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23.予定外の失敗

 俺は気がつくと、白い空間に包まれていた。真っ暗から急に真っ白に変わり、天国にでも来たのかと錯覚しそうになる。

 しかし、そこは慣れ親しんだ、と言っていいのか、アドミンがいるあの空間だった。いつも通りのテーブルと椅子、幼女管理者アドミンがいるだけの空間だが、アドミンはいつになくイラついた表情で座っていた。


「何故だ……、なぜあそこで魔法が来た。奴らの中に魔導師などいなかったはずだ。あぁーもう! 何がなんだかわからん!」


 アドミンは俺がいるのにも気付いていないのか、ティーカップを投げ捨て辺りに当たり散らしていた。


「アドミン……。どうして俺はこの空間にいるんだ。もしかして、あれが世界の破滅を救った要因だとか言うんじゃないだろうな?」


「そんな訳ないだろう! 全く逆だ! これであの世界の破滅は確定的になった。あのノーマンとか言う騎士はのちにアンジェリカが王になるときに重要な役目を果たす人物だったんだ! それが何故死んだ! 死ぬはずがないんだ! 君を送り込んだんだから!」


 アドミンはテーブルをだだっ子のようにダンダンと叩き当たり散らす。


「いや、今回は俺の責任だろう。俺がもっと早くに殺す覚悟を決めていれば……」


「正直言うと、そこは君に当たり散らしたいところだけどね。それは関係ないよ。言ったろう、君のなすがままに反したことはしてはいけない、と。あそこは君が思ってた通り非殺傷で散らすのが正解だったんだよ。そう、それが正解だったはずだ。なぜだ、なぜ魔導師がいたんだ」


 俺が気落ちしたように言うと、アドミンが即座に否定してくる。

 しかし、イライラは収まらないのか、ガシガシと髪を掻きむしる。


「だがまぁ、起こってしまったことはもう仕方ない。とりあえず、君をすぐに地球に送還しよう。一つの世界の破滅が確定してしまったのは痛いが、取り返しは効くレベルだ。次の任務まで大人しく鍛錬するなりなんなりして地球で待っていて欲しい」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。このまま地球に送り返すってのか? それは待ってくれ!」


 いきなり告げられた地球への送還に俺は待ったをかける。


「何? 言っとくけど、これから先君がいくら努力しようがあの世界の破滅を防ぐのは無理だよ。これ以上は君の自己満足にしかならない」


「いや、それはいい。いやよくないが、仕方ないと割り切ろう。そうじゃなくて、一人気にかかる人がいるんだ。その娘を地球に送り返してやるわけにはいかないか?」


 そう、問題は前島さんだ。アンジェ王女達は言っちゃあ悪いが、あの世界の住人でそれほど守ってやろうと言う気はない。いや、できる範囲でならもちろん全力で守ってやろうとは思ってるが、前島さんと比較するとそれはどうしても一段落ちる。

 前島さんは俺があの世界で初めて出会った人間で同じ地球人、日本人だ。地球に帰りたがっていた前島さんをなんとかしてあげたい。そう思うのだが──、


「悪いがそれは無理だ。前にも言ったろう。今の私では下位世界の存在に干渉できない、と。直接干渉できるのは君だけだ」


 アドミンから返ってきたのは冷淡な答えだった。いや、分かってはいた。アドミンでは前島さんを送り返すことはできない、と。それでもどうしても聞かざるを得なかったのだ。


「ただ……、手がない訳でもない」


「あるのか!? どんな手だ!?」


「君だ。君がどうにかすればいい。君が今後なんらかの要因で次元を単独で渡る力を身に付けることができれば。それを使って彼女を救うことが可能だ」


 次元を渡る力、か。生憎古代魔法にもそう言う魔法はない。テレポートという魔法はあるが、あれは同次元上での移動だけだ。次元を超える能力がある訳じゃない。


「じゃあ、その次元を渡るチートをくれ。それなら間接的に救うことができるだろう?」


「悪いがそれはできない……。一度の世界を救うたびに一つの能力、が今回のルールだ。それをねじ曲げてしまうと、ここにどんな影響が出るかわからない。正直、君の使い魔に次元を渡らせる水晶も渡したのも正直ギリギリだったんだ。これ以上追加で何かすることはできない」


 アドミンは絞り出すようにそう告げる。でも、それなら──、


「じゃあ、次に別の世界を救えばそのチート能力を授けてくれるんだな?」


「それならば可能だ」


「よし!」


 ならば、がぜんやる気が起きてくるというものである。滅びゆく世界に同胞を置いてくのはどうにも忍びないからな。できればアンジェ王女達も回収したい思いはあるが、あの人たちは地球に生活基盤ないし、俺が面倒見るのも難しいしで正直無理筋だ。彼女らも滅ぶなら世界もろとも運命を共にすると言うかもしれないし。よって、彼女達は二の次だ。


「納得してくれたかな。じゃあ、地球に送りかえそう。目を閉じて」


「あ、待ってくれ。その前に別れだけ済ませることはできないか?」


「別れか……。その感傷は私にはイマイチ分からないが、いいだろう。1日だけ待つ。一日経ったら強制的に地球に帰還だ。それでもいいならもう一度中世Ⅶ型世界に戻そう」


「感謝する」


「それじゃ、目覚めるといい。おはよう真宮寺勇人君」


 アドミンのその言葉とともに俺の意識は急速に覚醒していった。


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