9.所持スキル
俺たちは街を出て、受付に聞いた場所である近くの森まで来ていた。
近くと言っても、徒歩1時間ぐらいある現代人感覚だと割と遠い場所だ。
まぁ、街を出てすぐの場所にゴブリンが住み着いてたら、街の危険が危ないってレベルじゃないので割と現実的ではあるが。
しかし、俺は青龍の特訓で1ヶ月とは言え基礎体力を身につけていたので特に苦もなくこれたが、前島さんがバテた。
「ちょ、ちょっと休憩して良い? あ、足が……」
前島さんはインドア派なのか、足に来たようだ。
「まぁ、その状況だとゴブリンとロクに戦えないしな。ちょっと休憩にするか」
俺はそういうと、アイテムボックスからアウトドアチェアを取り出して前島さんに差し出す。
「これってキャンプ用の椅子よね……。本当準備が良いわね。ありがたく使わせてもらうわ」
俺もさらに二人分アウトドアチェアを出して青龍と共に座る。
「おっと、忘れるところだった。『サーチアラーム』」
俺は椅子に座った状態である魔法を唱える。こいつは指定した範囲に敵対的な反応があると知らせてくれる索敵魔法だ。
青龍に教えてもらった便利魔法の一つだな。攻撃一辺倒じゃないのが実にいいね、魔法。
「何それ?」
前島さんが俺の言葉に反応する。
「敵対的な反応が近づくと知らせてくれる魔法。奇襲を完全に防げるぞ」
「ほんと便利ね魔法。あたしも覚えられ、ないか。勇者は光魔法しか使えないみたいだし」
光魔法とか何それかっこいい。俺のギフトはアドミンによればこの世のあらゆる技能を身につけられるらしいから俺にも覚えられないかな?
それにしても、前島さんのその言葉で気になったことがある。いや、前から気になっていたというべきか。
「そういや、この世界ってスキルが存在する世界ってことでいいんだよな?」
「え? そうなんじゃない? あたしも最初ステータスシートとか言うの見せられたし、剣技スキルがあるって分かったのもそれだし」
「ステータスシートか。それすごい気になるな。どうにかして手に入らないかな?」
「どうなんだろ。王宮だから手に入った貴重品なのか、一般的に普及してる物なのか。でも、普及してたら冒険者ギルドが使いそうよね」
「そう言われりゃそうだな」
ステータスが視覚的に分かれば冒険者としての活動もしやすそうだもんな。
いや、でもあったとしても秘匿情報になるのか? そこら辺は世間の風潮次第か。
「で、ステータスってどんなもんだったんだ?」
とりあえず、雑談の取っ掛かりとして前島さんに聞いてみる。
「パッと見せられただけだから、詳細なのは覚えてないわ。剣技スキルがあったのと、光魔法があったのは覚えてるけど。後、ギフトの束縛無効ね。
それから、ステータスは数値じゃなかったわね。アレ、多分ランクか何かよ。比較対象がないからどのくらいすごいかは全然分からなかったけど」
意外や意外、前島さんは素直に教えてくれた。
てっきり、「言うと思う? そんな個人情報」って拒否されるかと思ったのだが。まぁ、前島さんもそんなに知りえた情報がなかったから教えてくれたのだろうが。
「で、あたしが言ったんだから、次はそっちの番よね? そっちはどんなステータス、いえ、どんな能力を持ってるのかしら?」
そう言って、前島さんはニヤリと笑みを浮かべてくる。なるほど、素直に教えてくれたのはこっちから情報を引き出すためであったのか。
とは言え、俺の能力なんて一部以外は教えても問題ないし、今後の連携の為にも教えておくのは悪くないだろう。
「使えるのは古代魔法と、一応無詠唱ってことになるのか? 日本刀はほぼ使えないから剣技スキルがあるとは言えないな。あぁ、あとアイテムボックスと召喚術が使えるな。とは言っても使える召喚獣が今の所1体しかいないから、レパートリーはないに等しいが、。あと秘密のギフトが一つ」
まぁ、流石にオールラーニングのことは秘匿させてもらう。一緒に旅してりゃいずれバレるとは思うので、伏線だけは張らせてもらうが。
「秘密って何よ」
「秘密は秘密さ。そっちがもっと詳細に教えてくれればこっちも教える気になるかも知れないぞ?」
「くっ……、まぁいいわ。とりあえずそれ以外のツッコミどころね。古代魔法ってなんかいかにもって感じだけどどんなのが使えるの?」
「色々、としか言いようがないな。翻訳したり鑑定したり、補助的なこともできるし、攻撃は勿論のこと回復もできる。でも、俺自身も古代魔法に関してはあんまり詳しくないからな。一つ言えるのは、いわゆる属性魔法、風とか水とかを操ったりってのは不得意って感じかな」
それは俺が古代魔法を習得して思ったことである。いや、一応自然の四大元素、地水火風を扱う魔法もあるにはある。
第一位階のクリエイトウォーターなんかそうだし、第三位階にはファイヤーボールというのもある。俺が好きなライトニング系列も、風と水の複合と言っていいだろう。
だが、そう言った一部以外は、なんというか純粋な魔法エネルギーと言えばいいのか、そう言った力を使用しての魔法が圧倒的に多かった。
「そう言った属性魔法は精霊魔法の分野ですね。大気に満ちる精霊たちを使役して魔法を行使いたします。古代魔法より省エネで強力な効果を生み出しますが、その場に使役したい精霊がいなければ使うことができないという欠点もあります」
青龍が横でそう補足する。
そんなのがあるのか。ていうか、もっとそういう基礎を教えて欲しいのにこいつ全然教えてくれないんだよな。実践主義というか、実際に使えるんだから基礎とかいいじゃんという空気をヒシヒシと感じる。
「ふーん、まぁ属性魔法以外の色々が出来るってことでいいのね。じゃ次。召喚術ってのは?」
「召喚獣のスキルだけを使用したり、召喚獣そのものを召喚したり、召喚獣を憑依させたりってことが出来るな。もっとも、さっき言ったように使役できる召喚獣が一体しかいないから、レパートリーは全然なんだけどな」
流石に今この場でトウコツを召喚するわけにはいかなかった。アイツ戦闘狂が過ぎるから、そのまま前島さんを殺しかねん。
「勇人様、一体ではありませんよ。二体です」
「え? トウコツ以外に契約してないと思うんだが」
「私ですよ、勇人様。私も勇人様の召喚獣ですよ。同じように召喚術を使っての使役が可能です」
「初めて聞いたんだが……」
「初めて言いましたので」
えーまじかよ。主従の契約をしてるとは言ってたが、召喚の契約もしてるとは知らなかった。というか、だからそういう大事なことはさっさと教えておけと。
そうすると、青龍を憑依させたり、青龍のスキルだけ使ったりってのも可能なのか。まぁ、そうするよりこうやって顕現させたほうが遥かに役に立つからしないけど。トウコツとは大違いだな。青龍万歳。
「あんたら大丈夫? そんな基本的なことを今更確認してるなんて、ちょっと不安になってくるんだけど」
前島さんが懐疑的な視線を向けてくる。言うな、俺も思ってるから。
「ま、まぁともかく俺のスキルはそんなとこだな。休憩もしたし、そろそろ動くか」
「えぇ、わかったわ」
そう言って、アウトドアチェアを片付けると森の奥へと入り込む。
ようやっとゴブリン退治だな。




