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9.闇討ち

 陰陽剣の後継者が現れたことによる宴。正直俺は参加したくなかったのだが、主賓である以上参加しないわけにもいかず。いつバレるのかヒヤヒヤしながら宴に参加していた。

 分家の人間だろうか、次々と酒を注いで来るので断るのが大変だった。いや、この世界だと成人なのかもしれんが、俺は地球じゃまだ未成年だからな! 流石に飲むわけにはいかなかった。

 そして、入れ替わり立ち代わり人が来て、その流れが収まったあたりで、母親さんが俺の元にやってきた。


「よもや、選ばれるとは思いませんでした」


 開幕そう切り出してくる、母親さん。


「俺としては失敗したかったんだけどな。と言うか、あの試練内容で今まで誰も選ばれなかったってのが俺には驚きなんだが」


「ほぅ、流石試しの儀の前に大言壮語を吐いただけはありますね。大したものです」


 あ、でもよく考えれば俺の場合試練はほぼ全部スルーしたんだっけか。いやそれでも、陰陽剣が言ってたことを考えると最後の試練にたどり着いた所有者候補は他にもいたはずだ。それで、あの陰陽剣に勝てないとは思えないんだが。俺の場合奇跡の一撃が決まって勝てただけだしな。最後の試練にたどり着くぐらいの猛者ならそれぐらい朝飯前のはずだ。なんか、いまいち納得がいかない。


「で、一応確認させてもらうんだが、このまま陰陽剣を継いでもいいんだよな?」


「構いません。言ったはずですよ。是非とも選ばれるとよい、と。正直な話我が家にとってもそれは重石になってしまっているのです。その剣を継ぐ、それだけのために何人もの廃人を排出してきたのですから。本来の三郎が逃げ出すのもやむなしなのです。私としても本音としては三郎にこの試験を受けさせたくはなかったのです。あなたがそれを持っていってくれるなら大歓迎です」


 おいこら、陰陽剣。やっぱり廃人量産してたんじゃねーか! 何が1ヶ月もあれば元に戻る、だ! マジで呪いの妖刀じゃねぇか!


(おかしいわね。私たち(陰陽剣)としてはそこまでやったつもりはないのだけれど? ねぇ、(陰剣)


(予想以上に心の弱い継承者が多かったと言うことでしょう。軟弱な。ねぇ、(陽剣)


 と、悪びれる様子の一切ないこの双子。こいつらは……、


「わかった。じゃあ遠慮なく使わせてもらう。後で返せって言われても返さないからな」


「えぇ、構いませんよ。持っていってどこへとなり逃げていってください。私たちの目が届かない場所が理想ですね。蝦夷なりにでも行っていただければ最高です」


「蝦夷は流石に遠すぎんだろ……」


 蝦夷。確か北海道の旧名だったはず。今この場がどこか分からんが、ここが東北だったとしても北海道に行くのは勘弁してもらいたい。青函トンネルもないのにどうやって渡れと?


「今夜はもう遅いので、我が家に泊まることを許可いたしますが、明日には出て行ってもらいます。よろしいですね。勇人なにがし」


「あぁ、分かった。世話になったな。えーと……」


「藤御前と」


「世話になったな藤御前さん」


(自分で、御前とかつけるかねこの人。あとご主人。御前に敬称つけるなら様だよ)


(勇人様が知らないと思い補足したのでしょう)


 なんか、脳内で白虎と青龍の二人が会話してるが、自分で御前って名乗るのは不自然なのか? 俺が勇人様って名乗るようなもんか。

 白虎の言う通り、藤御前はちょっと変な顔をしたあと、すぐに元の表情に戻っていた。


「……まぁいいでしょう。寝所は用意してあります、今日はもう御休みなさい」


 藤御前はそれだけ言うと俺の前から立ち去る。宴ももう終わりが近づいていた。俺も寝るとするかな。そこらへんの下女を捕まえて、寝所の場所を聞く。下女には変な顔をされたが、こちらに疑問を呈することなく寝所へを案内をしてくれた。うん、プロだな。そして、寝所に案内してもらう間にある魔法をかけることにする。


「さーて、今日は寝るかなー」


 俺はわざとらしくそう声を上げると、着替えもせずにそのまま布団に入り込む。


(勇人様。お気づきですか?)


(あぁ、さっきからサーチアラームがビンビン鳴ってるぜ)


 そうさっきかけた魔法は敵意を感知する魔法、サーチアラームだ。この前の異世界ではクソの役にも立たなかった魔法だが、今回はバッチリ役に立ってる。

 利光とやらのあの視線。確実に陰陽剣のことを諦めてないし、なんなら闇討ちでもしてきそうな感じがヒシヒシと感じられたからな。だが、流石に本邸で襲撃するようなアホだとは思わなかった。ともかく、準備を色々しておこう。


「『アンスリープ』『プリベンション』『フィジカルエンチャント』」


 順番に、眠らない魔法、状態異常予防の魔法、身体能力強化の魔法、だ。毒とか状態異常を治す魔法は古代魔法にはないが、予防する魔法ならばあるのだ。アンスリープとプリベンションは被ってしまった気もするが、まぁ別にいいだろ。ていうか、これ宴の前にかけるべき魔法だったな。だがまぁ、利光とやらも宴で毒殺する準備まではしてないだろうから大丈夫だろう。刃に毒塗って斬りつける可能性はあるから備えはしておくが。

