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13.帰り道

 騎士達を弔ったあと、俺たちを先頭に街への道を歩いていた。俺と青龍が先頭、前島さん、アンナさん、アンジェリカ王女が真ん中、ノーマンさんが最後尾という陣形だ。

 本当なら、俺と前島さんが先頭で、青龍がしんがりの方がいいのだが、青龍とは色々と話したこともあったのでこの陣形をとった。

 とりあえず話したいことは、


「なぁ、青龍。妙にオーガに苦戦してたけど、オーガってそんなに強かったのか?」


 これである。オーガって確かに強力な魔物に入るけど、ドラゴンとかそこらへんの頂点に比べたらせいぜい中堅どころって感じだ。そんな存在に苦戦するんだったら、今後安全マージンについて考えなければならない。

 青龍に頼りっきりで情けないとは自分でも思うが、青龍が勝てない相手とかでたら間違いなく死ぬからな。今からでも、青龍の強さをしっかり確認しておかないと。


「いえ、別に強さは大したことありませんでしたね。スピードもパワーもお粗末。食らったとしても私に痛打を与えることはできないでしょう」


「でも、槍壊れてなかったか?」


「皮膚の強靭さが厄介でしてね。振るってたのは数打ち品の武器でしたので、相手の皮膚を貫けなかったのですよ。魔法で強化すれば通ったので、そこからは一方的です」


「数打ち品って。名槍とかじゃなかったのか」


「弘法筆を選ばずですよ、勇人様。別に武器が優れてる必要はありません、武器に頼るのは弱者のすることです。とはいえ、異世界においてはその理屈が通じないようで。次からは気をつけますよ」


 そう言って悪びれる様子も見せない青龍。


「あと、槍壊れても攻撃魔法があるだろ。なんで使わなかったんだ?」


 お次はこれだ。どうも青龍が縛りプレイしてるようにしか見えなかったのだ。俺に魔法を教えたのは青龍なんだから、俺と同等の魔法は使えるはずなのだ。強化魔法は使ってたから完全に縛ってるわけではないだろうが、攻撃魔法を使えばもっと簡単だったはずだ。


「あの時は周りの目がありましたからね。ギルドに得意武器を武器全般と書いた以上、攻撃魔法などそれに反することはできるだけ行いたくなかったのですよ。勿論、本当にピンチとなればそんなことは言ってられませんが」


「む……」


 今度は青龍はまともなことを言ったので、俺の方が言葉に詰まる。そこらへんちゃんと考えてたんだな青龍。なんも考えてなかった俺が恥ずかしくなる。


「じゃあ、次だけど……。ぶっちゃけこの王女様とかどう思う?」


 ここまでの会話は全部小声で行っていたが、この話題はさらに声を小さくして話しかける。


(勇人様。そこからは念話で)


 すると、頭の中に青龍の声が響く。なるほどこれが念話か。そういえば出来るって言ってたっけ。

 ってそうすると、念話できるんだったら、無理して青龍と同じ前列に配置しなくて良かったな。まぁ、今更言っても後の祭りだが。


(分かった)


 とりあえず、青龍に伝わるように意識して言葉を考える。


(ちゃんと出来ていますね。では、王女様についてですが、少なくとも自分自身が王女であると言うことは確信しているようですね)


(ん? どういうこった?)


 どうにも回りくどい言い方で気になった。王女であることを確信しているってどういう表現だよ。


(バレないように、あの三人に『センスライ』を使っていましたので。それによると彼女らは一度も嘘をついていませんでした)


 センスライとは嘘を感知する魔法である。青龍に教えてもらったから当然俺も使えるが、そうかそれを使うって発想はなかった。


(おい、得意武器。いや、でもこの場合は助かったと言うべきか。なるほど嘘はついてないから、少なくとも自分のことは王女と思ってることに嘘はないってことか)


(そういうことです。とはいえ、三人も同様に信じ込んでいると言う設定は無理がありますので、そう言う点からしても本物の王女であると言うのは間違いないでしょう)


 青龍のその念話にため息一つ。


(厄介だな。前島さんを抱き込んだ俺が言うのもなんだが、なんでこう厄介な人間ばかり集まってくるのか)


(人徳では?)


