15.ディスペルマジック
予約投稿ミスってました.すいません
「では、こちらがDランクのギルドカードとなります」
ギルドマスターとの会話が終わった後、カウンターですぐさま新しいギルドカードが発行された。以前ギルドカード発行するときは時間かかってたのに、今回すぐできたってことは会話中にすでに作ってたな。
取りあえず、これで俺たちはDランクになったわけだが、王女達はどうすればいいんだろ? 同じように登録すればいいのいか?
「そして、こちらが討伐の報酬になります。ゴブリンで大銅貨52枚、ホブゴブリンで大銅貨40枚、ゴブリンシャーマンで銀貨12枚、オーガで金貨10枚。
合計大銅貨2枚、銀貨1枚、大銀貨2枚に、金貨10枚となります。ご確認ください」
なんか、オーガだけやたら高いな。そして、塩売った時のと合わせると貨幣価値もだいぶわかってきた。
銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨の順番で10枚ずつで繰り上がるのだろう。
しかし、そう考えるとあの塩の売買はかなり高かったんだなと思い知らされる。
向こうも商人だから相場より安めで買い取ったのだろうけど、それを考えてもオーガ討伐の半値ってどう考えても高すぎである。適正価格はいくらだったんだろう。
取りあえず、報酬を受け取ると王女達に向き直って声をかける。
「で、俺たちは多分スタンピードの対処をすると思うんだが、おう……アンジェさんたちはどうする?」
「無論、お供いたします。ハヤト様の助けになりたいことも勿論ですが、何よりこの国のものとしてこの街がモンスターに蹂躙されるのをよしと致しません」
王女様は何かを決意したかのような表情で恭しく答える。その王女様の態度を見て従者二人もうなずく。
ていうか、ノーマンさんはともかく、アンナリーナさんは戦えるのか? どう見てもただのメイドにしか見えないんだが。
「あのー、あたしは遠慮したい……って訳にもいかないよね、うん分かってる」
その後ろで消極的に反対を唱えるのは前島さんだ。
おい、勇者しっかりしろ。こういう時に先陣を切るのが勇者だろうが。明らかなメイドであるアンナリーナさんですら戦う決意を決めているというのに。
とはいえ、そう言えるわけもないので心の中でだけ思っておく。
「じゃあ、ここで冒険者登録していくか。後ろの二人もそれでいいか?」
「冒険者ですか。ふふっ、実は少し憧れていたのです」
王女さんは楽しそうに登録をしていたが、他の二人はあまり楽しそうじゃなさそうだ。まぁ、貴族で地位のあった二人が冒険者になるわけだからな。そりゃ思うところはあるか。とはいえ、王女の前で言葉に出すのは憚られるのか黙って登録をしていたが。
えーっと、登録内容は王女の名前はアンジェだけか。流石にそこで本名を書かないだけの分別はあるらしい。他二人も、ノーマン、アンナリーナとだけ記入していた。気になったのが、アンナリーナさんの使用武器のところにサポーターと書いていたところだ。それ使用武器じゃなくてポジションでは? まぁ、ともかくアンナリーナさんは戦闘には参加する気はないということか。
そして、三人とも登録が完了したが、三人は登録したてなのでFランクのままだ。
「じゃあ、三人ともうちのパーティーに登録するってことでいいか?」
「はい、そのようにお願いします」
「じゃ、この三人をワンダラーズに登録でお願い」
受付嬢にそうお願いして、登録が完了する。何か特殊なことをするわけではなく、ただギルドの台帳に記入するだけらしいから登録は一瞬で終わったが。
「さて、じゃあ金も入ったしまずは宿を探すか」
とはいえ、この大所帯である。泊まれる宿を探すのが大変である。王女様だしあんまり安宿にも泊めれないしな。
何かギルドでおすすめの宿がないか受付嬢に聞いてみたが、利益供与にあたるため特定の宿を勧めることはできませんと言われてしまった。なんか政治家みたいだな。
しかし、そうなると泊まる場所に困る。前島さんはおろか俺らもこの街は初めてだし、王女様三人もこの街には詳しくないだろうし。
