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5.四神 白虎

「さて、とりあえずは君のことも気にかかるんだけど、まず青龍の件を優先しようかな。青龍、私を見つけ出してなんのつもりだい? 相互不干渉なんて言うつもりはないけど、あんた私たちにそもそも興味なかったじゃないか。今さら接触してきて何用だい?」


「用件の前に一つ。この国際展示場に魔力吸収の結界を張っているのはあなたですね?」


「そうだけど、それが?」


 なんと、魔法結界を張ってる犯人は白虎さんだった。俺はてっきりまた、どっかの敵対勢力か妖が仕掛けてるものとばかり。


「それが? それが貴方の主張ということでよろしいのですね? いいでしょう、一度貴方とはやり合って見たかったのです。その性根叩き直してあげましょう」


「ウェウェ、ウェイウェイ! ストップ! ストップ! え、なに? 青龍ってそんなに人間好きだったっけ? なんかキャラ違うくない? ていうか、そもそもあんたと私は喧嘩できないでしょうが、どうやって性根を叩き直すのさ」


 なんだろう。人間に害が出るような悪魔的な結界を張った犯人なのに邪悪っぽさが欠片もない。無邪気かというとそうでもなく、なんというか自然体という感じがする。本当に心の底から、自分は悪いことしてるわけじゃないという感じが。


「そ、それに。あんたも結界を解析したならわかるだろうけど、一般人が相手だろうと、倦怠感を覚えるか覚えないかわからないぐらいの微量の魔力しか吸ってないってば。ここに集まる人数考えればそれで十分なんだってば。私だって人間が特別好きってわけでもないけど、嫌いってわけでもないんだから、そんなわざわざ敵対するようなことしないってば」


 捲し立てるように言い訳を並べる白虎さん。


「で、その魔力の使い道は?」


 今度は俺が聞いてみる。一応白虎さんは今後の仲間候補であるから、俺からもちゃんと聞いておきたい。一体どういうつもりでそんな真似をしたのかということを。


「そんなの、私の肉体の維持に使ってるに決まってるじゃないか」


「なんだって?」


 それはアレか。エリザベート・バートリーみたいに処女の生き血を浴びて若返るとかそういう類のやつか?


「あ、その目は変なこと考えてるね。違うよ、単純に私たち精神生命体は生きていくだけで魔力を消費するんだ。まぁ、私たちぐらいの存在となると世界中から集まる信仰の力で十分存在を補えるぐらいの魔力は供給されてるんだけどね。でも、それは何も活動しないでじっとしてたら維持できるぐらいの量しかないのさ。こうやって肉体を得て活動するには外部からの魔力供給は必須なのさ。ゆえに私は年に2回こうやって即売会で結界を張って、参加者全員から魔力を集め私が活動するための資金にしてるのさ」


 どう、納得した? とつけ加え、俺たち二人を交互に見る白虎さん。

 まぁ、変なことは確かに言ってはいないが……。


「どうやら、嘘はないようですね。失礼いたしました、謝罪いたしましょう白虎」


「あ、センスライ使ったな貴様! こっちが誠意を持って話してるというのになんて奴だ!」


 そう言って怒る白虎さん。まぁ、この魔法の存在知ってたら怒るよな。今から喋ることこっちは疑ってますよ、と宣言するような魔法だからな。


「まぁ、その件は納得いたしました。次の件です」


「私は納得してない!」


 白虎さんの怒りをスルーして、青龍は言葉を続ける。


「白虎。私とともに来ませんか? 魔力の収集をしなくても良くなりますし、今後退屈もさせません。来て損はさせませんよ?」


「え、やだ」


 青龍が勧誘するが、それを一蹴する白虎さん。おい、断られてるぞ青龍。大丈夫か。


「青龍についていくってことはさぁ、そっちの子の下につかなきゃいけないってことでしょ? それはゴメンだね。たとえその子に、私に不足なく魔力供給ができるアテがあったとしても、それだけでついていくのは絶対にイ・ヤ・ダ・ネ!」


