17.カバーストーリー
「なるほど、サクラさんは見聞を広める為に旅をしているのですね」
「えぇ。最初は言葉も通じず大変で、路銀も尽きそうになったときに真宮寺さんに拾われまして……」
夕食の場で、前島さんとアンジェリカ王女の会話が弾む。
前島さんが神威の出身というのは、一度そう認めてしまった為に撤回するのが難しい。なので、カバーストーリーとしては見聞を広める為に旅に出たが、途中で路銀が尽きて俺に回収されたというストーリーにした。とりあえず今は路銀を稼ぐ為にともに行動をしているという設定だ。
一応その設定に真実味を持たせる為に、前島さんには金貨1枚を渡してある。自由に使えるお小遣いとしてだが。
でも、お小遣いで金貨1枚ってすげー高いよな。市井の値段見る限り、銅貨が100円ぐらいなので、金貨は100万円ってことになる。地球だと札束ポンと渡すようなもんだ。前島さん身持ち崩さないかな大丈夫かな。
「ところで聴きたかったんだけど、アンジェリカさんはなんで実家に帰らないんだ? 何事もなかったかのように「無事でした」って帰還しちゃダメなのか?」
とりあえず王宮とは言わずに実家とボカして言う。こんな周りの耳があるところで王女とバレると面倒だからな。
「アンジェとお呼びください、ハヤト様。実家にこのまま帰っても殺されるだけですので。仮に殺されなくても、護衛を五人も失いました。その責を取らされるのは確実です。ではどうするか。私に出来ることは、その失態を取り戻せるほどの功績を挙げることです」
そう言ってこちらに微笑む王女様。
功績、功績ねぇ。それっていわゆるあれか、勇者が魔王倒して世界平和って奴か。俺は勇者じゃないんだがなぁ、そういうのは前島さんの仕事。
だが俺は前島さんを支援すると決めたから結局はそういうことになるのか?
そういえば、前島さんを召喚した国は前島さん曰く、都合のいい戦力が欲しかっただけって話だが、具体的にどういうつもりで前島さんを召喚したんだろうか。いきなり奴隷にしようとするってことは、隣国との戦争にでも使う気か? 魔王との戦いってわけではなさそう。
って、隣国ってこの国じゃねーか。他にも隣国あるかも知れないけど、ひょっとしてこの国と戦争する為じゃないだろうな。そうすると功績を挙げるってなると、勇者召喚した国との戦争になるわけだが、そのつもりかこの王女様。
「功績ねぇ。俺に付いてきてもそんなもの挙げられるとは思えないが。俺はしばらく冒険者して日銭を稼ぐつもりなんでな。あと元の世界に戻る方法探し」
後者は俺じゃなくて、前島さんの目標だが俺が言っても違和感はないだろう。
「あら、ご謙遜を。今回のスタンピード退治に参加されるおつもりなのでしょう?」
「つもりというか、巻き込まれたというか……」
飯を食いながら嘆息する。
まぁ、自分で言うのもなんだが俺の性格上こう言うのは放っておけないので、世界の滅びを回避する為には参加は必須になるのだが。
「しかし、私たちはスタンピードに関しては詳しくないのですが、具体的にどう言う現象なのでしょうか? モンスターが徒党を組んで襲ってくると言うだけなのでしょうか? 過去に都市が滅んだとかそう言うことがあったりしたのでしょうか?」
横では青龍が王女達に質問していた。それは俺も気になるが、冒険者ギルドで聞いたほうが早い気がするな。
「まず言っておくとスタンピードはそんなに頻繁に起きるものではない。以前起こったのはもう30年以上前だ。私も生まれていない。だから伝聞でしかないが、その時は一つの街が壊滅寸前まで追い詰められた。冒険者、騎士、傭兵、近衛兵、ほぼ総戦力で対応してその被害だ」
青龍の質問にノーマンさんが答える。総力戦で壊滅寸前ってすごいな。モンスターにそこまでの力があるとは思えないんだが。
