7.契約後その他諸々
「そういや、契約した後で言うのもなんだけどさ。ご主人に私ら二人を養えるだけの魔力量を捻出できるの? 視た感じ、平均ぐらいの魔力量しかないけど。これだと青龍一人で干からびるんじゃないの?」
契約完了後、白虎がそんなことを真っ先に尋ねてくる。まぁ、そこ気になるよな。俺の魔力供給方法はちょっと特殊だからな。
「大丈夫ですよ。試しに勇人様から魔力供給をしてもらってはいかがですか?」
「えー、今私会場の魔力吸収して割とお腹一杯なんだけど。まぁ、余剰魔力ぐらいならいいか。じゃ、供給させてもらうよー」
そう言って、白虎は俺の手をとり魔力を吸収し始める。しかし、青龍の時もそうだが全く俺の中から力を吸われてると言う感触がないな。まぁ、俺を通して平行世界から魔力を吸収してるので吸われないのは当然っちゃあ当然なのだが。
「ふぅ。こんなもんかな……って、魔力量減ってなくない!? どう言うこと!?」
白虎はあり得ないものを見たと言った表情で青龍に問いかける。
「これが勇人様の秘密の一つですよ。内緒にしておいてくださいね。ちなみに、いくら吸おうともこうなります」
「こんなの公にできるわけないじゃない。異世界行きなんかよりも特大の爆弾だよ……。ま、まぁ、ご主人に私たちを養える甲斐性はあるって確認できたからそれはよしとするわ」
白虎は一筋の汗を垂らしながらそう呟く。なんか、甲斐性とか言われると結婚したみたいな感じを受けるが俺の気のせいか?
「で、異世界に行くのはいつになるの!? 今日? 明日? あ、でも今日は勘弁して欲しいかなー、この後打ち上げやる予定だから。流石にサークル主だからそこを疎かにするわけにはいかないっていうか」
「それはまだ分からない。向こうの準備ができたら呼ばれることになっている。それまでは準備をする期間だな」
「なるほどー、準備期間はあるわけね。だったらさ、塩買って行こうよ! 塩! 異世界でお金を得る定番でしょ!」
「一応もう一回買うつもりだが、その道はすでに俺が通った道だぞ?」
「それはご主人が経験しただけでしょ! 私はまだ経験してないから経験したいの!」
ぷんぷんと擬音がするかのように怒る白虎。その様子はなんか子供が怒ってる感じでとても微笑ましかった。体のごく一部は全然微笑ましくないが。
「あ、とりあえず異世界に持っていきたいものはアイテムボックスに入れるから、何か持っていきたいものがあったら言ってくれよな」
「アイテムボックス! いいなー、チート能力。私も欲しい! あーでも、私はガイアの化身だからそう言うのは無理かー。ま、チート能力はご主人が使えるってことで我慢するか」
「そのさっきから気になってたんだが、そのガイアの化身ってのはなんなんだ?」
「はえ? 青龍説明してないの? 自分のことなのに?」
「必要性を感じませんでしたので」
そうなんだよな。こいつ必要ないと思ったらほんとなにも教えてくれないからな。魔法の基礎も教えてもらってないし、こいつのこの実践主義はどうにかならんのか。
「じゃあ、私がご主人に説明してあげるね」
そう言う白虎は心なしか嬉しそうだ。なんだろう、解説することに喜びを感じるタイプなんだろうか。
「ガイアの化身っていうのは、概念の一種だよ。概念って言うのは説明が難しいだけど、一言で言えば「世界のルール」だ。炎は熱い、とか氷は冷たいとか、まぁ世界のお約束だ。なぜ? って聞かれてその理由を答えられない、そんな約束事のことだ。
で、ガイアの化身っていうのは一言でいえば「ガイアによって造物された神霊等に与えられる概念」って感じかな。神霊ってのは青龍や私、四神や四霊なんかがそれに当たるね。あと、日本や海外の神格なんかは総じてこの概念を所持している。聞いたことないかな、神とは星によって創造され、生命体によって定義されるって。この星の神格はすべからく地球、ガイアによって創造され、ヒトの信仰によってその存在を定義されている。私が、金行の属性を持ち、秋を司るのも、ヒトからそうあれかしと定義されたからだ。かと言って私自身はヒトに作られたわけじゃない。元となった生命体は間違いなくガイアによって創造された。ヒトがその無形の生命体に後から定義を付け加えたんだよ」
白虎はそこで言葉を区切ると、ジュースを飲んで、さらに言葉を続ける。
「で、ガイアの化身って概念は色々な特性を持っている。さっき言ったルールだね。一つはガイアそのものには絶対に勝てないということ。創造主だからね。
あと、ガイアの化身同士で傷つけ合うことはできない。正確にいえば、ガイアの化身がもう片方のガイアの化身を傷つけると傷つけたダメージが自分にも跳ね返るんだ。ガイアが化身同士で争わないように作った防御機構と言われているが正確なところはわからない。それにしては神話の神どもは互いに争ってるみたいだけどね。少なくとも神々が作られた当時はそんなルールはなかったはずだ。いつ頃からあるルールかは私も知らないね。
