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19.メテオストライク

「うーん、こっからじゃよく見えんな」


 スタンピードが来たというから目を凝らすが何か影のようなものが見えるだけで、まだはっきりと視認できない。夕暮れ時というのもあるが、この場合は純粋に距離の問題だろう。


「勇人様、こういう時有用な魔法がありますよ」


 青龍はそう言いながらも教えてはくれない。自分で脳内検索しろということか。

 えーと、この場合はなんだ? フィジカルエンチャントで視力増強か? 確かにそれでも行けるが、地平線の向こうとかだと見えないしな。とすると使う魔法は、


「『ファーサイト』」


 視線を遥か彼方に飛ばす魔法だ。地平線の丸みも障害物も何のその。思っていた場所に視線を飛ばし、スタンピードの様子を見る。


「うわ、こりゃすごいな」


 ゴブリンやオーガ、推定オークみたいなモンスターが大挙して進軍してきている。そして見たことないモンスターも一杯いる。中でも空を飛んでいるモンスターの率がかなり多い。これはまともに相手していたら街の被害は半端ないことになるな。

 しかし、見た感じドラゴンはいないようだ。ドラゴンスレイヤーになれたかもしれないのに残念だ。


「え? 見えてるの?」


 隣にいる前島さんが、手のひらを目の上にかざして見ているが、何も見えていないようで俺に聞いてくる。


「そういう魔法を使ったからな。取りあえず、空を飛んでいるモンスターの比率がかなり多い。まともに相手したら街は壊滅するぞ」


 俺がそう警告すると、身を硬くする王女一行。


「ま、まともに相手したらだけどな」


 そう言って、俺はファーサイトの効果を切る。


「青龍。タイミングはいつがいいと思う?」


「騎士団が巻き込まれると後々厄介ですので、騎士団と接敵する前にカタを付けたいですね。しかしながら、あまり遠くでカタをつけてしまうと今後は活躍が正しく評価されません。なので、丁度良いタイミングをこちらで指示しますので、そのタイミングでお願いします」


「オッケー。頼むぞ青龍」


 そういうと俺は、指にはめていた発動体をしまうと、鞄経由でアイテムボックスから魔法の杖を取り出す。別に魔法を発動するだけなら指輪の方でよかったのだが、こういうのは見た目が重要だ。無手の人間が魔法を打つより、魔法の杖を使って魔法を打ったほうが周りに与える印象が違う。


「あ、あのハヤト様? ハヤト様は勇者様ではないのですか?」


 アンジェ王女は魔法の杖を取り出した俺に疑問を感じたのか、そう尋ねてくる。まぁ、勇者はこんないかにもな魔法の杖は使わないよな。


「俺は勇者じゃないって何度も言ってたはずだがな? ただの勇者の知り合いのしがない魔法使いだよ」


 俺がそういうと、アンジェ王女は押し黙る。そして、前島さんの方をじっと見やる。そうそう、本物の勇者は前島さんだぜ。俺はただの付き添い。


「勇人様。そろそろ準備を」


 青龍がそういうので、俺は魔法の杖を持ち、冒険者たちの一番前へ出る。


「さーて、いっちょやりますか」


 魔法を唱えるのに特に気合を入れる必要はないのだが、気合を入れて魔法の杖を掲げる。

 ちなみにこの魔法の杖、純粋な地球製で発動体としての力はあるが、別に魔力増幅とかの効果があるような杖ではない。言ってしまえば初心者用の杖だ。それでも、第十位階の魔法は問題なく使うことはできる。

 そうやって気合を入れてると、そろそろ肉眼でもスタンピードの様子が確認できるようになってきた。おーおー、飛行モンスターの多いこと。周りの冒険者たちがザワザワしているのが伝わる。


「勇人様、今です。どうぞ遠慮なくおやりください」


 青龍からの指示が来る。俺はそれを聞くと大音量で魔法を発動する。


「『メテオストライク』」


 杖を大袈裟に掲げ、俺がやったとわかりやすいような演出もする。少々恥ずかしいが、後で功績がカウントされないとこっちも困るからな。

 俺が魔法を発動すると、かなりゴッソリと魔力が抜ける感覚があった。だが、その甲斐あって効果はすぐさま発揮された。

 上空から数多の隕石が降り注ぐ。それは俺が習得の時に発動したこぶし大の隕石などではなく、確かな質量を持った巨大な隕石だ。数えるのもバカらしいほどの大量の隕石が次々とモンスターたちを押しつぶし蹂躙する。


「うひょー。流石最高位階魔法。威力が尋常じゃないな」


 俺はその威力過多とも言える、メテオストライクに若干興奮してテンションが上がってた。大規模魔法はやっぱりロマンだな。

 隕石の落下はしばらく続いていたが、モンスターをあらかた蹂躙し終えると、隕石の落下がストップした。モンスターも若干残っていたが、もはや残党と呼ぶのもおこがましいほどの量だ。騎士団で問題なく討伐できるだろう。


「あとは騎士団と冒険者に任せれば問題ないかな。俺はお役御免だ」


 そう言って振り返ると、青龍以外のワンダラーズのメンバーや、他の冒険者たちが一様にドン引きしていた。


「「「「「「………………」」」」」」


「勇人様、見事なお手並です」


 そんな中空気を読まず、青龍が俺を称える。称えるのは良いが、ちょっと空気を読もうか青龍さん。


「ち、地形が変わる攻撃とはこういうことだったのですね……」


 アンジェ王女は穴ぼこだらけになった街道を見ながらツーっと汗を一筋垂らす。


「チ、チートすぎでしょ……。その力の一片でも私にくれたら」


 前島さんは前島さんでこちらをチート呼ばわりだ。まぁ、人間の限界超えた位階の魔法だからな、チートと言えばチートか。本当のチートはオールラーニングの方だけどな。


「で、こっからどうする?」


「とりあえずは、ここで待機でよろしいかと。残党狩りに加わってしまっては他の冒険者たちの活躍の場を取ってしまいますから」


「俺も同じ考えだ。あ、前島さんやアンジェたちは参加しても良いんじゃないか? 俺だけ活躍となると金魚の糞扱いされかねないしな」


 俺がそう言うと、前島さんやアンジェ達は外壁の下へと降りて行った。残党狩りに参加するんだろう。

 ていうか、メテオストライク現場が割とスプラッターなんだが、前島さんは大丈夫か?

 程なくして、騎士団や冒険者達によってモンスター達は掃討し尽くされたことを付け加えておく。


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