10.ゴブリン退治? 1
休憩してから、ゴブリン退治するべく森を歩いている俺たち三人。獣道よりは多少マシって場所を進んでるので、この世界に来た時よりは歩きやすいのだが、前島さんは歩きづらそうにしている。
そういや、靴だけはこの世界に来たときのままだったけど、靴も買ったほうがよかったかな? まぁ、買うにしろまずは金を稼がないといけないんだが。
「勇人様、なんらかの生体反応を見つけました」
「え? 俺のアラームには反応ないんだけど?」
しばらく歩いていると、青龍がそう言って立ち止まる。さっきかけたサーチアラームの効果まだ続いてるはずなのに反応ないんだが。
「まだ、敵対はしていませんからね。あと、それなりに遠いです。取り敢えず準備をしましょう。前島さんもよろしいですか?」
「わ、わかった」
前島さんがおっかなびっくり鞘から剣を抜く。なんか、見てて不安になるへっぴり腰だな。本当に剣技スキル持ってるのか?
まぁ、剣技に関しては俺もまだ素人の域を出てないからあんまり偉そうなことは言えないんだが。
「で、生体反応ってゴブリンなのか?」
「そこまではわかりません。とりあえず私が先頭に立ちます。勇人様は真ん中、前島さんは殿をお願いします」
青龍の言う通りの陣形を組み、森の中を歩いていく。すると、それほど時間もかからずに目標を発見した。
「全身緑色、邪悪っぽい妖精のような外見……。うん、ゴブリンだな」
「ゴブリンね」
前島さんと二人納得する。
そこに居たのは、全身緑の小柄な子供みたいな人型。醜悪な外見と少し尖った耳。どこからどう見ても、テンプレなゴブリンである。
それが三体。こちらには気付いていないようで棍棒のようなものを持ってのんびりしている。
「三体てことは一体ずつになるのか」
まぁ、Eランクのクエストだからゴブリンも雑魚だろう。ライトニングでも過剰火力かもしれん。前みたいに、エナジーバーストでまとめて処理してもいいんだが、前島さんの実力も見てみたいしな。
「いえ、勇人様、ここは私に任せていただけませんか?」
そう青龍が提案してくる。
あれ? こいつのことだから、実践経験を積む良い機会です、とか考えてるかと思ったのに。とは言え、こいつがこういう提案するときはなんかあるってことなので、
「わかった、任せる」
「では」
俺が承認すると、青龍は背中に背負った槍を手に持つと、ゴブリンの群れに突貫していった。
「ギギッ」
ゴブリンに許された言葉はそれだけだった。
青龍が突貫したと思えば、そこには既に首無し死体が三体出来上がっていた。首から勢いよく吹き出す血で周りが赤く染まる。その光景を見て──、
「お、おえええええ」
吐いた。
前島さんが。
「大丈夫か、前島さん」
女の子がゲロ吐いちゃまずいだろ、ゲロイン呼ばわりされちゃうぞ。
とは言え、気持ちは少しわかるので背中をさすってやる。
「大丈夫じゃないぃぃぃ……。おえっ」
まだしばらくえずいてる前島さんを介抱していると、青龍が血のりを拭きながらこちらに戻ってくる。
「やはりこうなりましたか」
やはりってことはこうなることを想定していたってことだよな。まぁ、やはりと言うか当然と言うか前島さんは戦った経験がない模様。
当然人型のグロい死体なんて見たこともないわけで。それに慣れてる俺の方が異常なのかもしれんが。
「あ、あんたよく平気ね……」
とりあえず、前島さんにハンカチを渡してやり、前島さんは口元を拭きながら力なくこちらを睨んでくる。
「まぁ、地球でも妖を相手に戦ってたからな。もっとグロいの見たことある、というか作ったことあるし」
「うっ……、想像させないで」
「わ、悪い」
俺の言葉で再び気分が悪くなったのか、えずこうとする前島さん。
「しかし、これではしばらく使い物になりませんね。今回は後方で私たちの戦いを見るだけにした方が良さそうですね」
青龍が落ちたゴブリンの首から耳を切り取りながらそう言う。
「だな。ま、前島さんは今回一回休みってことで」
