こいつ大物狙いじゃなく小物掃除でも満足してくれるからいいよな。まぁ、大物が欲しいと言われたらできるだけそれも叶えるつもりではあるが。
「では、勇人殿。某は屋敷に戻るつもりでござるが、その方はどうするつもりでござるか?」
「俺はちょっと巣を漁ってから帰る。そっちも漁らないか? ひょっとしたら遺品が見つかるかも知れないぞ?」
俺がそう言うと、千代ちゃんはビクッと反応する。
「そ、そう言うことならそれがしもお供させてもらうでござる」
まぁ、こう言うと乗ってくると思った。俺としても、真宮寺勇人の遺品が見つかるならそれに越したことはない。感傷に過ぎないが、こう言うのは大事だろう。
そんなわけで、俺たちは女郎蜘蛛の巣の奥へと入り込む。そこはタンパク質の焼けた匂いで充満していた。うーん、思ったより白虎の火力が強い。こりゃ遺品も下手すれば焼けてるかもしれないな。
「じゃ、手分けして色々探すか。残党がいるかもしれないから周囲には充分気をつけて。白虎は千代ちゃんについてやってくれ」
「あいよー」
「では私は、勇人様と」
それぞれ巣を漁り出すが、やはり巣を焼いた影響か、めぼしいものは焼けていたりしていて、形の残っているものは少ない。人間の持ち物でも食べれないもの、服飾品や服、武器などがまとめて置いてあるのだが、そこも半分以上が焼けていた。
とりあえず、そのガラクタの山から有意なものを見つけなければならないのだが、よく考えれば俺は真宮寺勇人の遺品がどんなものか知らなかった。まぁ、いいやとりあえずめぼしいものが何か見つけるだけでも──、
「あった……! あったでござるよ、若様の鉢金! しかし、鉢金がここにあると言うことはやはり若様は……」
漁っていると、千代ちゃんがどうやら目的のものを見つけたようだ。しかし、鉢金か。刀とかじゃないんだな。
千代ちゃんは鉢金を大事そうに手に取ると立ち上がり、巣を後にしようとする。
「もういいのか?」
「若様は屋敷をお出になるとき、刀は置いていかれたでござる。唯一燃えず食べられずにに残ったのがこの鉢金でござる。ゆえにこれで十分なのでござるよ」
「そうか」
俺はそれ以上何も言わなかった。
「では、お屋敷に帰るでござるよ」
「じゃ、俺はこの辺で失礼するよ。さよならだ、千代ちゃん」
「報告もせずに帰るつもりでござるか?」
「報告なら千代ちゃんがやってくれるだろ? それに、藤御前様と会うのはちょいと気まずい。すぐにいなくなる予定だしな」
「ならば、陰陽剣を──」
「私たちをまたあんな暗い場所に戻す気? 全力でお断りよ。ねぇ、私」
「せっかく何百年ぶりかの所有者よ、逃がすつもりは毛頭ないわ。ねぇ、私」
「……分かったでござるよ。もうなにも言わないでござる」
千代ちゃんは明らかな不満顔だったが、陰陽剣たちの言葉を聞いて諦めたようだ。
「それじゃあな、千代ちゃん」
洞窟から出たあたりで、千代ちゃんと別れる。千代ちゃんはまだ未練たらしく陰陽剣に目線をやっているが、すぐに目線を切ると下山を開始した。
「さて、俺たちも帰るか。日本へ」
「でも、どうやって帰んのさ。例の笛吹けばいいの?」
「いや、今までと同じパターンなら、夢の世界に入ればそこから日本へと帰還できるはずだ」
「夢経由か。一体どういう仕組みなのか。夢魔の類? でも、夢魔にそんな力があるとは思えないし」
何やらぶつぶつと呟き始めた白虎を尻目に、俺はアイテムボックスから寝袋を取り出し、準備をする。
「勇人様、よろしくければ膝枕などいかがでしょうか?」
なんてことを青龍が言い出して、
「遠慮しておく……」
俺が遠慮するという一幕があったが、なんと言うことは無しに眠りに付く俺。これで大丈夫のはずだが、さてはて。




