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12.王女様

「危ないところを助けていただきありがとうございました」

 

仕立ての良い服を着たお嬢様っぽい人がこちらに礼を言う。


「あれだけいたモンスターをあっさり全滅か……。初心者と侮った非礼を詫びよう」


 護衛の人はこっちの殲滅力に驚いて謝罪をしてきた。まぁ、俺はひたすらマジックミサイル打ってただけでそんなすごくないんだが、すごいのは大物食いしてた青龍と雑魚散らししてたトウコツだ。


「まぁ、悲鳴が聞こえた以上無視するわけにもいかなかったからな。初心者と侮った件も、まぁ俺たち防具してないしな。そう思うのは無理もないさ。俺としては謝礼の一つでももらえれば気にする必要はないさ」


 そう言って、あえて謝礼狙いということを宣言する。無償で助けるよりも謝礼を要求された方が向こうも気に病まないだろうと判断してのことだったが、護衛と思しき人の表情が暗くなる。


「手助けは感謝する。……だが今の我々には君らに報いるだけのい物を持っていないのだ」


 そう言いながら馬車の方に視線をやる。

 うわ、これは失敗したな。無償で手助けの方が良かったか。でも、俺もお金欲しいし、何より無償で手助けって他の冒険者にも迷惑だろうしな。


「いえ、ノーマン。ここまでしていただいた方達になにもしないのは失礼です。物で恐縮ですが、このティアラならばそれなりの値段で売れるはずです。これでお礼とさせていただけないでしょうか?」


 そう言って、お嬢様の方が自分に付けていたティアラを外してこちらに差し出してくる。


「いや良い。そっちが余裕ないのは分かったから、謝礼はいらない。というより、そんな豪華なティアラ売る場所がない。逆にこっちが困る」


 そう、お嬢様が差し出してきたティアラは遠目でも宝石が散りばめられており、みるからに値打ちものと言った感じだ。そんなものを売るツテなどないし、もらっても本当に困るだけだ。


「で、ですが、折角助けていただいたのにお礼もしないのは……」


「気持ちだけ受け取っておくよ。それよりも今は重要なことがある」


 俺はそう言って、その場に倒れていた護衛達に近寄って脈を取る。


「こっちはだめ……。こっちもダメか、クソッ!」


 ひょっとしたらの思いを込めて、倒れ伏していた護衛達の生死を確認するが全員が事切れていた。


「勇人様。この方はまだ息があります」


 青龍がそう言って指したのは、場違いにメイド服を着ていた少女だった。


「よし! 『メジャーヒーリング』」

 

 俺はすぐさま回復魔法を唱えると、少女の治療に入る。魔法はすぐさま効果を発揮し、少女の目が覚める。


「か、回復魔法!? あれほどの傷を一瞬で!?」


 護衛さんが驚くが、回復魔法って貴重だったりするんかな。やってしまった感がなくはないが、死にそうな人を前にして使わない理由はない。ついでに、護衛の人にもいマイナーヒーリングをかけておく。二度目だからこっちはそんなに驚かれなかった。


「あ、あれ……私は?」


「アンナ! 無事だったのですね!」


「姫様……。そちらこそご無事なようで何よりです」


 おいおい姫様って。すげー嫌な予感がするんですが。


「そ、それにしてもオーガを単独で倒すとはすごい腕前だ。さぞランクの高い冒険者なのだろう?」


 護衛の人──もうノーマンさんで良いか──が、その場を誤魔化すようにこちらに聞いてくる。そんなんで誤魔化されんからな。とはいえ、この場は乗ってあげるのが優しさというものだろう。


「いえ、全員登録したてのFランクです」


 ていうか、装備でわかるでしょ。防具も満足に買えない初心者冒険者ですよ。


「え、Fランク!? そっちの女性もか!? い、いや、確かにランクと強さは必ずしも一致するとは限らないが、それにしたって」


 青龍の方を見ながらそういうが、青龍はその視線も気にせず涼しい顔だ。


「驚くに値しませんよ、ノーマン。この方々は勇者様とそのご一行なのですから」


 こいつ今なんつった?

 その言葉にビクッと前島さんが反応する。ひょっとしてこいつら前島さんを召喚した王国から来たやつなんじゃ。


「失礼かとは思ったのですが、あなた方を鑑定させていただきました。何分、誰が味方か分からない状況ですので、あなた方も刺客ではないかと疑っていたのです。そうではないようで安心しましたが」


「鑑定ね。他人の秘密を覗き見るとは趣味がいいとは言えないな」


 姫様の鑑定は人間も鑑定できるのか。それとも、この世界特有のスキルかな。アプレイザルはアイテム鑑定しか出来ないからな。


「そうですね、悪い趣味と言えるでしょう。ですので謝罪をば。

……その前にまだ名乗っていませんでしたね。私の名前はアンジェリカ・ノールズ・ウィンダミア。ウィンダミア王国の第一王女です」


「姫様!」


 嫌な予感が的中だな。まさか、王女様とは。ていうか、国名言われても分からん。


「ウィンダミア王国って、私が召喚されたフォルレイド王国の隣国で私たちが今いるこの国よ」


 疑問符を浮かべてた俺に気づいた前島さんがこっそりと耳打ちしてくる。なるほど、この国の王女様ってことか。


「この国の王女様ね。そんな方がこんな森奥で何をしていらっしゃったのでしょうか?」


「兄達にとって私が邪魔だったのでしょう。魔物寄せの香を仕込まれ、村の視察に行こうとした私たちを亡き者にしようとしたのです」


 しまった、聞くんじゃなかった。ていうかそんなにベラベラ喋るなよなー。王女様、自分が王族って自覚おあり?