「えーと、できればこれ以上グロいのは見たくないから街に戻──、れないよね、うん」
前島さんが街に戻りたがるが、青龍がひと睨みすると発言を撤回する。
「ま、こんなのは慣れだ慣れ。それに首無し死体なんてグロさは序の口だぞ? 一刀両断して内臓ぶちまけより全然大丈夫大丈夫」
「ちょっとやめてよね! わざとそんなのやったら怒るからね。フリじゃないからね!」
「それは青龍に言ってくれ。ほら、諦めてとっとと付いてくる。取りあえず今日狩れる分は狩らないとな」
そう言って進行を開始する俺たち。そして、また青龍が遠くからゴブリンの集団を見つけその場面に出くわす。
「お前の索敵、優秀すぎて怖いんだが」
「恐悦至極にございます」
今度見つけたのは、ゴブリン二体に一回り大きいゴブリンも一体と言う組み合わせだった。
あれはホブゴブリンとかいう奴かな? ホブって確か田舎のって意味で別に大きいとか言う意味じゃなかった気がするが、そこら辺を異世界に求めてもしゃあないか。
「では、私は通常のゴブリンを相手にいたしますので、勇人様は推定ホブゴブリンをお願いします」
「え? 俺の方が大物なの?」
「あの程度大丈夫ですよ。お手並み拝見です」
そう言われ、脳内で使えそうな魔法を検索する。青龍がお手並み拝見と言ったのは、ここで効率よく魔法を選べるかどうかを見てるのだろう。
まぁ、つまり俺が倒せないとはハナから思っていないと言うことだ。
流石に人間の限界超えて魔法を習得してるから、ホブゴブリン程度倒せないのはおかしいか。
しかし、困ったな。そうするとなんの魔法がいいか……。
「よし、これにしよう」
「では、行きますよ!」
言うが早いか、。青龍が走り出しゴブリン二体に肉薄する。さっきのリプレイの如く即座に二体の首をハネる青龍。
一刀両断で内臓ぶちまけは流石にやらなかったか。なんか青龍、前島さんに塩対応だから嫌がらせでするかと思ったんだが。そこまで非道ではないと言うことか。
取りあえず、青龍に大きく出遅れたが俺も飛び出し、ホブゴブリンに近づく。
「『ライトニング』!」
とりあえず手ごろに第四位階で打ってみることにした。
第一位階のマジックミサイルでは明らかに威力不足だし、第三位階のファイヤーボールでは森が延焼する危険性があった。それを考えると第四位階のこれが一番適当だろう。
だが、今回は以前より使用魔力を増やして使用している。多分ノーマルでも倒せただろうが、一撃で倒せないと後衛の俺はツライことになる。
その判断が功を奏したのか、雷が直撃すると大きく吹き飛ばされ動かなくなるホブゴブリン。
「念のため止めさしておくか」
そう言ってダメ押しのライトニング。ビクンと痙攣して再び動かなくなるホブゴブリン。
「お疲れ様です勇人様。ですが、最後のライトニングは不要でしたね。すでに死んでいましたし、とどめを刺したいなら近づいて心臓を刺せばよろしいのです。その方が魔力の節約になります」
「いや、流石に無抵抗のやつの心臓刺すのはまだ抵抗が……」
「まぁいいでしょう。今後の課題といたしましょう」
しかし、威力を増したとは言えライトニングで一撃だったのか。
あれ? そうするとその一撃に耐えた青葉って何者?
というか、俺そこまでの威力のやつを青葉に打ってしまったのか。今更ながら冷や汗が出てくる俺。
よかった! 奴が頑丈でよかった! 殺人になるところだった!
「何よ。あんただってまだロクに殺す覚悟ないんじゃない……」
前島さんが後ろから恨めしそうな声で話しかけてくる。
「流石に遠距離で殺すのと近距離で殺すのは覚悟が違うって言うか。ていうか、突っかかるなよ。お互い様だねでいいじゃん」
「ふん……」
前島さんは面白くないのか、それっきり黙ってしまう。
「ま、取りあえずノーマルゴブリン五体にホブゴブリン一体倒したが、まだ続けるか?」
「街に戻る時間を考えてもまだ余裕があります。もっと狩りましょう」
「オッケー。それじゃ続き狩るか」
「うえぇぇぇぇ」
前島さんの一人不満そうな声が印象的だった。




