4.試しの儀
あれよあれよという間に、儀式用の衣装に着替えさせられ、髪を結えられ、試しの儀に挑むことになった俺。儀式の間に入ると、すでにずらっと十人ほどが座って並んでいた。男性は皆マゲを結っており、ここが戦国時代ということを感じさせられる。
「おおう……」
その雰囲気に気圧される俺だが、とりあえず雰囲気に飲まれないように前方をしっかりと見る。しかし、部屋の前方には襖があり、両脇に人が一人ずついるだけで何も置いてなかった。てっきり、奥に陰陽剣とやらが鎮座していてそれを手に取るのかと思ったのだが。
「真宮寺三郎勇人。前へ」
並んでいる人たちの中で一番上座にいるおっさん──ていうか俺の親父かこの顔は。両親両方ともそっくりとか、ここ本当に異世界か?
「はい」
ともかく、その推定親父が俺に対して声をかけてくるので、事前に母親さんに言われたように、返事をし前に出る。どうも、親父殿は俺が若様じゃないことに気づいていないようだ。こういうのってやっぱり母親だからかな?
あ、いや母親さんに会ったときは、俺は現代の格好してたからな、それだと普通に気付くか。気づかなかった千代ちゃんがどんだけアホだったのかってことにもなるが……。
で、その千代ちゃんは座って並んでいた中で一番下座で座っていた。千代ちゃんは今の状況に納得がいってないのか、ひたすら渋面を浮かべていたが。
「汝、試しの儀に挑むことに覚悟はあるか」
「はい」
はいはい言ってればいいから儀式自体は楽だよな。まぁ、儀式なんて得てしてそんなもんだが。形式が重要で中身はどうでもいいことだったりするし。今回の件も、母親さん曰く選ばれないことを見るための儀式とか言ってたしな。
「これより先は、陰陽剣の間。汝は陰陽剣を手に取り選ばれるか否かを見ることとなる」
なるほど、陰陽剣はこの襖の向こうにあるのね。衆人監視の中でとる訳じゃないのか。それなら、たとえ選ばれたとしてもごまかしが効きそうだ。
「陰陽剣は所有者となるものの精神を見る。もう一度問う。覚悟はあるか」
「はい」
覚悟覚悟うっせーな。俺としては早く終わらしたいんだから、さっさとしてよ。
「では、いざいかん。真宮寺を継ぐものよ!」
そう言って、襖の横に待機してた人が二人同時に襖を開ける。無駄なギミックだなー。これも儀式の一環かね。
とりあえず、事前に言われた通り。陰陽剣の間の入り口前で歩く。そして、一度振り返り、居並んだ重鎮達──だと思う多分──に一礼。その後もう一度振り返り陰陽剣の間の中へと入る。
俺が入ると背後で襖が閉じる音がして、あたりは暗闇に包まれる。
いや、蝋燭の火がついてるから完全な真っ暗闇じゃないが、この閉所で蝋燭の明かりのみなのは、ほぼ暗闇と言って差し支えない。
「見えねーよ。『ナイトヴィジョン』」
暗視の魔法を発動させると、あたりが明るくなり部屋の様子が確認できるようになった。衣装は色々着替えさせられたが、指輪を外さなくてもいいのは助った。発動体なしだと魔法が発動しないからな。
そして、明るくなった視界で部屋の中を観察する。とは言っても特別な部屋というわけでもなく、普通の和室に燭台が二本立っていて中央に刀が鎮座されているだけの部屋だった。
「これが陰陽剣か、どれ──」
(お待ちを、勇人様)
無造作に刀を取ろうとしたところで、青龍からの念話で待ったがかかる。
(どうした、青龍?)
(いえ、少し気になることが。その刀……、どうやら生きているようです)
(は?)
思わず目が点になる。生きている? 刀が?
(なんだよ生きているって。別に普通の刀にしか見えないぞ)
(いえ、間違いなく意思を持っています。どうも、所有者を試すなどと半信半疑だったのですが、なるほど、リビングアーティファクトの類いでしたか。それならば、そのようなことも納得です)
リビングアーティファクトってどっかで聞いたことあるな。誰が言ってたんだっけ。あ、そうだ。俺だ。俺がリビングアーティファクトだってアドミンのやつが言ってたんだった。
(じゃあ、やっぱり触らないほうが無難?)
(どうでしょう。私としては触って欲しくはありませんが、触ったことがわかる何かが仕掛けられてるかもしれません。儀式を滞りなく進めるには触るのもやむなしではないでしょうか)
(ま、心配なーいない。向こうの精神世界に引き摺り込まれても、精神世界それ自体ははこっちの独壇場だ。引きずられそうになった瞬間ボコにしてやるよ)
(分かった。じゃあ触るぞ……)
白虎の頼もしい声が聞こえたので、俺は安心して陰陽剣に触りにいった。
──汝、陰陽剣に選ばれし者ですか?
触った瞬間、何か声が聞こえたと思ったら、俺の意識は暗転した。




