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4.東京国際展示場

「勇人様。白虎を発見いたしました。今から捕らえに参りましょう」


 青龍がなんの脈絡もなしにいきなりそう言ったのは、夏休みもお盆に差し掛かったあたりの朝飯時だった。しかも、朝飯の途中で本当にいきなり言ったので思わず俺も面食らってしまった。


「え? 発見した? 今? お前飯食ってたよな?」


「私が飛ばしていた使い魔達が発見いたしました」


 なんか、使い魔がさらに使い魔使うっていいのだろうかってちょっと思った。でも、よく考えたら陪臣って言葉もあるし、不思議はないか。


「さぁ、行きましょう勇人様。丁度よく奴は日本にいます。捕まえる絶好のチャンスです」


「まぁ、待て落ち着け。とりあえず飯を食わせてくれ」


 逸る青龍をなんとか抑える。俺はまだ飯の途中だっての。


「……。まぁどうやら今は一箇所に止まって動く気配はないようですので、大丈夫かもしれませんが──、ぐっ、やられました……!」


「何が?」


「監視していた使い魔が落とされました。落とされる前にリンクは切ったのでこちらのことは気付かれてないとは思いますが」


「なんか穏やかじゃないな。分かったすぐ行こう。場所はわかるか?」


「はい、最後にいた場所は、有明の東京国際展示場です」


「ぶっ! おいおい、そこって……」


 お盆という時期。有明の国際展示場。そして一箇所に止まって動く気配がないと来ている。となると、それはもうアレしかない。


「何かご存知で? そう言えば、やたら人がたくさんいましたが」


「ま、まぁご存知といえばご存知だ。とりあえず、今から行って……、多分間に合うな。終了までには着くか。ともあれ東京となると少々遠い。急ぐぞ青龍」


「はい、お供します」


 しかし、早めに行くとなると飛行機になるな。東京行きは便多いだろうから多分大丈夫だろう。金があるって素晴らしい。



   ※ ※ ※ ※ ※


「ついた……」


 飛行機や電車、バスを乗り継ぐことおよそ4時間。俺たちは東京国際展示場へと来ていた。

 しかし──、


「人多っ!」


 今は昼時だが、尋常じゃない人の多さだった。噂には聞いていたがこれほど人が多いとは。人ごみで妊娠しそうとか聞いたことあるけど、この人の多さを見ればその感想も納得だ。


「こりゃまずいな。この人ごみで目当ての一人だけをどうやって見つける?」


「とりあえず、最後に姿を確認できた場所に行ってみましょう。案内いたします。それと勇人様、」


 青龍はそこから声を絞ると俺に耳打ちしてきた。


「何者かが魔法的な結界を張っているようです。効果は、範囲内の魔力の吸収。吸収量は微々たるものですが、何か敵対的な存在がこの付近にいるのは確実のようです」


「なんか、きな臭くなってきたな。分かったそっちの警戒もする」


 それだけ返事をすると、青龍が先導を開始する。さて、白虎って言ったか。一体どんな奴なのやら。


 青龍の先導でついたのは、一つのサークルだった。壁に張り付くようにスペースが設置してあり、今もたくさんの人が並んでいる。


「壁サークルかぁ。客……じゃなかった、一般参加者だと探すのは絶望的だぞ?」


「いえ、大丈夫です勇人様。見つけました。結界を張ってる犯人も同時に見つけました」


「え?」


 青龍はそれだけ言うと、サークルの向こう側にズカズカと入り込み、スケッチブックに絵を描いてた女の子の元に近寄ると、何かを喋る。スケッチブックに絵を描いてた女の子はそれに顔を上げると、顔面を蒼白にし、持っていたペンを落とす。すぐさま、青龍はその女の子の腕を掴むと引っ張ってきてこちらに歩いてきた。