(そんな人徳ゴミ箱に投げ捨てたいわ)


(そもそも、悲鳴を聞いて助けに行ったのが運の尽きでしたね)


 青龍がそう言って嘆息するが、俺はそれに声を大にして反論する。いや、念話なので音量はゼロだが。


(そうは言っても、聞いてしまった以上知らん振りはできないぞ。アドミンが言ってたからな、世界を救うには俺が俺らしく行動することが重要だって。

あの悲鳴を聞いた俺に助けないと言う選択肢はない。とすると、これもまた世界を救う一手なのは間違いない)


(まぁ、私はその勇人様の自分らしさを実現するための手足となるだけです。今後もせいぜい私をこき使ってくださいませ)


(ああ、これからもよろしく頼む)


 なんかちょっとトゲを感じる言い方だが、青龍も俺が厄介ごとを抱え込むのは消極的反対なのだろう。俺が俺らしくと言っても、それで潰れては意味がないからな。

 そうやって俺と青龍が会話している間、後ろの方でも会話があったようで。

 前島さんとアンジェリカ王女が楽しそうに会話していた。


「サクラさんとおっしゃるのですね。よろしくお願いしますね、サクラさん」


「い、いえ、呼び捨てで構いません、王女殿下」


「殿下など。もはや私は死んだ身です。気軽にアンジェとお呼びください」


 訂正、楽しそうなのは王女様の方で、前島さんは全然楽しそうじゃなかった。こっちに助けと求めてそうな視線もきてる。まぁ、頑張れ。

 他の人はどうなってるのか見ると、アンナさんの方は従者だからか会話に参加することもなく、黙ってついてきてる。て言うか、メイド服で歩きにくくないのだろうか。

 ノーマンさんの方は周囲を油断なく警戒している。

 そういや、王女様は王女って聞いたけど、この二人が誰かは聞いてないな。メイドと護衛騎士って感じはするが。

 そう思った俺は、ワザとらしい大きな声で後方に話しかける。


「そういえば、そっちの二人は自己紹介してもらってないんだけど、何者かな? あ、俺はハヤト。ただの魔法使いだ。そっちは?」


「私は青龍と申します。勇人様の従者をしております」


 違う、お前の自己紹介は聞いてない。とは言うものの、青龍も自己紹介はしてないから丁度いいのだが。

 ていいうか、従者って紹介はなぁ。まるで勇者の従者みたいじゃないか。まぁ、青龍って散々配下みたいに呼んでたし、今更取り繕っても遅いのだが。


「失礼した、勇者殿。私はアンジェリカ王女殿下の護衛騎士のノーマン・フォン・キーツ。キーツ伯爵家の次男坊だ」


 おおっと、この人貴族かよ。まぁ王女の護衛騎士となるとそれなりの地位がないと成れないか。


「アンナリーナ・フォン・オライリーと申します。王女殿下の身の回りのお世話をさせていただいている、オライリー子爵家の三女です」


 こっちも貴族かよ。まぁ、こっちもこっちで平民が王女様の世話係なんて出来ないだろうけどさ。二人に対して不敬とかにならないか心配。


「えっと、あたしも自己紹介した方がいいのかな? サクラ。サクラ・マエジマよ。一応剣士ってことになるのかな?」


 周りが自己紹介したためか、前島さんも自己紹介をする。

 前島さんは名字も名乗ることにしたのか。名字って大体貴族の証明みたいなもんだけど大丈夫かな? まぁ、そうは言っても俺が前島さんと呼びまくってるから、隠すと「マエジマ」って何? になるから仕方ないかも知れんが。

 そう考えると俺が悪いのか、前島さん呼ばわりを許容した前島さんが悪いのか。

 でも、初対面の女子を名前呼びは正直俺にはハードルが高いです。まぁ、前島さんも俺のことと真宮寺さんって呼んでるしおあいこってことで。


「おや、サクラさんは神威の出身なのですか? 黒髪黒目ですしやはりあそこの出身者のようですね」


 神威? なんか聞いたことのない地名が出てきたな。これはあれかな、異世界ものにありがちな東洋の日本っぽい国でもあるのかな。

 しかし、それは向こうの勘違いなのだが、


「そ、そうなの! 神威から世間を知るために旅してるの」


 前島さんはその勘違いに乗ることにしたようだ。まぁ神威とやらからの出身となれば、勇者とバレることはないからな。

 全く、なんで俺が勇者を代行しなければならんのか。


「神威は独特の文化を築いていると聞きます。是非一度どんなものかお伺いしたいものですね」


「あはは、そ、そのうちね」


 前島さんは乾いた笑いで答える。大丈夫か、早速ボロが出そうだが。

 その後は特に何があるわけでもなく、六人連れ立って、城塞都市ガロへと帰還した。

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