6.陰陽剣
「「では、再び死合と逝きましょうか!」」
俺が抜いたのを見たのか、オカマが再び突っ込んでくる。
ぐっ、俺は素人だってのに!
しかし、そんなのが相手に通用するはずもなく再びの連撃地獄がやってくる。
右へ左へ、後ろへ、時には前へ。なんとか食らいついてかわし続けるが、それもいつまでもつやら。
とりあえず分かったことといえば、こいつは青龍の足元にも及ばない相手だということだ。青龍の場合太刀筋が一切見えないからな。いや、正確には一度だけスピードを緩めてくれたことがあって、その時は太刀筋を確認できた。まぁ、その太刀筋もめちゃんこ早くて辛うじて見えたってレベルだったんだが。
話を戻そう。ともかく、こいつの場合太刀筋はその青龍のやつと比べると丸見えと言ってもいいので、避けるのは簡単だ。だてに毎放課後、青葉の一撃を避け続けてきた俺の動体視力は伊達ではない。
しかし、避けるのは簡単だが、避けるだけでは勝てない。それは向こうも分かっているのか、
「「ええい、ちょこまかと! まるでネズミですね! その根性でここまで生きて来たのですか!? 避け続けてるだけは試練になりませんよ!」」
罵倒しながらも忠告を加えてくる。
うーむ、やはり番人なだけあってそこはちゃんとしてるんだな。って感心してる場合じゃない。俺もなんとか反撃しないと。
「「む?」」
俺が刀を正眼に構えると、向こうの動きが止まる。そこで止まってくれるあたりこの番人も甘いよな。今まで誰も試練に受かったことないって話だけど、こんな甘いやつに負けたのか?
「「ようやくやる気になりましたか」」
剣をきちっと構えると、何か頭の中でカチッとスイッチが入る感触がする。なんだこれ、前にもあった気がするぞ。ともかくトーシロはトーシロなりに頑張るしかない。
俺はこの戦いで初めて自分から攻撃を仕掛けにいった。
シュッ
空気を切る音がし、気づけば既に刀を振り下ろしていた。
「え?」
「「え?」」
双方とも疑問符を浮かべる。なんだ、今何が起きた? 俺は普通に振ったつもりだ。そんなに速さを乗せたつもりもないし、特別なことは何もしてないはずだ。
だが、現実として俺の刀は超速で振り下ろされ、目の前の番人を袈裟懸けに一刀両断していた。
「「そ、そんな……」」
もう胴体が両断されているはずなのに、離れる様子もなくふらふらとよろめく番人。そして、尻餅をつくと刀をその場に取り落とす。
そして、落ちた刀が流体のように真っ黒な塊になると二つに分離する。分離した後にいたのは、白黒の双子、陽剣と陰剣だった。
「あー、今思いっきり切ってしまったが、大丈夫だったか?」
「あれはただ、真宮寺竜馬をコピーしただけの人形。私たちが傷つかない限り、私たちにはダメージはないわ」
「迂闊……、素人と思い油断しすぎていた。まさかあれほどの斬撃を放てるとは……」
それに関しては俺もびっくりだよ。俺自身あんな鋭い斬撃が放てるとは思ってなかったしな。これもオールラーニングの効果なんだろうか。でも、そんな斬撃いつラーニングしたのか。
ていうか、よく考えなくてもあれしかないよな。青龍が一度だけ速度緩めて放ってくれた奴。青龍も言ってたけど、俺型をそのまま再現することに関しては完璧に出来るんだよな。とすると、今回みたいに一撃当てればいいって場合は、立ち回りとか関係ないからうまくいくってわけか。
しかし、これ完全に長期戦には不利だよな俺。短期決戦なら問題ないが。
「で、試練はこれで突破ってことでいいのか?」
見るからに、意気消沈している双子だが、あえて空気を読まずに話しかける。あれ? よくよく考えたら、向こうが攻撃してくるから思わず反撃したけど、これ試練突破したらダメだった奴じゃねえ? なんせ、ほら。俺は試練に失敗するつもりだったんだし。
今さら自分がやってしまったことに気づき、冷や汗を流す。
「シャクだけど認めるしかないようね。私たちに一太刀浴びせるものは今までもいたけれど、あそこまで抵抗のしようのない強烈な一撃を食らったのは初めてだわ。認めるしかないようね。ねぇ、私」
「喜びなさい、ニンゲン。私たちが手を貸すのは竜馬以来よ。史上二人目となる誉れある立場であることを喜びなさい。そうよね、私」
「いや、待て。待って欲しい。俺はお前らが攻撃してきたから反撃しただけで、所有者になるつもりは──」
「今さら何をいっているのかしら。ねぇ、私」
「試練を突破したというのにそれを放棄するというのが信じられないわ。意地でも取り憑いてやるんだから。ねぇ、私」
「おい、今取り憑くとか言わなかったか、おい!」
俺が思いっきり抗議するが、双子はそれを華麗にスルーする。
「それじゃ、必要な時はいつでも私たちを呼びなさい。目覚めるわよ私」
「妖怪退治は任せなさい。私たちが切り裂いてあげる。何百年ぶりかの目覚めよ、私」
「ちょ、ま、待てってば……!」
俺の抗議の声は虚しく、黒一色のその世界に光が差し、俺の意識は急速に覚醒していった。




