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5.陰剣と陽剣

 暗い。ひたすらに暗い。なんだ、この暗闇は。とりあえず明かりをつけなきゃ。


「『ライト』」


 明かりの魔法を唱える。しかし、何も起きなかった。


「あれ? 『ライト』」


 再び唱える。しかし、再び何も起きなかった。


「どうなってんだ?」


 疑問に感じる俺を嘲笑うかのように、すぐそばからクスクスと笑う声が聞こえる。


「クスクス。無駄なのに。ねぇ、(陰剣)


「この世界で自分のルールが通用すると思ってるなんてお笑いだわ。ねぇ(陽剣)


 笑い声のしたほうにバッと振り向く。

 すると、そこには黒と白の双子が鎮座していた。いや、本当に白黒って感じの双子なのだ。髪も服も目の色も全身、黒または白で統一されている。黒目はまだいいが白目なんて恐怖でしかないんだが、この双子は何者だ?

 いやその前に、まずおかしいことがある。何がおかしいかって真っ暗闇のはずなのに、その双子がくっきり見えるってことだ。実際、今俺自身のてのひらを見ようとしても真っ暗闇で何も見えない。なのに、この双子だけははっきり見えるのだ。


「なるほど、これが精神を試されるってことか。とすると、お嬢ちゃん達が番人ってことでいいのか? 何をすればいいんだ?」


 俺がそう告げると、白黒の双子はつまらなさそうな視線を俺に向ける。


「全く動じてないわこの男。とても不快だわ。ねぇ、(陰剣)


「えぇ、本当に。少しは取り乱して私たちを愉しませることぐらいしないのかしら。ねぇ、(陽剣)


 その最後に、相手の名前を呼び合うのはこいつらの癖なのか? 名前の呼び合いからして、黒いほうがインケンで、白いほうがヨウケンか。ていうか、ヨウケンはともかくインケンって酷い名前だなおい。まるで性格が陰険みたいだ。いや、まるでじゃなくこの様子を見る限り陰険で間違いないか。とすると


「名は体を表すってことかな」


 ちょっと気が抜けて、思ったことをうっかり口に出してしまった。


「何故だかわからないけどバカにされているというのは分かるわ。不快だわ、ニンゲン」


「その憐むような視線を即刻やめなさい、ニンゲン」


「それより、早く試しの儀とやらをしてくれよ。こっちは早いとこ終わらせたいんだ」


 とりあえず、向こうの罵倒を聞き流し、早く話を進めるように促す。

 しかし、その態度も向こうの気に触るのか、相変わらず罵倒の言葉が飛んできた。


「ここまでやる気のない継承者は初めてだわ。ねぇ、(陰剣)


「ここまで来れるのは選ばれたニンゲンのはず。こいつも試練を突破してきたはずなのに、このやる気のなさは何? ねぇ、(陽剣)


「試練? そんなのあったか? 俺はただ陰陽剣を手に取って気づいたらここにいたんだが」


 俺がそういうと、今度は白黒の双子が驚愕の表情を浮かべる。


「な……。まさか全ての試練を無視してきたというの!? あり得ないわ、(陰剣)


「い、幾らかの試練は確かに所有者候補によっては、そのまま通過できるのもあるけど、全部を通過してきたというの!? どうなってるの、(陽剣)


 どうも、本来なら所有者を試す試練なりがあったらしいが、俺は何故かそれを全部スルーしていきなり最終試験にたどり着いたってことらしい。まぁ、俺としてはそれは楽でいいのだが、なんか今までの所有者候補達に悪い気がしてくるな。


「どうもこうも、俺が今この場にいるのが結果だろ? さ、早いとこ最終試験なりなんなりしてくれよ。こっちは早く戻りたいんだ」


「くっ! その舐めくさった態度を後悔させてあげるわ。いくわよ、(陰剣)


「ええ、よくってよ、(陽剣)


 そう言って双子は互いの両手をがしっと合わせると、全身が真っ黒になり流体のように溶けあう。


「な、なんだ!?」


 双子が溶け合い、真っ黒な何かはうねうねとこねくり回されるが、しばらくして一つの形になる。

 双子が溶け合った後にできたのは、一人の偉丈夫だった。大きめの刀を下げ、なにやら羽織を着た、全身墨のように真っ黒な一人の人間だった。


「「さぁ、試しと参りましょうか!」」


 その人間の口から双子のハモる声がする。どうでもいいが、その人間の見た目が完全に男のそれなので、側から見ればオカマが喋ってるようにしか見えない。緊張感薄れるなぁ!


 ダッ


 しかし、俺が緊張感を薄れさせている間、相手が止まってくれるなんてはずもなく、オカマが突っ込んでくる。


「うわっと」


 とりあえず、後ろに大きく下がって、その一太刀をかわす。だが、相手の攻撃はそれだけで終わらない、続けざまに一太刀、二太刀と連撃を繰り出してくる。俺はそれを全て後退してなんとか避ける。


「「ほらほら、さっきまでのふざけた態度はどうしました? 避けるだけで精一杯ではないですか」」


 ふと、攻撃の手を緩め、こちらを挑発してくるオカマ。


「そんなこと言っても、こっちは丸腰。魔法も使えないでどうやって戦えっつーんだよ」


「「丸腰? おかしなことを言うニンゲンね。その腰に提げた刀は飾りですか?」」


「え?」


 そう言われて、初めて自分の腰に手を当てる。そこには地球で買った30万円の刀があった。


「そうか、これあったの忘れてたわ」


 あまりにも使い道がないので提げたままにしていた現代地球製の刀だ。

 とりあえず、相手は待ってくれているようなので、ゆっくりと鞘から刀を引き抜く。

 最初はこの鞘から抜くと言う動作だけでも難儀したものだが、青龍との特訓で普通に抜けるようになっていた。

 しかし、抜いたはいいがこれでどうやって戦おう? 俺はいまだに剣術は素人だし。そして、魔法は使えない。

 あれ? この状況詰んでない?

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