15.土蜘蛛たちの住処
「クキキキ」
「キキ……」
おぉー、いるいる。大量にいるな。
現在目指していた土蜘蛛たちのアジトの前の茂みで全員待機している状態だ。
土蜘蛛という名前らしく奴らは洞窟をアジトにしているらしく、洞窟の前には見張りだけでなく大量の土蜘蛛が蠢いていた。
というか、この大きさだからまだ気持ち悪さはマシだが、小さいと気持ち悪さはひと塩だろうな。なんとかフォビアとか言ったっけ? ああいうの俺苦手なんだよな。
「で、どうする千代ちゃん。あそこに突っ込む?」
俺は返答はわかっていながらも千代ちゃんに尋ねる。
「さ、流石にあの数の中に突っ込むのは遠慮したいでござる……」
「まぁ、そりゃそうだよね。しかしどうするか……。トウコツを突っ込ませて暴れさせてもいいんだけど、後が続かないよなぁ」
「別にそれぐらいやってもらってもいいんじゃないの? せいぜいこき使ってやろうよ」
白虎がそう言い放つが、俺はそれに反論する。
「いや、俺もちょっとばかりは同意したい気分だが、あれでもうちの重要な戦力だからな。中に入った後にまたアイツが必要な場面が出た場合厄介なことになる。頭数を使うべきところはここじゃないはずだ」
「では、ここは現状の戦力だけで?」
青龍の言葉に俺は頷く。
「そうなるな。スリープクラウドの呪文は……、ちょっと範囲が足らないか。あんまり高い位階の魔法使うと魔力の消費がなー」
「魔力消費なら私たちに任せりゃいいじゃん。私らは実質無限の魔力を持ってるんだから」
「そういや聞いてなかったんだが、白虎は何が出来るんだ? それによってこの作戦大いに変わってくるんだが」
「それ今聞くかね? まぁ、いいや。私ができることは素手での格闘術、古代魔法、精霊魔法全般と、固有魔法の錬成魔法が使えるよ。あと、汎用魔法もわりかし広範囲に、その中でも魔術が一番の得意分野かな」
「知らない単語てんこ盛りなんだが、結局この状況をなんとか出来る方策はあるのか?」
「青龍、どんなけ物を教えてないのさ……。こりゃ、帰ったら是非とも講義しないとだね。ま、この状況下なら任せてよ。さっきご主人はスリープクラウドだと範囲が足らないって言ったよね?」
「あぁ」
「だったら、範囲を広くアレンジした魔術を打っちゃえばいいのさ。このアレンジこそが魔術という技術の真骨頂さ。まぁ、見ててよ。二倍ぐらいでいいかな?」
白虎はそう言うと目を閉じ集中すると、ふと手を蜘蛛たちの方に向ける。
「『ワイドマジック』『スタビライザー』『ダブルマジック』『スリープ』」
白虎が長々と魔法名を唱えると、土蜘蛛たちはバタバタと動きを止め眠りに入る。
かなり広範囲に散っていたが全て余さず範囲に入っているようだ。
「ま、ざっとこんなもんだよ。じゃ、一匹ずつ始末していこう」
そう言うと全員で寝ている蜘蛛を一匹ずつ始末していく。千代ちゃんも微妙に納得いってない顔をしているが、文句を言うことはなく黙々と始末していく。
「これだとイマイチ敵討ちという感覚がしないでござる……」
「まぁ気持ちはわかる。まだ中に一杯いるだろうからな、そいつらを相手に頑張ってくれ」
始末を終えると結局文句を言った千代ちゃん。適当に慰めておく。
「それじゃ中に入るわけなんだが、明かりはどうするか……、って考えるまでもなく付けるしかないか。暗視できるのは俺たちだけだし千代ちゃんが見えなくなるしな」
「土蜘蛛がどうかは知りませんが、生き物の蜘蛛はほとんど視力に頼っていないそうなので灯りをつけて有利になれど不利になることはないかと」
「そうか。じゃあ、『ライト』」
明かりの魔法を使い、眩く輝く球体を浮かべる。自動追尾してくれるので位階が低い割に便利な魔法である。
「いくぞ」
俺がそういうと、千代ちゃんが緊張で体を硬くする。他の2人はのほほん状態である。いや、そりゃお前らにとっては楽勝だろうけどさ。もうちょっと緊張感持ってくれよ。
そのまま洞窟の中を進む、陣形は青龍と千代ちゃんが先頭、俺が真ん中、殿が白虎という布陣だ。
陰陽剣を持ってしても、相変わらず俺が前衛としてカウントされてないが、俺としても今の剣術の腕前で前衛に立つのはヤなのでこの陣形を嬉々として受け入れてる。
そのまましばらく進むと、ギチギチと不快な音が前方から聞こえてくる。
「来たな」
「ふむ、気配からして一匹のみですか。丁度良さそうですね。千代さん。やってみますか?」
「ふむ! 一匹だけならそれがし一人で結構! 助太刀はいらないでござるよ!」
千代ちゃんはそういうと腰から刀を抜き放ち、正眼に構える。
すると、程なくして前方から土蜘蛛が一匹やってくる。千代ちゃんは相手が交戦状態に入るより早く駆け出し、一刀両断。哀れ土蜘蛛は物言わぬ骸と化した。うん、やっぱり千代ちゃんも割と強いな。青龍がおかしすぎるだけだ。
「御免」
千代ちゃんは血糊を振るうと刀を納刀する。
「ふむ。お見事。では、先に進みましょうか」
青龍が讃えると、また同じ陣形で歩き出す俺たち。
しばらくは同じように一匹二匹はぐれのような土蜘蛛と出会うが、千代ちゃんもしくは青龍の一撃によって沈んでいた。
というか、洞窟の前にいた量から考えるともっと大規模なコロニーを築いていてもおかしくないのだが、それにしては随分と量が少ないな。
「なぁ、青龍。ちょっと土蜘蛛が襲ってくる数が少ないように感じるんだが」
「私もそう思います。洞窟前にいた数を考えるとこの数は少なすぎます」
「だね。とするとこれは……」
「待ち伏せ、か」
まぁ、こちらの襲撃はすでにバレてるので待ち伏せするのは当然と言えば当然なのだが。
「一応念のためかけ直しておくか。『プリベンション』」
念には念を入れて状態異常を防ぐ魔法をかけ直しておく。かかってから治す手段がない以上、備えは万全にしておく必要がある。
「勇人様、この角の向こうに大量の気配を感じます。やはり待ち伏せですね」
(勇人、この先に大量の妖怪が待ち構えているわ。準備なさい、ねぇ私)
(お手並み拝見と行こうかしら、大量の敵相手にどうするのが最適かしら? ねぇ、私)
青龍の言葉と同時に悪霊剣どもも、妖怪の反応を察知する。しかし、お手並み拝見と言われてもなぁ。この状況だったら魔法使った方がいいような気がするんだが。
まぁ、それ以前の問題として大量の敵が出てきた時はトウコツの出番だ。アイツに暴れさせるとしよう。
「『召喚、檮杌』」
トウコツを呼び出し準備万端だ。さて、決戦と行くか。