「じゃあ、宿場町っていうか、宿屋が集中してる場所だけ教えてくれないか?」
「でしたら、街のこの辺りになります。宿が多く、多くの冒険者がそこで宿をとっています」
地図を出しながら受付嬢が説明してくれる。こういう聞き方ならオッケーらしい。特定の宿を紹介するわけじゃないからだろうが。
「よし、じゃあ行くぞ」
「み、見つけた! おい、お前きてくれ!」
俺が号令をかけて宿に向かおうとしたら、たった今ギルドに入ってきた男に指を指された。誰だ? なんかどっかで見たことある顔だが。
「いや、あんた誰?」
「勇人様。登録した時に絡んできた冒険者の一人ですよ」
「あぁ、あの時のチンピラB」
青龍にそう指摘されて思い出した。そうだ、青龍が素手でボッコボコにのしたチンピラBだ。確かそうだ。
「だ、誰がチンピラBだ! ってそんなこと言ってる場合じゃない。頼む来てくれたら! ジョニーの奴がいくら時間が経っても動かないんだ! あれ、お前がやったんだろ? 絡んだことは謝るから治してやってくれ!」
ジョニー? 誰だ? ってまた言おうとしたが、そういえばこのチンピラ二人組だったな。とすると、ジョニーってのは前島さんにちょっかいかけようとして、俺にパラライズをかけられたチンピラAのことか。
「あぁ、あれだったら丸一日もあれば元に戻るぞ。心配する必要はない」
持続時間最強とはいえ、持つのは最大で24時間である。まぁ、そのまま麻痺状態だと垂れ流しとかあったりで割とひどいことになりそうだが。
「そんな意地悪言わずに治してくれよ! 頼む、金が必要なら払うから!」
「いや、意地悪行ったわけじゃなくてだな。本当に24時間で治るんだよ。だから本当に心配する必要は──」
「この通り! この通り謝るから、ジョニーを治してやってくれ! 頼む!」
そしてチンピラBは土下座をしてきた。土下座である。ジャパニーズ謝罪スタイルの中でも最上級のあれである。
「ちょ、ちょっと待て。だから本当に放っておけば治るんだってば、わざわざ治さなくても……、あぁ、もう! 分かったよやればいいんだろ! 案内しろ」
「助かる! こっちだ」
そう言って先導するチンピラB。そういやこいつの名前知らないな。しかし、チンピラBが土下座してからというものの、アンナリーナさんの視線が痛い。というか、ロクに会話してないからどういう人かも分からないんだよな。こっちのことはどう思ってるのやら。
チンピラBの先導で奴らが泊まってるとおぼしき宿に着く。宿自体はちょっとアンティークっぽいビジネスホテルって感じか。全体的に装飾が古臭いというか、場末の宿というか。、だが雰囲気は悪くないと思う。今夜の宿はここにしてもいいかもな。
そんなことを考えてると、チンピラ達の部屋にたどり着く。
「ここだ」
そう言われ案内された部屋へと入る。そこにいたのは、前島さんを掴んだ時の格好のままベッドに寝かされているチンピラAだった。
うん、しっかりパラライズが効いてるな。じゃなくて──、
「じゃあ、治すぞ。『ディスペルマジック』」
第二位階の魔法効果を除去する魔法を唱える。
本来ならかけた術者との魔力による対抗が必要だが、かけたのは自分なのであっさりと除去できた。
チンピラAが一瞬ビクッとすると、腕や足がゆっくりと動き出す。全く魔力の無駄遣いさせられた。効果時間1時間とかにしとけばよかった。
「お、おおぉぉぉ! 動く! 体が動くぞ!」
チンピラAが歓喜の声を上げる。
「ジョニー! やった、よかった! すまない、助かった!」
「何度も言ったけど、24時間経てば勝手に効果切れるんだよ。わざわざ呼びつけて全く。これでもういいだろ?」
「あぁ、助かった! あのときは絡んで悪かった」
チンピラA改めジョニーが俺に謝罪してくる。
「まぁ、なんだ。こっちもやりすぎた感はあったな。こっちこそすまなかった」
最初こそイラッとしたが、よくよく考えると青龍がボコボコにしたり、麻痺魔法で完全硬直させたりとこっちも割とエグいことをやってたのに気づき、こちら側からも謝罪をする。
まぁ、これでお互いに謝罪してオールオッケーだな。