「でも、オーガとかゴブリンとかが一杯来るだけなんだろ? 確かに数は力だが、それで街一つが壊滅寸前になるとは思えないんだが」
俺が疑問を呈すと再びノーマンさんが答えてくれる。
「確かに、オーガやゴブリンだけなら被害は出るだろうが壊滅にまでは至らないだろう。スタンピードの恐ろしいところは統率種と呼ばれるモンスターが出てくることにある」
「統率種?」
前島さんが会話に参加してきて疑問を投げかける。
「あぁ、オーガキングだったり、ゴブリンキングだったり。出てくるのはスタンピードによって変わるらしいが、モンスターを束ねる指揮官といえばいいのか。そいつが居ると、配下のモンスターは信じられないほど強力になると言う」
なるほど、いわゆる指揮補正みたいなのが載るわけか。
「じゃあ統率種ってやつを倒してしまえば、あとは烏合の衆ってわけか?」
「理屈の上ではそうなる。だが、統率種を倒せた例は数えるほどしか無い。それに、どの個体が統率種かわかりやすい目印があるわけでもないからな。統率種への斬首戦術は現実的とは言い難い」
ふむふむ。青龍を突貫させて統率種を倒せば楽かと思ったが現実にはそう上手くいかないらしい。
「それに先ほど言った30年以上前のスタンピードにはドラゴンも出てきたと言う。オーガやゴブリンだけではないのだ」
「ドラゴン……、ドラゴンか」
そう言ってうなる俺。よくよく考えれば東洋西洋の違いはあれども、青龍もドラゴンだよな? 青龍の強さを基準と考えるとドラゴンとか出てこられたら対処のしようがないように思うが。
「勇人様ご安心を。空飛ぶトカゲ風情、私が処分してご覧に入れます」
そう言ってにこやかに微笑む青龍さん。いや、空飛ぶトカゲって……。自分が東洋の龍でトカゲとは違うビジュアルだからって、その表現はどうかと思う。
「あの、セイリュウさん。ドラゴンはそんなに簡単に倒せる存在では」
アンジェ王女がおずおずと青龍に指摘するが青龍は意に介した様子もなく答える。
「そもそも単体なら勇人様でも楽勝で対処できるような存在です。たとえ複数で襲い掛かろうが私にかかれば造作もありません。まぁ、この辺りの地形は変わってしまうかもしれませんが」
楽勝でとは言うが、それ俺が全力出すことが前提だよな?
この世界のドラゴンの強さは知らないが、おそらくは第十位階のメテオストライクとかデスグラスプを使えば倒せるとは思う。思うが、使ったら魔力を半分も消費するのだが。それ以降は対処できるかわからんくなるぞ。
そういや、青龍は俺経由で魔力補充できるから実質魔力量無限なんだよな。メテオストライク打ち放題とか怖いんだけど。
「ち、地形が変わるですか……。できれば街道は維持していただきたいのですが」
「相手の数次第ですね」
アンジェ王女の言葉に涼しい声で答える青龍。あ、考慮する気さらさらないなこれ。俺が言えば被害抑えて戦うだろうけど、俺もスタンピードになったら広範囲攻撃を使うつもりだから、青龍にだけ縛りプレイを強要するのもな。
「と、ところでスタンピードの前兆があったって話だけど、具体的にどれくらいでスタンピードって始まるものなのかしら?」
前島さんが話を変えようと、新たな質問を投げかける。
「それは私には分からない。まずは周辺の魔物の状況の調査から始まるだろう。それを見てスタンピードの前兆との確信が持てれば街の防備を固めると言ったところか」
なるほど。まぁ、俺たちの報告だけでスタンピードとは決め付けられないからな。
「とすると、スタンピードが始まるまで少しは余裕があるってことか?」
「それも分からない。今すぐにでも始まる可能性も──」
カンカンカンカンカン!!
突如町中に鐘の音が鳴り響いた。
あ、これはスタンピード始まったな。俺の中の冷静な部分がそう告げていた。
「ス、スタンピードだーーーー!!」
ほらな。