 そして、こちらにアッカンベーをする白虎さん。アッカンベーとか今時子供でもしないぞ。


「大体からして、勧誘したいのは青龍じゃなくて、そっちの子なんでしょ? なのに青龍に全部交渉も任せてるような腰巾着の元に仕えるなんて絶対お断りだ。イケメンだからってなにがなんでも許されると思うなよ」


 イケメンなんて生まれて初めて言われたぞ。白虎さんには俺がイケメンに見えるのだろうか。


「そうだな、そっちの言うとおりだ。俺がなにも言わずに青龍に全部任せるのは良くないよな。なら、改めて言おう。白虎さん。俺とともに異世界に来てくれないだろうか」


「ふん、今更取り繕っても遅──、なんです?」


 俺の言葉に反応したのか、今まで見たことのないリアクションを返す白虎さん。よし、つかみは上々だな。


「もう一度言おう、俺と一緒に異世界に来てくれ。俺には貴方のような力を持った存在が必要だ」


「おい、青龍。お前の主大丈夫か? 暑さで脳をやられたか?」


 白虎さんが本当に心配そうな表情で青龍に問いかける。


「大丈夫ですよ。確かに荒唐無稽に聞こえますが、勇人様は普通のことしか言っていません。私が保証します」


「いやいやいや、どう見てもツッコミだらけだろ。あのな真宮寺君。異世界なんてのはお話だけの世界なの。そんなのないの。そりゃ私だって異世界行きを夢想することはあるよ? でも、それは夢想の世界だけの存在で実際にあるわけないの。頭大丈夫? 仮に存在したとしてもね、私たちガイアの化身は時空間を渡る事ができないの。だから、仮にも仮に私が貴方の仲間になったとしても異世界なんかにはいけないの? 分かった僕ちゃん?」


 最後の方は完全に哀れみの視線で俺を見ていた。完璧に痛い子扱いされてるな俺、本当のことしか言ってないのに。


「白虎。私と勇人様にセンスライをかけてみなさい」


「は? いきなりなにを」


「いいからかけなさい」


「分かったよ、『センスライ』」


 そんなやりとりのあと白虎さんが青龍と俺にセンスライをかける。ていうか、青龍ちょっと、いやかなり怒ってたな。ひょっとして、俺がばかにされて静かにぶち切れてらっしゃる?


「勇人様、この前の異世界は楽しかったですね」


 いきなり青龍がこちらに向けて喋ってくる。まぁ、これはセンスライの効果を知らしめるための会話だろう。乗ってやることにする。

 

「いや、楽しくはなかったのだが」


「そうですか? ゴブリンを退治したり、オーガを退治したり、襲われているお姫様を助けたり、色々なことがあったじゃないですか」


「いや、それはあったはあったけど、別に楽しくはなかったが」


「この前の世界は……、言ってみれば勇者召喚の世界とでも言える異世界でしょうか。勇者前島さんが召喚されてそれを勇人様が手助けする。そういう筋書だったのでしょうね」


「だろうな。失敗した今となってはどうしようもないが……」


「最後の思い出は山賊退治でしたか。向こうが私でも感知できない場所から魔法を撃ち込んできたせいで、仲間の一人が死んでしまって……」


「ノーマンさんにはかわいそうな事をした……」


「アレは誰も責めることができない事態でした。そう考えましょう」


「そうだな……」


「さて、白虎。感想は?」


 唐突に俺との会話を打ち切って、白虎さんの方に言葉を投げかける青龍。

 俺も白虎さんの方を見ると、白虎さんは真っ青な顔で口をパクパクとさせていた。


「ば、馬鹿な……。あり得ない。今の会話の全てに嘘がないだと……? い、いや、ゲームの話だ! そうなんだろ? ゲームの話を二人でしてたんだよな?」


「はい、ゲームの話です」


 青龍はニッコリとそう告げる。ってあれ? なんでそこで嘘つくんだ? と思ったが、その効果は覿面だった。白虎さんはテーブルに突っ伏し、そのまま動かなくなった。「ば、ばかな。そこは嘘……だと」とか言いながら動かない。

 あ、そうか。ここであえて嘘つくことで、センスライが正常に働いているということを証明したのか。やるな青龍。


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