14.ズルして楽して
土蜘蛛たちのアジトに来るまでの道中は実に快適だった。最初の襲撃が失敗したのが向こうに伝わったのか、向こうはもはや隠れることはせずに堂々とこちらの前に姿を表して戦闘を仕掛けてきた。
が、青龍に白虎、おまけにトウコツもいる俺たちパーティーの前では烏合の衆に過ぎなかった。
まぁ、トウコツは30体ぐらいが襲ってきたときに出したきりでそれ以降は出してないのだが。何か、トウコツって完全に対集団用の手札として使ってる感あるよな。でもなぁ、対単体相手だと青龍1人で事足りるからトウコツに頼る必要がないんだよな。トウコツはまだそこらへんに不満を持ってないようなので助かるが、いずれ「もっと強い奴と戦わせろ」とか言うんだろうか? そこらへんの調整もいずれしないとダメかな。
ゲームで召喚術師を使うときはそんなこと考えたこともなかったが、召喚獣も生きているんだ、出番がほしいに決まってる。ゲームと違ってちゃんと平等に扱ってやらなきゃ、ストライキでも起こしかねない。召喚術師って実際は大変なんだなぁ、そんなことを思ってしまう。
話を戻そう。土蜘蛛へのアジトへの道だが順調すぎるぐらいに進めている。あまりに順調すぎてフラグじゃないかって思うぐらいに順調だ。
で、こんなに順調でも不満に思うものがいるわけで。誰かってそれは千代ちゃんだ。なんせ、ここに来るまで土蜘蛛という土蜘蛛を俺たちが倒してしまっているので、千代ちゃんはほぼ戦果0なのだ。おかげでさっきからずっと不満そうな顔を浮かべている。
「な、なぁ千代ちゃん……」
「む~~~~~」
ずっとこの調子なのである。俺が話しかけてもずっと不機嫌な顔で唸ったまま。その様子は可愛らしくもあるが、さっきも雑談の展開に失敗した俺としてはなんとか彼女との対話を試みたくある。
が、向こうが乗ってくれなければ絵に描いた餅である。ずっと、このままの空気は勘弁なのだが。
「貴殿はズルいでござるな……」
と、ポツリと千代ちゃんがこぼした。
「ズルいって?」
「剣術も、術も、若様がほしいと思って得られなかったものでござる。それを同じ名前の貴殿はたやすく持っている。それにかような強力な式神まで従えて……。貴殿の力の一つでも若様が持っていれば若様は死なずにすんだのでは、そう思ってしまうのでござるよ」
剣術は俺は大したことないぞ。そう言おうとしたがその言葉は飲み込んだ。今それを言っても嫌味にしか聞こえないだろう。
「それは……」
なんと声をかければいいか分からなかった。俺のこの力はチート能力。いわゆるズルによって得たものだ。いや、元から俺に備わってはいた能力ではあるが、他のみんなが持っていない能力な以上ズルな能力であろう。ズルして楽して獲得した力だ、ズルと思ってしまう千代ちゃんの感覚は限りなく正しいだろう。
「……ふっ、詮なきことでござったな。妙なことをいい申した。貴殿のその力も修練の果てに身につけた力であろうに、無粋なことを申した。許されよ」
「……」
その言葉で俺は完全に沈黙してしまった。違う、違うんだ千代ちゃん。俺の力は本当にズルして身につけた力なんだ。修練の果ての力なんてことはない。謝る必要は──、
「勇人様」
俺が思考の渦に陥りそうになったとき、青龍がそっと声をかける。
「いいではありませんか、ズルくても。それにズルと言っても近道の類のズルです。勇人様は他の方より少し強かだった。それでいいではありませんか」
「いやしかし……」
青龍の言葉に反論しようとすると、白虎が横から口を挟んできた。
「んー、イマイチ話の流れが分かんないけどさ。近道と遠回りがあるんだったら、近道を通るのが人として普通じゃないの? 競技ならともかく、近道通って、ズルした! なんていう人いないんじゃない? それに、例えば近道しかなかったとしたら、それはもはや近道じゃなくて正規ルートって言うんじゃない?」
「正規ルート……」
白虎には、俺のオールラーニングのことはまだ話してない。だから、話の内容がわかる筈はないのだが、その例えは的を射ていた。近道しかないならそれは正規ルート、か。詭弁のようにも聞こえるが今の俺にはそれは必要な言葉だった。
「なるほどな、ありがとな白虎」
「うん? よくわからないけど、どういたしまして」
白虎は本当によくわかっていないような感じでそう返してくる。
まだ俺自身納得したわけではないが、今はこれでいいだろう。いつか、自分の能力に折り合いがつけれる日が来ることを祈ろう。
「どうしたでござるか、立ち止まって。貴殿が案内してくれなければ土蜘蛛の住処はわからないでござるよ」
「あぁ、すまない。こっちだ」
俺は千代ちゃんの言葉に先導を再開する。
「青龍、気配はどうだ?」
「12時の方向に、大量に固まっている気配があります。おそらくそこがアジトかと」
「あぁ、俺のロケーションも大体同じ場所を示している。アタリだな」
「こ、今度はそれがしにも戦わせてほしいでござるよ! 前みたいに全部そっちでやってしまうのはなしでござるよ!」
俺としては千代ちゃんには危ない目にはあって欲しくないのだが。世界を救う救わない関係なく、千代ちゃんには死んで欲しくないと思ってるし、って、ああ、そうかこう思ってる時点で死なせちゃダメなのか。俺の意に反することだもんな。しかし、敵討ちはさせてやりたいし、困ったものだ。
「うーん、正直敵討ちはさせてあげたいと思ってるんだけどな。でも、俺らが戦った方が遥かに安全なんで」
「多少の怪我ぐらいは覚悟の上でござる! 頼む、次の戦はそれがしに任せてほしいでござる!」
「分かったわかった。次の戦いは俺らは手出ししないから、頑張ってくれ」
「感謝するでござる!」
でも、流石に数が多すぎたりしたら加勢はするからね? そっちの邪魔はしないけれども。