で、もう一つ。存在が離散的になり、存在の確率によって存在するようになる。これが一番大きいルールかな」
「えっと、どういうことだ?」
「簡潔に言うと、私たちの時間は連続してないってことさ。次の1秒と今の1秒との間に連続性がない。全て別の存在に置き換わっているんだ。とはいえ、それは全部私だし。私でない誰かが私の代わりをしているということもない。
そして、時間が連続していないということは時空間に干渉するような能力の影響を受けないということでもある。私たちが次元を超えれれないと言った理由はこれに由来する。ゆえに、私たちはテレポートとかの魔法は使えない。
後者の存在の確率によって存在する、に関しても少々説明が難しいが……、一言でいえば、私たちはどこにでも存在しているし、どこにも存在していないとも言える状態なんだ。現在過去未来、どこにも存在しているし存在していない。この地球のどの場所にも存在しているし存在していない、うーん、説明が難しい。ともかく、私たちは確率の雲の中にいて、存在が確立されるまではそこにいるけどいないって状態なのさ」
「よくわからん……」
実際白虎の解説はよくわからなかった。
「まぁ、その結果どうなるかって言うと、私たちは過去未来現在に同時に存在できるって考えればいいさ。未来から情報を引っ張ってくることも出来るし、過去にそこに存在していたってことにもできる。今ここにいることもできるし、次の瞬間アフリカにいることもできるってことさ。ま、流石に異世界に存在するのは無理なんだけどね。できるのはガイアという存在がこの世界にあってこそだ。それゆえの存在だよ。まぁ、だからこそ異世界に行ってなんでそもそも存在を保ててるのか不思議なんだけどね。その呼晶とやらにもまだ秘密がありそうだ」
「まぁよくわからんが、チートと言うのはわかった。あれ? だとすると、テレポート使えないって言ってたけど、自分でテレポートできるんだったら別にデメリットにならなくね? あと青龍、俺にテレポートの魔法教えてたよな? あれどういう原理?」
「前者の疑問に関してはその通りです。私たちはテレポートの魔法は使えませんが、自在にテレポートすることができるのでそもそも不要といえます。後者の疑問に関してですが、魔法の行使自体は出来るのですよ。ただ発動しないだけで。私が勇人様にお教えした時は、魔法の行使と存在の確率を利用して、擬似的にテレポートの魔法を使ったように見せかけたのです。それでも勇人様は習得できたので正直驚きですが」
「どうなってるの俺の能力……」
ますます謎が深まるオールラーニングである。
「なになに、なんの話? 他にもチート能力持ってるとかそういう話?」
「また時間があるときに説明するさ。で、一応俺の家の住所とか、番号アドレス教えておくが、このあと打ち上げなんだろ?」
「せっかくだから、ご主人たちも参加する? ちょっととはいえ売り子で参加した以上は権利はあるけど?」
「いや、遠慮しておく。またコスプレさせれたらかなわん」
「居酒屋でそんなことしたら追い出されるよ。コスプレはルールを守って楽しく、だよ。ま、でも確かに中途参加じゃ参加しにくいってのもあるかもね。じゃ、今日はこれにて。そのうち遊びに行くからねー!」
そう言って、白虎は席から立ち上がるとぶんぶんと手を振りながらカフェを後にした。
「なんか、思ってたのとだいぶ違うキャラだったな」
「おや、そうですか。でも、白虎は昔からあぁですよ」
「え? 昔から? 昔からオタクだったの? サークル主してるって相当なオタクだと思うけど」
白樺派とかアララギ派とかそういう時代からの創作者なのか? ちょっと違うか。
「いえ、そういうわけでは。性格などがそのままという意味ですよ」
「あ、そういうことか。それにしても字面が字面だけに、女とは思わなかった」
「そもそもからして、私たちに性別はありませんよ。人間体は各々各自好きな性別でなっているだけです」
「やっぱりそうなのか」
なんとなくそう思っていたが、やっぱりそうなのか。こいつの姿は俺の趣味に合わせたとかなのかな? いや、青龍の過去話から考えると俺と出会う前から女だったみたいだからそれは邪推のしすぎか。
「さて、私たちも帰りましょうか。次の準備に特訓に、やることはまだ残っていますよ」
「結局特訓はするのか……」
「当たり前です。ローマは1日にしてならず、ですよ」
そうして、俺たちは飛行機に乗って実家に帰宅した。とりあえず、白虎と無事契約できて何よりだ。




