1.地球への帰還
「う、うん……」
見覚えのありすぎる天井が見えて、俺は目を覚ます。
すぐさまガバッと身を起こす。いつもの俺の部屋だ。日付は……、進んでない。いや1日だけ進んでるか。でも、それは寝て起きたから進んだのであって、通常の時間経過と言っていいだろう。
「浦島太郎は回避……か。そうだ、青龍!」
俺はすぐに青龍のことを思い出すと、呼晶を取り出し青龍とトウコツを召喚する。
「戻ってこれたのですね……」
「なんだ? 戦闘じゃねーのかよ。ツマンねぇ」
トウコツはそれだけいうとすぐに姿を消す。こいつほんまに戦闘狂だな。
「日付は一日経っただけ。しかし、勇人様はここに来る前に眠りについてましたから、通常の時間経過と言って差し支えないでしょう」
戻るなり俺と同じ結論に達する青龍。やっぱそこ大事なところか。
「しかし、今回の依頼は見事に失敗だ。新しいチートスキルは貰えなかったし、俺個人としても不満だらけの結果だ」
「勇人様。失敗は失敗です。反省することは大事ですが、それにいつまでも引きずられてはいけません。さしあたって今回の反省点というか改善点について考えましょう」
「反省点……。俺が未熟だったから……か」
「いいえ、違います。あれはどうにも出来ないものでした。私にもできなかったことです、勇人様が未術ゆえ失敗したというなら私も未熟ということになります」
俺が自嘲気味にそう呟くが、青龍はバッサリと否定する。
「青龍が未熟とかあり得ないだろ」
「そうですね。その通りです」
そこは少し謙遜するべきじゃねーかなと思うけど、事実だから何も言い返せない。
「今回の反省点、改善点ですが、それは単純な頭数不足です」
「頭数?」
「はい。今回私は勇人様のガードで付きっきりでしたので他の人物に対するガードが出来ていませんでした。そこが今回の大きな失敗要因です」
「でも、頭数って言うんならトウコツの奴もいるし……、いや自分で言っててそれはないな。あいつ常時召喚されたがらないし、ちゃんと命令しないと命令外のことも平気でやりそうだし」
「そうです、トウコツは完全に戦闘要員と考えなければなりません。奴は頭数に入れてはなりません。ですので、常時召喚を許容してくれる誰かを連れてこなければなりません」
「そこまで言うってことは誰か心当たりがあるのか?」
青龍の知り合いか誰かを連れてきてくれるのだろうか。
「……一応何人かに心当たりはあります。ですが、問題は現在彼らがどこにいるのか知らないということです。召喚術で召喚できれば楽なのですが、自分と同格以上の存在は召喚できないのです」
「だったら格を落とした奴らを召喚すれば──」
「そいつらでは要件を満たせません。一応言っておきますが、トウコツはあれでも私と同等の神格の持ち主です。あれより落とすとなると人化もできない獣形態しかない神格しかありません。それではダメです。常時召喚が出来たとしても人間社会にとても溶け込めないでしょう」
その問題があるのか。そういや青龍やトウコツが普通に人間形態取ってるから忘れてたけど、この姿真の姿じゃないんだよな。そこ忘れてた。
「とりあえず、私の昔の伝手を辿って、心当たりを何人か探してみます。さしあたって白虎か玄武を見つけれれば御の字でしょう」
「あれ? 朱雀は? あれも四神だよな?」
俺がそういうと、青龍は今まで見たことのないような凄まじく嫌な顔をする。
「あれはダメです。勇人様が汚れてしまいます」
汚れるってなんだよ。朱雀は一体どんな奴なんだよ。逆に気になるぞおい。
「ま、まぁダメってんなら仕方ない。とりあえず白虎か玄武を探すって方針か?」
「えぇ、私はそのつもりでこれから動きます。ですので勇人様の方は──、そうですね、魔導協会にでも接触して見ますか?」
「あれ? それ乗り気じゃなかったような」
「今なら問題ないでしょう。トウコツ討伐という実績もありますからね。それに以前の特訓の一か月間の間、彼らが一向に勇人様に接触してこなかったのも不気味といえば不気味です。それを解決する為にも、こちらから出向いてしまいましょう」
その件は俺も気になると言えば気になっていた。妖退治のバイトも入ってこなかったし、青葉も全然絡んでこなかったんだよな。
「分かった。じゃあ、青龍は四神を探して、俺は魔導協会に接触するってことで動くことにしよう」
「えぇ、そういうことで。しばらく私は不在にいたしますが、必要な時は呼んでください。世界のどこからでも駆けつけますので」
「今後の方針は決まったな。さしあたっては朝飯だ朝飯」
「勇人様」
そのまま朝飯にと思ったが、不意に青龍に声をかけられ、グイッと引き寄せられる。
「え?」
気がつくと俺は青龍に抱きしめられていた。顔が胸に密着して正直気持ちいい、じゃなくて!
「せ、青龍!?」
「大丈夫ですか……?」
「な、何が?」
「山賊を殺してしまったこと、まだ引きずっているのではないですか」
「──」
そんなこと表に出していたはずはないのだが、と言うかアレからすでに一日経っている、今さらそこを言われても、
「同族殺しは人間の禁忌ともいえる事柄です。そのことで勇人様はお心を痛めてはおりませんか?」
「そんなことは……」
「いいのですよ、ここで吐き出してしまって。ここには誰もいません。いるのは私と勇人様だけです」
青龍は優しそうに、本当に優しそうに俺にそう告げる。あぁ、だめだそんなことを言われると──、
「……」
俺は自然と青龍の背中に手を回していた。そのまま力を込めて抱きしめ返す。
「はい、どうぞ私に甘えてくださいな。辛いことがあったなら私が受け止めて差し上げます」
「っ……!」
そうして、しばらくの間。俺は青龍をずっと抱きしめていた。
「悪い。世話になったな……」
どれくらいそうしていただろうか。俺の心の中のもやもやが晴れたあたりか、ゆっくりと抱きしめていた手を解くと、青龍もそっと抱きしめていた手を解いた。
「いいのですよ、これぐらい。勇人様が辛い思いをしているなら私も辛いのです。私などでその気持ちが晴れるなら安いものです。まぁ、私としてはそのまま激情のまま私を組み伏せるぐらいはして欲しかったところですが」
「おい」
「ふふっ、冗談ですよ。冗談」
「悪いが、お前のそれは冗談に聞こえない」
「で、すっきりいたしましたか? 勇人様」
「あぁ、これ以上ないほどにな」
「勇人様。いずれは勇人様も同族殺しに慣れる時がくるやもしれません。ですが、今感じていた感情を忘れてはいけませんよ。それを忘れてしまっていてはただの殺人者となってしまいます。初心忘るるべからず、ですよ」
「あぁ、分かった」
全く、青龍のやつには敵いそうにないな。