「勇人様、捕らえました。こいつが白虎です」


「は、離せ! 今スケブ描いてるところだったんだよ! 話なら後で聞くからこっちの都合を優先させろ!」


 何かいろいろ言ってるが、とりあえず青龍の連れてきた白虎とやらをじっくりと見る。身長は140cm半ばぐらいのかなり小さな女の子だ。最初見たときは中学生ぐらいかと思ったが、その主張する大きな胸を見ればその考えも吹き飛ぶだろう。いわゆるトランジスタグラマーって奴だ。顔も童顔で、可愛らしい顔立ちをしているのも彼女の魅力を引き立てる一因になっているだろう。髪の色は青龍と同じ銀髪だが、これカツラだな。多分コスプレしてたんだろうと言うのがわかる。髪の長さ自体はショートカットか。目の色は黄色。これもカラコンか? ともかくそんな特徴の彼女だった。これが白虎? なんかイメージと違うと言うか、と言うかまたしても女かよ。


「あー、青龍とりあえず、離してやれ」


「わかりました」


 不承不承と言った感じだが、腕を離してやる青龍。

 しかし、ただ青龍が命令を聞いて腕を離しただけなのに、その様子を信じられないものを見たかのようにこちらを見てくる白虎さん。


「せ、青龍に言うことを聞かす……だと……!? あ、あんた何者?」


「真宮寺勇人。ただの人間だよ」


「人間? 嘘だ、青龍が人間に従うもんか。ともかく、青龍。今はこっちの都合を優先させてもらうからね。話なら後でちゃんと聞いてやるから、終わるまで待て」


 白虎さんはそれだけ言うと、再びパイプ椅子に座りスケッチブックで絵を描き始める。


「あ、そうそう。話聞いて欲しかったら、ついでに売り子もしていってくれると助かるな! うちのメンバーもそろそろ休憩入りたい頃だろうし!」


 白虎さんがそうわざとらしく大声で言うと、俺たちは瞬時にサークルメンバーと思しき人たちに取り囲まれる。


「助っ人きたーーーー!」


「やっと休憩に入れる!」


「そこの美人のお姉さん。このコスプレしませんか!? 大丈夫あなたなら似合いますよ」


 やいのやいの。凄まじい熱量を持ったオタクたちに取り囲まれ、俺たちはそれを断る術を持たなかった。

 気づいたら、俺と青龍はコスプレをして白虎のサークルの売り子をやる羽目になっていた。最悪だ。

 いや、青龍はまだマシだった。ちゃんと女キャラのコスプレだったから。

 俺なんて男だってのに女キャラのコスプレをさせられたからな! 初コスプレが女装とか死にたい。冬美や白石たちには絶対見せられない光景だ。

 だが、幸いだったのはサークルの在庫もつきかけた状態だったので、売り子をしていた時間がそれほど長くなかったことか。


「いやー、お疲れ。売り子あんがとね、真宮寺くん、だったっけ?」


「そうだよ……」


 時間にしてはそこまで長くなかったのだが、俺は精も根も疲れ果てていた。やはり女装コスプレは精神に凄まじくクル。中世第Ⅶ世界で刺客殺した時より精神的に疲れていた。


「いやはや、助かったよ。ちょっと今日売り子予定の子がこれなくなってねー、デスマ編成で回してたんだよ。マジで助かったから少ないけどお給料も出しちゃうね」


 と言って、お財布から5千円を出してくる白虎さん。って多いな!


「5千円はちょっと多すぎない?」


「二人分だよ。一人分なわけないじゃん」


「それでも多いような……」


 まぁ、くれると言うならありがたくもらっておくが。


「で、話だっけ? ここじゃなんだし。ちょっと別の場所でしようか」


 そう言って、白虎さんの案内で近くのカフェまでやってきた。


「青龍、お願い」


「はい」


 白虎さんがなにも言わずにそれだけ言うと、それだけで青龍は察したのか何かを4つテーブルを囲むように置くと、宿屋の部屋を遮音した時と同じように音を消した。


「さて、これで落ち着いて話が出来るってわけだ、真宮寺勇人君?」


 そう言って、白虎さんは面白い獲物を見つけたと言った感じでにこやかに笑うのだった。


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