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7.呪いの魔剣

「はっ!」


 意識が完全に覚醒すると俺はその手にしっかりと陰陽剣を握りしめていた。


(勇人様。お目が覚めましたか?)


(いやはや、リビングアーティファクトってのは厄介だね。あそこまで念入りな精神世界を構築していたとは。ま、私に言わせればまだまだだけどね)


 覚醒するなり、青龍と白虎の念話が飛んでくる。


(あぁ、今戻った。不本意な結果だがな)


(おや、陰陽剣には認められなかったのですか?)


(えぇー。せっかくこっちがお膳立てしたのにダメだったの? しっかりしてよご主人)


 いや、逆だ。と言おうとして、白虎のセリフに変なものを感じた俺は白虎に問いを投げかける。


(おい、お膳立てって何だ?)


(ん。いや、なんかめんどくさい試練がいっぱいあったみたいだからさ、精神世界のスタートとゴールを直接繋げてやってさ。構造はそんなに難しくなかったから、チョチョイっとね)


(お前の仕業かーーー!!)


 どうも、おかしいと思ったのだ。番人は驚いてたし。精神世界はホームグラウンドとか言っておきながら、こいつらは一向に存在を表さなかったし。よもや、そんな小細工──いや大細工と言うべきか──をしていたとは!


(な、なんで怒るのさ……。楽だったでしょ?)


(そう言う問題じゃねぇ! と言うか、俺は試練には失敗するつもりだったんだよ! 成功したら色々まずいだろうが。確かにそれを伝えてなかったのは俺の落ち度だが)


(勇人様、それはいけません。精神世界で敗北してしまった場合何が起こるか分からないのです。何もない場合もありますし、廃人一直線コースもあり得ます。白虎が不正をしたのも無理からぬことなのです)


(そ、そうそう。私はご主人を救うためにやったことなんだよ。だから褒めて欲しいかなーって)


 白虎がそう媚びたよな声で懇願してくる。それを聞くと少しは許してやりたくなるが。


(廃人一直線とはひどいわね。私たち(陰陽剣)はそんなことしないわよ。ねぇ(陰剣)


(えぇ、ちょっとばかり心身を喪失してもらうぐらいよ。1ヶ月もあれば元に戻るわよ。ねぇ、(陽剣)


(でたな、悪霊刀剣)


(それを私たちが許容できるとお思いで?)


 白虎と青龍が喋り出した陰陽剣に噛みつく。て言うか、普通に念話に参加できるのかこいつら。


(あぁ、怖い。怖いわ。ねぇ、(陰剣)


(それにしてもこれほど強力な式神を使役しているとは。新しい継承者はあたりのようね。ねぇ(陽剣)


(だいたい、ご主人がもし廃人にでもなったら、私の楽しい異世界ライフはどうなる! 中世ファンタジーじゃないとはいえ、せっかく異世界にこれたのに死んだら元も子もないじゃないか! このチャンス逃してなるものか!)


 前言撤回。白虎は徹頭徹尾自分のためだった。やっぱ許してやんねー。


(はぁ。まぁ、選ばれてしまったのは俺自身のせいでもあるしな。大人しく継承者にはなるしかないだろう。で、この後どうすればいいんだ? 御母堂には失敗前提で聞いてたから成功した後どうすればいいか聞いてないんだよな)


(あら、簡単なことよ。そんなこともわからないのかしら。実力はあっても、頭は愚図なようね。ねぇ、(陰剣)


(あなたは精神世界で長い間戦ってた感覚でしょうけど、失敗だろうが成功だろうが時間にして数秒も経たない試練なのだわ。だから、すぐに外に出るだけでいいのよ。ねぇ、(陽剣)


 いや、戦いはめっちゃ短かったが。まぁ、そこをツッコムと泥沼になりそうなので言わぬが花である。

 しかし、外に出る。外に出るねぇ。


(それって、当然“これ”を持ってだよな?)


(当然よ。置いていくなんて絶対に許さないわ。ねぇ、(陰剣)


(何がなんでも憑いていくわよ。ねぇ、(陽剣)


 俺が手に持った陰陽剣を指しながら言うと、双子の声で強い意志を示す。

じゃあ、試しに置いていこうとするとどうなるの、っと軽い気持ちで手のひらをパーにしようとする。

 が、手のひらの形は一向に変わらず俺の左手は陰陽剣に張り付いたまま動こうとしなかった。


(な!? と、取れない!?)


(今、捨ておこうとしたわね。信じられないわ、このニンゲン。ねぇ、(陰剣)


(そんな簡単に私たちを捨てれると思わないことね、ニンゲン。ねぇ、(陽剣)


 デロデロデロ~ン。ハヤトは呪われてしまった!

