8.お披露目
最近更新忘れがちで申し訳ない・・・
陰陽剣の間から出ると、まずその眩しさに顔をしかめる。
しまった、ナイトヴィジョンの効果まだ続いてた。カットだカット。ナイトヴィジョンの効果を切ると、ようやく広間の様子が確認できた。
ざわざわとざわめく重鎮たちの視線は俺の左手に注がれている。すなわち、分離した陰陽剣である。
俺は分かりやすいように、陰剣と陽剣を前方に掲げる。すると、一層ざわめきが大きくなる。
「あ、あれは、もしや陰剣と陽剣なのか……?」
「陰陽剣は本来二振りで一つの刀と聞いていたが……」
「い、いや。その辺の刀をそれらしく持ってきただけかも知れん! あれが本物だという証拠がどこにある?」
やいのやいの。信じるものや信じないもので半々と言ったところだろうか。
俺としては別に信じてもらわなくても支障はないのだが、その態度がシャクに触った存在がいるようで、
(所有者候補ですらないのに、不快な奴らね。一度思い知らせてやりましょうか。ねぇ、私)
(えぇ、悪いけどもう一度私たちに戻るわよ。すぐに済むから我慢なさい勇人。ねぇ、私)
陰剣と陽剣がそういうや否や。陰険と陽剣が光り輝き、重鎮たちの目の前で一振りの太刀へと変化する。ていうかこれ、陰陽剣になると、デカくなるんだな。刀ってより太刀って感じのデカさだ。陰剣と陽剣状態の方が俺としては使いやすそうだ。
陰剣と陽剣が陰陽剣に変わるのを見ると、周りのざわつきは最高潮になった。
「あ、あれは間違いなく陰陽剣! だとすると、本当に選ばれたということか!」
「あ、あり得ん! 今まで誰も選ばれたことがなかったのだぞ!」
「こ、これは真宮寺竜馬の再来か!?」
辺りがざわめく中、千代ちゃんがこっそりと俺に寄ってくる。なんだ、何かあるのか?
「この度は、試しの儀の成功おめでとうございまする」
そう言って、膝をついて頭を下げてくるが、その顔は全然おめでとうという感じではなかった。そりゃそうだよな。俺は部外者なんだから。部外者が継いでしまっていい顔なんてできる筈もないか。
とりあえず、陰陽剣の状態だと霊力だったかが吸われ続けるので、すぐに陰剣と陽剣に分離させる。
まぁ、とりあえず面倒だったがこれでお披露目は終わりかな。後は青龍と白虎と合流して……、何すればいいんだろ? そういえば指針がないな、と思ってると重鎮の中から大きな声がかかる。
「み、認めない! 認めないぞ! 陰陽剣に選ばれるのはボクだ! ボクのはずなんだ! 本家の人間だからってそれだけで選ばれるのは間違っている!」
ん? なんかテンプレの予感。その言葉を発した男は立ち上がると俺のほうに詰め寄ってくる。
「おい、勇人。勝負しろ! ボクの方が陰陽剣にふさわしいことを証明してやる!」
「えっと、まずお前誰だ?」
思わず、そういう言葉が出てしまった俺は悪くないと思う。ていうか、やっちまったな、俺は若様なんだから知ってて当然なのについ口をついて言葉が出てしまった。
「なっ……! ふ、ふふふ。本家様の人間は分家の人間なんて歯牙にもかけないってわけか! 馬鹿にするなよ! ボクの方がお前より強いんだぞ!」
なんか、俺が名前を聞いた理由を向こうが勝手に勘違いしてくれたようだ。しかし、名乗ってくれないかなー。名前がわからんと呼びようもない。
「えっと、ごめん。千代ちゃん。こいつ誰?」
分家の人間さんに聞こえないように、小声で千代ちゃんに尋ねる。それを聞いた千代ちゃんは立ち上がり、俺に耳打ちしてくれた。
「分家である、大道寺家の長男である大道寺次郎三郎利光殿でござるよ。陰陽剣に一番近いと言われていた期待の星だったのでござる。勇人殿が挑戦してから次はこの御仁の番だったのでござる」
なるほど、一番期待されてた存在だったから、俺の方が選ばれて発狂した、と。
「あー、とりあえず、落ちつけ。俺としては別に継承者の権利を渡すことにやぶさかではないんだが──、」
「冗談じゃないわ。こんな優男に私たちを持たれるぐらいなら死んだ方がマシよ。ねぇ、私」
「私たちの主は、この真宮寺勇人よ。余人が入り込む隙などないわ。ねぇ、私」
俺が所有権を譲ろうとしたら、陰剣と陽剣の中からあの双子の声が聞こえてきた。ていうか、お前ら普通に喋れるのかよ。念話しなくてもよかったじゃん。あと、優男って言うんだったら俺も優男だからな。区別になってないぞ、陽剣。
(実際に喋るのは酷く疲れるのよ。そういう機構がついてるわけじゃないからね。ねぇ、私)
(今回は特別よ。馬鹿者に身の程を思い知らせる方が大事よ。ねぇ、私)
俺は何も考えてなかったはずなのに、先回りして陰剣と陽剣が補足してきた。そのセリフも一緒に喋ったらさらに追撃できたんじゃね? と思うが、本人たちも言ってるように酷く疲れるのだろう。
その陰陽剣の言葉を聞いた利光──年下っぽいから呼び捨てでいいだろう──は顔を真っ赤にしてプルプルと震え出す。
「き、貴様! 変な声色を使って、ボクを馬鹿にするのもいい加減に──」
「やめよ、次郎三郎」
利光はさらに何か言いたそうにしていたが、親父殿の呼びかけに言葉を詰まらせる。いや、今のは俺が声色変えたわけじゃなくて、陰陽剣が喋ったんだが。俺口動かしてないぞ。まぁ、腹話術とか言われてしまうと言葉を返せないが。
「陰陽剣に選ばれたのは三郎だ。これは決定である。この決定に異議のあるものは私に逆らうものと考えよ」
親父殿が一喝すると、利光は明らかにまだ納得してない顔をしながらすごすごと引き下がる。
「真宮寺竜馬以来、ようやく陰陽剣の後継者が現れた。今日は祝いの席とする、各人大いに楽しまれていかれよ」
親父殿がそう締めくくり、とりあえず試しの儀は終了した。
だが、利光がいまだにずっと俺のことを睨んでいた。こりゃ、後で確実に何かあるな。そう思わせる視線だった。




