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16.ナイショ話

 チンピラの治療をした後、その足でチンピラ達が止まってる宿に泊まることにした。

 まぁ、いちいち宿を探すのが面倒だったのもあるが、部屋の中やロビーの様子を見て、割と雰囲気がよかったのも選んだ一つの理由だ。


「宿泊したいんだが、部屋は空いてるか?」


「はい、空いております。部屋はどのように取られますか?」


 宿の主人の娘さんなのか、小学生高学年ぐらいの女の子がカウンターで受付をしている。バンダナ? でいいのか、それを頭に巻いてエプロンをして、いかにも宿屋の従業員ですって感じの格好をしている。


「部屋は……そうだな、二人部屋一つに四人部屋一つで──」


「いえ、二人部屋一つ、一人部屋一つ、三人部屋一つでお願いします」


 取りあえず男女で分けようかと思ったが、青龍が横から訂正を加える。


「え? 青龍?」


 いきなり部屋割りを決めた青龍に振り返って尋ねる。


「私と勇人様が同室で泊まりますので、後は男女で分けてください。あ、前島さんはどうされます? 一人がいいなら一人部屋を取りますが?」


「ど、同室……。従者だからってそれはないんじゃない? まぁ、あんたらは勝手にすれば。私はアンジェ達と一緒で別にいいわよ」


 なんかいきなり同室とか言い出したぞ青龍の奴。どういうつもりだ? ていうか、青龍は姿消せるから別に一人部屋でもいいのでは。と思ったが、。対外的には二人部屋の必要あるか。


「つまり、ノーマンが一人部屋ということですか? 私はそれで構いませんが、宿代が余計にかかるのではありませんか?」


 王女様がそう指摘してくる。王女様なのに宿代とか気にするんだな。そんな下世話なこと頭にないかと思ってた。


「構いません。そっちの方が“安全”ですので」


 青龍“安全”を強調する。その言葉に流石にノーマンさんもムッとなる。


「この際だからぶっちゃけ言わせていただきます他、勇人様はあなた方を信頼なさってるようですが、従者の私としてはあなた方のことは信頼できません。ゴニョゴニョと言った件についてもあなた方の証言だけですし、勇人様を狙った刺客の可能性もありますので」


 流石に宿屋の従業員の前で王女というのは隠すか。あれ? 王女なのは確信してるって前言ってなかったか?

 あぁ、でもそれは魔法で嘘発見したからか。それがなかったら分からないのは当然だから、疑うのが俺らのストーリーとしては正しいのか。

 でも、その正しいストーリーを展開して青龍はどうするつもりだ? 無駄に不和の種を蒔くだけじゃないのか?

 そして、刺客と言った時点で前島さんがビクッと反応する。そうだよな。前島さんの視点から見たら、国からきた暗殺者って可能性もあるもんな。

 まぁ、冷静に考えて暗殺者があんなところでオーガと戦ってないだろうが。

 でも、前島さん情緒不安定だしなー。この不安な状況だと暗殺者って可能性を信じちゃうかもしれん。


「あ、あの……。私もそっちと一緒で三人部屋でいい?」


 前島さんはだいぶ葛藤があったようだが、命には代えられないと思ったのか俺と同室を提案してきた。ここでそういう提案をするということは、自分もアンジェ王女達を疑っていますと宣言するに等しいのだが、前島さんはそれでいいのだろうか。まぁ、それも命には代えられないと思ったからこそか。

 しかし、別に何をするわけでもないが、女子と同室というだけで正直ドキドキする。


「では、私とアンナで二人部屋。ノーマンが一人部屋ということですね」


 しかし、アンジェ王女は特に気にした風もなくにこやかに告げる。随分と人ができてるな。ここまで疑われたら少しは感情を見せるの普通なのに。それとも、王族だから無駄な感情が出ないような訓練でも受けてるのかな。


「えぇ、ではそういうことで」


 青龍が代表して宿の女の子にそう声をかける。


「はい、でしたら、一泊合計で銀貨2枚となります。朝の食事は宿泊代に含まれておりますが、追加で一人銅貨5枚で夜の食事も付きますが如何されますがか?」


「じゃあ、食事付きで取りあえず一泊。銀貨2枚に、大銅貨3枚だな」


 そう言って、大銀貨を1枚出す。


「計算お早いですね。えーっとおつりが……」


 そう言って、女の子はカウンターの横にある何か木でできた棒を操作しだす。これなんていうんだっけ? 確か算木だっけ? 木を組み合わせて計算するやつ。

 まぁ、結果は暗算で銀貨7枚に大銅貨7枚なんだが指摘するのは野暮だろう。


「はい、おつりは銀貨7枚に大銅貨7枚になります。こちらが部屋の鍵になります。チェックアウトは翌朝の昼の鐘までとなっております。それ以上となるともう一泊の料金をいただきますのでご了承ください。なお、部屋のお湯は1回目は無料ですが、2回目以降は有料となっております」