 そして、布団に入って夜もふけてきた頃、ギィ、ギィと木の床が軋む音がする。足音消せてないな。まぁ、プロの技をあんな若造に求めるのも酷か。俺も若造と言えるほど年取ってるわけじゃないけど。サーチアラームの方はより一層反応しうるさいぐらいの音量を奏でている。


 そして、その床の音が俺の寝床の前で止まる。そして、やおらふすまを勢いよく開けると、そこから人影が飛び出してくる。


「真宮寺勇人! 覚悟!」


 来たな。俺は慌てず騒がず、すぐさま布団から飛び起きると腰にさしていた陰剣を手に取る。すら、と抜き放つと刺客に相対する。


「な!?」


 俺が起きていると思わなかったのか、驚愕の表情を浮かべる刺客。て言うか、やっぱり利光だったか。分かりやすいフラグ立ててたもんなー。


「こんな夜更けに何用だ?」


 用件なんてわかり切っているが、それでも一応聞いてみる。


「起きていたか。いや、ならむしろ丁度いい! 勇人! 陰陽剣の後継者の座をかけてボクと勝負しろ!」


「いやだと言ったら?」


「殺す! 殺して、ボクがもう一度試しの儀を受ける! そして、ボクが陰陽剣に選ばれるんだ!」


 勝負orダイとか発想が極端だなー。て言うか、勝負とは言うが実際は殺すつもりだろうしな。こいつにとってはどっちも同じってことか。

 とりあえず、狭いこの室内で刀を振るうのは難しいので、俺はあえて相手に背中を見せて庭に出ることにする。


「な! に、逃げるのか! 待て!」


 まぁ、相手の性格から考えて俺が逃げるとは考えてなかったんだろうな。一瞬動きが止まったのち、俺と同じく庭に出てきた。そして、庭に出てきた時点で利光に相対する。


「さて、勝負だったか? 一応聞くが、これは勝負か、殺し合いか? 後者だったらちょっと俺も本気出さざるを得ないんだが?」


 と、少しばかり殺気を込めて利光を睨む。しかし、利光は俺の殺気を軽く受け流し鼻で笑ってきた。


「はっ! 本気を出す? ボクに勝てると本気で思ってるのか? ボクは大道寺家最強の剣士にして退魔師、本家でぬくぬくと育ってきたようなお坊ちゃんに勝てる相手じゃないんだよ!」


 お、退魔師とかようやく異世界らしいところが出てきたな。今まで戦国テイスト多すぎて単に過去にタイムスリップしたんじゃないかとちょっと疑っていたからな。あー、でもうちの地球って魔法もありの世界だっけ。じゃあ、やっぱりまだ過去の地球って可能性も。

 って、そんな脱線してる場合じゃなかった。ともかく、相手は本気の様子。となればこっちも、本気で(・・・)かかる必要がある。


「わかった、殺し合いが所望だな。オーケー本気出させてもらうぞ。『召喚 青龍 白虎』!」


 こすいと笑わば笑え、戦いは数だ。相手は一人だが、殺さずに戦うにはこちらもそれ以上の力で持って対抗しなければならない。悪く思うなよ利光とやら。俺の召喚に従い、青龍と白虎がその場に姿を表す。


「なっ!? 式神召喚だと!? それも、青龍と白虎!? 貴様いつの間にそんな高度な術を……!」


 ふーん、こう言うのはこっちじゃ式神召喚って言うのか。式神ってなんだっけ、確か陰陽道だっけ? 俺としては式神なんかじゃなくて使い魔、いやパートナーって感覚なんだが。

 利光は大いに驚いているが、すぐに持ち直したのか。またしても鼻持ちならない顔でこちらに語りかける。


「はっ! どうせ、格の低い分霊か何かだろ! そんなもの恐るるに足りないね。2体まとめて相手してやるよ!」


「分霊扱いとは失礼だね。こいつ、どうするご主人。処す? 処す?」


「待ちなさい白虎。そのように侮られては私の怒りが収まりません。是非ともここは私一人に──、何者です! 『セイントスピア』!」


 白虎と言い合いをしていた青龍が突如として、明後日の方向を向き、魔法を打ち放つ。光り輝く槍が青龍の手から出現し明後日の方向に突き刺さる。何その魔法、俺教えてもらってないんだが。見た感じ位階はそこまで高くなさそうだから、俺でも使えると思うんだが。


「チッ!」


 明後日の方向にいた何ものかが舌打ちするとその場から飛び去り、俺たちの目の前に着地する。そこにいたのはボロ布を纏い、胸から光の槍を生やした人間(?)だった。いや、疑問符がつくのは人間にしてはちょっと小さすぎるという点があるからだ。


「ちっ、俺に気づくとはな。そのまま潰しあっていれはいいものを」


「き、貴様妖怪か!」


 利光がその妖怪(?)に向けて声をかける。なんでそんなの分かるんだ、って思ったが妖力とかそう言うのがあるんだろうか。俺そう言う感知系苦手なんだよな。


「様子を見ていれば、勝手に潰し合いを始めたので好機と思ったのだがな。だが、無理なら無理で今ここで俺が始末すればいいだけよ!」


 そういなり、その妖怪はバキバキと嫌な音を立てながら、脚を生やしてきた(・・・・・・・・)。ボロ布を突き破り、出てくる八本(・・)の脚。

ってこいつ蜘蛛の妖怪か!


「ここでまとめて始末してくれる! 死ね、退魔師ども!」


 そう言って、その蜘蛛の妖怪はこちらに襲いかかってきた。

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