6.今後の予定
「それで今後のことなんだが、どうする?」
食事を終え、食後休憩をしながら俺は前島さんにそう切り出す。
「どうするって……。あたしはやっぱり元の世界に帰りたい、かな」
「元の世界に、か」
それは難しいことを言ってくれる。俺自身はこの世界の破滅を解決したらアドミンの手によって元の世界に帰れるが、勇者召喚された前島さんは破滅を回避したところで戻ることはできないだろう。
しかも、アドミンにそれを頼もうにも、今のあいつでは下位世界にロクに干渉ができないらしいからな。
世界端末ではない前島さんを元の世界に戻すのはアドミンにはおそらく不可能だろう。
「悪い、その願いは私の力を超えている」
「シェン○ンかっ!!」
前島さんは俺にそう突っ込むと、そのツッコミが恥ずかしかったのか顔を赤くしながら顔を背ける。やっぱ、前島さんオタクだな。このネタに反応できるってことは。
あとどうでもいいけど、シェ○ロンってモロに東洋の龍ってイメージだから、青龍の真の姿ってあんな感じなんかな? と益体もないことを思ってみる。
「ま、まぁ、今のは冗談だが。元の世界に帰る、か。ならその方法を探しながら俺に協力してはくれないか? もちろん俺も君が元の世界に帰ることに協力しよう」
「協力って、世界の破滅を救うって奴? ……正直そんな大それたことあたしに出来るとは思わないんだけど。
て言うか、私は翻訳魔法を人質に取られてる形なんだから、言葉を覚えるまではあんた達についていくしかないって言うか……」
まぁ、やっぱり前島さんは現状を正しく認識してるよな。普通に俺と一緒に行くのは警戒して嫌がってたし。脳内お花畑じゃないのは、よくもあり悪くもありと言ったところか。
「俺は前島さんの勇者としての何かが必要だと思ってる。だから極端な話前島さんが戦闘で役立たずで足手まといであっても構わない。最悪戦闘は俺たちに任せてくれればいい」
「はっきり言うわね……。これでも勇者としてのスペックはそれなりにあるんですけど?」
「なら、活躍してもらうだけだ。ただ飯ぐらいのお姫様でも構わないとは言ったが、ちゃんと力があるのに力を発揮しない姫プレイを許容するほど俺は酔狂じゃない」
俺がそう言うと、前島さんはしまったと言うような表情を浮かべる。自分が失言をしてしまったと気づいたようだ。
まぁ、言わなきゃ、俺が言ったようにお姫様プレイが出来たもんな。
「でも、正直スペックを発揮できるか分からないから不安っていうか……」
今更予防線を張るかね。まぁ、女の子だしここで蛮勇を出されても困るところではあるが。
「そんなの俺もそうだぞ。魔法はそこそこ使える自信はあるが、接近戦はてんでダメだしな俺。剣術の師匠からは及第点にも達してないって言われたし」
「日本刀提げてるのに?」
「一応、接近された時用と、ハッタリ用にな。まぁ、半分飾りだなこれは。それに前衛は俺じゃなくて青龍に任せれば良い。こいつあり得ないぐらい強いからな」
「お任せください。我が身を持って勇人様をお守りいたします」
そう言って、軽く頭を下げる青龍。
守るのは俺たちじゃなくて、俺なのね。まぁ、青龍の主は俺だから当然っちゃあ当然だが、そこは少し前島さんにも配慮して欲しかった。
「と言うわけなんだが、どうする? 俺たちについてきてくれるか?」
「そうね……。わかった、あなたたちに付いていくことにするわ。て言うか、それしか選択肢はないんだけど」
そう言って自嘲気味に笑う前島さん。まぁ俺らが居なかったら、言葉の通じない異世界に放り出されるわけだからな。そりゃ最初から選択肢はないか。
「オッケー、それじゃとりあえずは路銀稼ぎから始めようか。あ、この世界って冒険者とかのシステムあるのか?」