 なんて、ふざけてる場合じゃなく、マジで呪いの刀じゃねーかこれ! くそっ、呪いを解く魔法は……。教えてもらってない!


(青龍! 白虎! 呪いを解く魔法をかけてくれ!)


(あー、ご主人。残念なんだけど……)


(呪いを解くリムーブカースは信仰魔法。既に遺失した技術です。私にも白虎にも使えません)


(なん……だと……!?)


 ガッデム。とするとこの呪いの魔剣とこれからも付き合っていかなければならないのか?


(安心なさい。貴方が私たち(陰陽剣)を捨てようとしない限り、今みたいなことはしないわ。ねぇ、(陰剣)


(呪い扱いとは失敬ね。私たち(陰陽剣)は由緒正しい魔剣よ。そんじょそこらの呪いの妖刀と一緒にしてもらっては困るわ。ねぇ、(陽剣)


 捨てられない魔剣なんて、それはもう妖刀扱いでいいと思うんだが。て言うか、マジでどうするか。なまじ意思を持ってるのがやりにくい。これが無機質なただの刀剣だったら捨てるのに躊躇も何もないんだが。

 あと、さっきから触れないでいたんだが、気づいていたことが一つある。


(なぁ、気づいたんだが、お前ら俺から魔力吸ってねぇ?)


 そうなのだ。さっきから陰陽剣を持っている手からガンガンと魔力を吸われている感覚があるのだ。その量自体はさほど多くはないが、ずっと持ってると間違いなく干からびるだろう。

 しかし、剣は手から離せないわけで。


(魔力、と言うのが何か分からないけど、霊力なら確かに頂戴しているわ。ねぇ、(陰剣)


私たち(陰陽剣)の所有者になったのだから、ケチケチしないでそれぐらい寄越しなさい。覚醒したばかりで霊力が必要なのよ。ねぇ、(陽剣)


 いや、ケチケチしないでとかそう言う問題では。と言うか、俺から魔力を吸うと世界端末を通して平行世界から魔力を吸うんじゃなかったのか。一体どうなっているのか。世界端末を誤魔化してる? それとも、霊力とか言う力だから魔力とは扱いが違う? ともかく、これ以上吸われるのは堪らない。


(……、お前らの生存に必要な量ぐらいは供給してやる。だから、それ以上吸うのは即刻やめろ。俺を所有者と認めるならその命令を受諾しろ)


 強い怒りの意志を込めて、双子に念話を送る。俺の怒りの感情が伝わったのか、念話の向こうから、戸惑いの表情が窺える。


(……、わかったわ。私たち(陰陽剣)も折角の所有者を殺したくはないし。ねぇ、(陰剣)


(誤解のないように言っておくけど、私たち(陰陽剣)としても、吸いたくて吸ってるのではないわ。陰陽剣という機構自体を維持するのに、どうてしても常に霊力を吸わなければならないの。ねぇ、(陽剣)


(でも、その霊力の吸収を回避する方法があるわ。ねぇ、(陰剣)


私たち(陰陽剣)の維持には霊力が必要。ならば、私たち(陰陽剣)でなくしてしまえばいいのよ。ねぇ、(陽剣)


 二人の声が聞こえると、手に持った陰陽剣が光り輝く。すると次の瞬間には、俺の左手には二振りの少し短くなった刀が出現していた。


(これが、私たち(陰陽剣)のもう一つの形態。すなわち、陰剣と陽剣よ。ちなみに手前にいるのが私よ。この状態の私は、非生物に対して絶大な効果を発揮することができるわ。ねぇ、(陰剣)


(この状態ならば霊力を消費することもなく、持ち続けることが出来るわ。私の方は逆に生物に対して絶大な効果を発揮するわ。ねぇ、(陽剣)


 最後にお互いの名前を呼ぶせいでややこしいが、要するに陽剣が非生物特効、陰剣が生物特効の魔剣ということだろう。ていうか、ようやっとこいつらの名前の漢字が分かったわ。なるほど、陰陽剣が二つに分かれて陰と陽ね。

 とりあえず、この形態なら霊力とやらを吸収されなくて済むようだ。

 しかし、分離してこの効果ってことは合体した陰陽剣は全属性に特効とかなのか?


(で、肝心の陰陽剣の効果はなんなんだ?)


(それに関してはおいおい教えるわ。すぐに使いこなすことは出来ない類の物だし。ねぇ、(陰剣)


(さぁ、私たち(陰陽剣)のお披露目と行きましょうか。襖を開けなさいニンゲン)


 しかし、いまだに呼び名がニンゲンとはね。

 ってあ、そういえば名前教えてなかったっけか。


(勇人。真宮寺勇人だ。覚えておけ、悪霊刀剣)


 俺はそれだけ伝えると、陰陽剣の間から出る襖を開けた。


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