 お湯ってなんだ? と思ったが、そうだここは中世風異世界。風呂なんて当然なくて、お湯で体を拭くぐらいしか出来ないのか。日本人としては毎日風呂に入りたいんだが、贅沢は言ってられないか。

 夕食の時間になったら下に集まる約束をして、俺たちはそれぞれの部屋に入った。

 そして、部屋に入るなり青龍が部屋の4隅それぞれに何かを置いた。その後部屋の真ん中に来て一言。


「オン」


 言った瞬間音が消えた。いや違う、正確には外の喧騒が聞こえなくなった。部屋の中の青龍が歩く音は変わらず聞こえる。


「静音結界を張りました。ここでいくら騒いでも音は外に漏れません。存分に内緒話をしましょう」


「それって私も助けを求められないってことなんだけど……」


 前島さんがそう文句を言うが、


「今更それを言うのか? 向こうと比較してこっちの方が安全だと思ったから三人部屋を希望したんだろ?」


「いやまぁ、それはそうなんだけど……」


 まだ文句がありそうな前島さん。


「では、気を取り直してナイショ話と行きましょうか。まず前島さんに言っておきますが、あの王女一行は本物です。少なくとも、自分が王女であることを心の底から信じ切っております」


「え? じゃあなんであんな疑うようなこと言ったの?」


 前島さんは青龍の確信した理由に関して突っ込む気はないみたいだ。まぁ、ツッコまれても別に不具合があるわけじゃないが。


「その方が自然だからですよ。いきなり王女と言ってきてその証明もしてないのに、それを信じますかって話です。まぁ、証明されたところで、今度はその証明が正しいか私たちには分からないですけどね。王家の紋章とか見せられてもちんぷんかんぷんですし」


「ま、まぁそれは確かに……」


「それに、こっちに疑われていると言う危機感を植え付ける意味でもああせざるをえませんでした。その程度の危機感も持ってないようなお花畑連中を介護するほど勇人様は暇ではありませんので」


 なんか俺の心情を勝手に代弁されてる件。まぁ、俺としてはそれで別に問題ないんだが。


「ああやって危機感を植え付けることで、向こうはこちらに信頼されようと行動してくるでしょう。それが吉と出るか凶と出るかはまだ分かりませんが、少なくとも私たちにおんぶにだっこの状態は避けることができます」


「な、なるほど……」


 前島さんが感心したように青龍を見る。


「で、今後どうするよ? 一応場の流れでパーティーには入れたけどさ。よくよく考えると相手にことはこっちも何も知らない訳だしな。だが、互いに詳細な自己紹介をすると困ったことになるしな」


「なんで?」


 前島さんが疑問を浮かべるが、


「しっかりしてくれよ前島さん。困るのは俺たちじゃなくて君。勇者ってことを説明する気か? 折角俺と言うスケープゴートができたのにどう説明する気だ?」


「う……」


 俺にそう言われてようやく気づいたのか、まずいといった表情を浮かべる前島さん。


「それに聞きたかったんだが鑑定無効ってのはどう言うことだ? 俺にステータスのこと話したときには言ってなかったよな。まぁ、あの時点では俺のことも信頼できてないだろうから仕方ないけどさ。大事なことはちゃんと言ってくれないと困るぞ」


「ち、違うの。それは隠してたわけじゃなくて……、いやある意味隠してたのかもだけど。と、とにかく私はスキルとしてもギフトとしても鑑定無効なんて持ってないの。確かにまだ隠してることも言ってないこともあるけど、それだけは確かよ」


 その前島さんの必死な表情を見ると取りあえず嘘はなさそうだが。しまったな、こう言うときにセンスライを使えばよかったか。

 いやでも、俺だとバレずにかけるって芸当が無理そうだし、何よりバレたら今までの信頼関係が一気に崩れる。やるべきではないな。


「となると、勇者特性とかか? でも勇者特性だとすると鑑定が弾かれたって時点で勇者ってバレるよな。とすると、まだ話していないスキルが複合スキルでその中に鑑定無効も含まれるって考えるべきか」


「複合スキル……、あっ」


 前島さんが何かに気付いたかのような表情を浮かべる。その表情に嘆息しながら答える。


「心当たりがあるようだな」


「あ、うん。多分これだってのがあった。でも、こんなに気づかないわよ。まさか鑑定まで防ぐなんて……。あれ? でもなんでステータスは見れたんだろ」


「ステータスシートまで弾いたら何も分からないからじゃないか? ともあれ便利なスキルのようで羨ましい限りだ」


 皮肉も込めて前島さんにそう返す。


「で、話を戻すが、困ったことになるとは言え、お互い詳細な自己紹介は必須とも言えるだろう。そこでカバーストーリーを考えようと言う話だ」


 俺がそう提案し、前島さんとともにカバーストーリを考える。


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