「あるみたいよ。私も詳しくは知らないけど、王宮から逃げてる途中で冒険者ギルドとか見かけてことあるし」
翻訳魔法がかかってないのになんで文字読めて……、ってそうか途中までは翻訳されてたんだったな。
「じゃあ、しばらくは冒険者をして金を稼ぎながら旅をするとするか。まずその前に……」
「服と武器防具を買わないとな」
※ ※ ※ ※ ※
俺たちはまず古着屋に向かい、適当な服を購入した。
前島さんは新品が欲しかったみたいだが、「こんな時代では新品などオーダーメイドが全てです。勇人様のお金ですのに、そこまでお金をかけるおつもりですか?」と青龍がネチネチ説得したため、諦めて古着を買った前島さん。
ついでに青龍も古着で揃えたが、女の服ってば現代でも中世でも金がかかるもんなんだな。着替え数着に寝間着に下着にと買うものが多い。
俺? 俺は適当に着替えと下着だけだよ。寝間着なんてそのまま寝るか最悪裸で寝ればいいし。
古着を買った俺たちはようやく、この世界の住人になじむ格好になれたと思う。食事してる時も結構周りの視線が痛かったしな。
あと、アイテムボックスを誤魔化すために、大きめの鞄を買っておいた。この鞄から取り出す振りをすればそれほど怪しまれないだろう。
ちなみに、前島さんが前着ていた制服や、通学鞄などは俺がアイテムボックスに預かっている。そこら辺は前島さんも葛藤があったみたいだが、余計な荷物を持って死ぬよりはマシと考えたのだろう。
「変なことに使ったら殺すからね!」と顔を赤くしながら俺に制服を預けてきたが、俺は別に制服フェチじゃないのでそんなことはしない。俺は紳士なのだ。
服を買った後は武器屋だ。俺と青龍の武器は間に合っているが前島さんは丸腰だ。何かしら買わないと戦うことも身を守ることもできない。
「どんな武器がいいんだ?」
武器屋で色々な武器を見ながら、前島さんに声をかける。
しかし、武器屋だけあって色んな武器があるなぁ色んな武器があるな。剣は言うに及ばず、槍や斧、弓など。ファンタジーで存在する武器なら一通りあると言っても良いだろう。
「やっぱ、剣かな。剣技のスキルあるし、勇者といえば剣のイメージ強いし」
スキルとかあるのかこの世界。て言うか、その剣技スキルとやら是非とも欲しいんだが。剣技だけはなぜか全然習得できる気配がないからなー。
「なら、予算の範囲を考えるとこの辺りか。『アプレイザル』」
今の残金を考え、買えそうな範囲の剣たちを鑑定魔法で鑑定する。
そうすると、武器の上に文字のようなものが浮かび、武器の詳細な情報が表示される。うん、やっぱり使えたな。第九位階もなんのそのって感じだ。
「よし、これだな」
表示された鑑定結果を見ながら、一番性能のいいものを選ぶ。残金ギリギリだが、性能的にはこれが一番いい。
「え? こっちの方がよくない?」
「そっちは耐久に難ありだ。こっちの方が総合的に見て強い」
前島さんが選んだ剣を見るが、そっちは確かに攻撃力が高かったが、耐久がもう少しで壊れそうになっていた。こんな不良品置くなよって思う。て言うか、前島さん審美眼あるのか? 攻撃力高い剣ピンポイントで選んでる。まぁ、耐久を見てないから審美眼があるとは言えないか。
「耐久に難ありって……。ひょっとして鑑定のチートまで使えるんじゃ」
「鑑定はギフトじゃなくて魔法だな。あくまで技術だ」
「な、なんて羨ましい……」
前島さんが羨む視線を向けてくるが、俺に付いてくる限りその恩恵を受けれるんだから別にいいだろ。
他には何ごともなく前島さん用の剣と剣帯を買い、俺たちは武器屋を後にする。本当はこの後防具屋に寄って防具も買い揃えたい所だが、ちょっと奮発しすぎたので、予算切れだ。しばらくは防具なしで行くしかない。
さて、それじゃ冒険者ギルドに向かうとしますかね。




