2.ブチギレ白石
キーンコーンカーンコーン
終業のチャイムが鳴り学校が終わる。今日は学科最後の授業で明日は終業式、そして夏休みへと入る。夏休みに入ってしまうと奴らを捕まえるのが困難になる。とりあえず俺は真っ先に手芸部に顔を出すことにした。
もちろん、目的はアイツだ。この1か月間思いっきり避けられて、部活に顔を出さないこともあったが、今日は絶対に捕まえる。
「おーい、白石! いるか!」
部室に入るなり大声で叫ぶ。何人かの部員が俺の方に注目するが、そんなのは気にしない。部室を見渡して──、
いた!
俺は早足で白石のもとに近づくと腕を掴む。
「捕まえたぞ。今日は逃さないからな」
「え? え? え?」
なんか、キャーとか黄色い声が周りから聞こえるが無視だ無視。
「とりあえず来い。今日はお前に用がある」
「えっと、真宮寺先輩? ちょっと手を離して欲しいかなーって」
「そしたら、お前また避けるだろ。いいから来い」
有無を言わさず、白石の腕を掴んだまま歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってください! わかりました、ついて行きますから手を話してください。歩きにくいです」
そう言ったので、手を離してやると白石は大人しくついてきた。しばらく歩いて人気のないところまで連れてくる。
「はぁ、こんな人気のないところまで連れてきて何のようですか? 愛の告白でもする気ですか?」
白石は冷たい視線で俺を見る。あー、あの子犬のような可愛い尻尾振りはもう見れないのか、そんな益体もない事を思ってしまう。
「言いたいことは色々あるが一つずつ解決しよう。なぜお前達は俺を避けていた?」
そう言うと、ビクッと体を震わせる白石。
「そう言う真宮寺先輩だって、あれ以降私たちに関わろうとしなかったじゃないですか。その意を汲んでこっちも避けてあげただけですよ」
白石がそう言うが嘘とすぐに分かった。明らかに目を逸らして下を俯いて、言葉の抑揚もどれをとっても嘘ついてるとしか思えない仕草だ。
だが、その言葉自体はこれ以上本当のことを話すつもりはないと言う決意に溢れていた。これ以上聞いても答えてはくれないだろう。
「分かった。じゃあ次だ。これは聞きたいことというか、俺からのお願いなんだが──、この度魔導協会に魔法使いとして登録しようと思ってな、ちょっとお前らに仲介を頼もうか──」
「は?」
言いかけた言葉を途中で遮られる。ただ一音だけの言葉だが、その言葉にいろんなものが詰まっているのが感じられた。その詰まってるもの、怒りの感情が。
白石がずずいっとこちらににじり寄ってきて、顔面を俺の顔に思いっきり近づける。って近い近い。
「はぁ~~~~~!? 登録する!? 今更どの面下げて!? 私たちがなんで先輩を避けてたか知ってるんですか!? 魔導協会に登録したくないっていう先輩に累が及ばないように避けてたんじゃないですか!! それを登録したいから仲介を頼みたいー!? ふざけるのもいい加減にしてくれませんか!?」
ヤバイ、めちゃくちゃ怒ってる。今まで見たことない怒りの表情だ。そして、近い。キスしそうなぐらい近い。
「と、とりあえずその近づけた顔を引っ込めてくれ、心臓に悪い」
「心臓に悪かったのはこっちです。あのトウコツを倒してから魔導協会はてんやわんやなんですよ。先輩のこと下手に話すわけにはいかないし、私たちの実力では到底敵わない相手ですしで、下手したら査問にかけられるところだったんですから! まじで死ぬ一歩手前ぐらいまでいきましたよ! 兄さんと京ちゃんがいなければ私は今頃この世とおさらばですよ!」
「そ、それは……なんというかスマンカッタ。あの、ひょっとして最近学校休みがちだったのは……」
「魔導協会の本部へ出向してたんですよ。今回のことにケリをつける為にね。ま、なんとかギリギリで日本の地を踏めましたが」
それだけ立て続けに言うと、白石はようやく近づけていた顔を引っ込めた。
「で、どう言う風の吹き回しですか。今更登録したいだなんて。て言うか、最初っからそう言ってくれれば私たちも無駄に死ぬような目に合わずに済んだんです」
「いや、本当すまん。魔導協会に登録しないことを軽く見過ぎていた。えっと、登録したい理由だが、ぶっちゃけて言うと師匠の勧めだ。まぁ、登録するなっつったのも師匠だから、ちょっと主体性に欠ける物言いかも知れんが」
「青龍さんでしたっけ? どう言う心変わりなんでしょうか。ま、話は分かりました。とりあえず死にそうな目にあった埋め合わせは今度してもらいますから。兄さんと京ちゃんにも謝っておいてくださいよ。そっちは私と違って優しくないかもしれませんよ」
「分かった、二人にも礼を言っておく」
青葉の方は割とどうにでもなりそうだが、宗玄さんは厳しいだろうなぁ。笑いながら怒るとかやってきそうだ。
「じゃ、早速行きますか」
「行くってどこへ?」
「ここら一体の魔法使いの管理事務所。つまるところ私の家です。登録、するんですよね?」
そういってがしっと俺の腕を掴む白石。その手にはかなり力が入っており、女の力のはずなのに痛い。
あ、あの白石さん。ひょっとしてまだ怒ってらっしゃる?