「こうなってはもはや王宮には戻れないでしょう。そこで、勇者様にお願いがございます」


 アンジェリカ王女は俺の方をしっかりと見つめながら言う。

 あれ? そこは前島さんを見るべきでは? 嫌な予感再びなんだが。て言うか、王宮に戻れないってなんでだろう。何事もなかったかのようにシレっと帰ったらダメなんだろうか。まぁ、ひょっとしたら向こうさんにしか分からない事情があるのかも知れないが。


「勇者様。私も勇者様の旅に同行させていただけないでしょうか。先ほどは不覚をとりましたが、私も四属性魔法が使えます。決して足手纏いにはなりません」


 そう言って、俺の手を取るアンジェリカ王女。おい、ちょっと待て。


「待ってくれ、俺は勇者じゃないぞ」


 そう言って否定するが、アンジェリカ王女はにっこりと微笑む。


「大丈夫です、分かっていますよ。隠しておきたいのでしょう。フォルレイド王国が召喚した勇者は国から逃亡したと聞いています。それを考えると隠しておきたいのは納得できます」


「いや、だから……」


 助けを求めるように前島さんに視線をやると、前島さんは必死な形相でこっちにアイコンタクトを送ってきた。翻訳すると、そのまま勘違いさせろ! かな。


「いや、勇者はこっちの前島さんのほうだ。俺はただの付き添い」


 だが、俺がそれに応えてやる義理もないので、速攻でバラす。前島さんからの怨嗟の視線が突き刺さるが無視する。


「勇者はギフトを持っている。これはこの世界の者にとって常識です。あなたは二つもギフトをお持ちです。あなたが勇者様であることに疑いを持つ者はいないでしょう」


「いや、だからこっちの前島さんが……」


 なんてこった、ギフト持ちだから勇者と勘違いされたのか。だが、前島さんもギフト持ってるし、本当の勇者はこっちだ。なんとかそっちになすり付けられるようにあがくが、


「……そちらの方は鑑定しても何も見えませんでした。鑑定無効のスキルをお持ちなのですね」


 アンジェリカ王女はそれだけ言うと再び俺に向き直る。

 ガッデム。鑑定無効とか聞いてないぞ前島さん。やっぱステータス一部隠して伝えてたな。こっちはほぼ正直に答えたってのに。

 そう言うメッセージを込めて睨むが、前島さんはぶんぶんと首を横に振っていた。

 ん? なんか思ってた反応と違う。


「勇者様、いかがでしょう」


「いかがも何も俺は勇者じゃないし、足手纏いを連れて行きたくない。さっきは助けはしたが、俺はそこまで慈善事業家と言うわけじゃないんだ」


「貴様! 姫様に向かって!」


 ノーマンさんが俺に対して剣を抜きかねない勢いで文句を言う。いや、本当のこと言っただけなんだが。


「そうですか……。では、冒険の仲間ではなく情婦としてはどうでしょう? これでも体に自信はあります。今ならアンナもついてきますよ?」


「姫様!?」


「ぶっ!」


 いきなりのことに思わず吹き出す俺。情婦ってお前さん、王族がそんな体安売りするんじゃない。情婦とか言うから青龍の警戒度が上がったじゃないか。めっちゃ貴女のこと睨んでますよ。前島さんも絶対零度の視線を向けてくるし、勘弁して欲しい。


「分かった俺の負けだ。冒険の仲間として連れていく。で、来るのはそのアンナさんとノーマンさんも一緒か?」


 もうこうなってはそう言うしか残された道はない。自分を武器にこっちに脅しをかけてくるとか、王女様もなかなか肝が据わってる。


「感謝いたします、勇者様。はい、出来ればこの二人も一緒がいいです」


 そう言いつつ、少しホッとした表情なのは、やはり情婦と言っておきながら本当はそれが嫌だったのか。俺が紳士で良かったな王女様よ。


「じゃあとりあえず街に戻ろう。何をするにもまずはそれからだ。っと、その前に……」


 俺は少し広めの場所にかがみ込むと、地面に対して魔法を発動する。


「『エナジーバースト』」


 着弾地点を地中に設定し、地中で魔法を炸裂させる。ドカーンと大きな音を立てて土砂が吹き出す。

 うわっぷ。めっちゃ砂かかった。あとで綺麗にしないと。

 本当なら土を操って穴を開けると言うスマートなことをしたかったのだが、生憎古代魔法にそう言う魔法は存在しない。青龍曰く、属性魔法は精霊魔法の分野らしいから、精霊魔法だとそう言うスマートなことができるんだろうな。


 とりあえず、目の前に大きな穴が出来たので、そこに事切れていた護衛騎士達を運び込む。


「勇者殿……」


 俺の行動の理由が理解できたのか、ノーマンさんが全てを察した視線を向けながら同じように護衛騎士達を穴に運び込む。


「立派な墓じゃなくて悪いけど、野晒しよりはマシだろう」


 そして、遺品を回収したあと、みんなで協力して穴を埋める。そして、青龍がそこらの木を使っていつの間にか墓標を作っていたので、それを差し込む。

 南無阿弥陀仏。って通じないかな。まぁ死者を悼む気持ちは世界共通だから問題ないか。


「勇者様。騎士達を弔っていただいて感謝します……」


 そう言って、アンジェリカ王女はつーっと、一筋の涙を流す。

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